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第6話

総司の療養所―


総司が朝、目を覚ますと、ふと庭の方へ顔を向けた。

日が高いというのに、すずめは来ていない。


総司「ああ、また来ているのか。」


総司はそう言って、庭で寝そべっている黒猫を見た。

この黒猫が訪れてから、すずめが来なくなっていた。


総司「おはよう。黒猫殿。」


総司がそう言うと、黒猫はくいっと首だけを起こし、総司を見た。

が、やがて目を細めて、また寝てしまった。


総司「…すっかり、なめられたもんだな…」


総司はそう言うと、ゆっくりと体を起こした。

その時、姉のみつが現れた。

先にふすまを開いたが、後ろにいる老婆に頭を下げている。

総司は嬉しそうに顔を輝かせた。


総司「姉さん、おはよう。」


みつはふすまを閉めると返事を返して、微笑んだ。


みつ「具合が悪いようだと聞いて心配していたけれど…元気そうじゃないの。」

総司「いつもと変わりませんよ。」


総司はそう言ってにこにことした。姉が来ると、元気になってしまう。…というよりも、つい元気に見せてしまうのである。

みつは微笑んで総司を見たが、ふと庭を見て、とたんに表情をこわばらせた。


みつ「!!…黒猫…あの猫のせいね!」


総司はぎくりとして、あわててみつに言った。


総司「良いんだ、姉さん。あの猫はね…私をああやって怒らせようとしているんだ。」

みつ「?…怒らせようと?」


総司はうなずいた。


総司「怒らせて、私が元気になるのを待っているんだよ。…きっと。」


総司はそう言って、黒猫を見た。黒猫は、頭だけを上げて、きょとんとした目で、姉弟を見ている。

みつは笑った。


みつ「…総司が考えそうなことね。あなたがそう思っているのなら、姉さんも何も言わないわ。」


みつはそう言って「ちょっと待っててね」と、部屋を出て行った。

総司は、縁側に四つん這いで這っていき、あぐらをかいて座ると、猫に言った。


総司「よかったよ。…姉さんにかかったら、例えあなたでも、どうなるかわかったもんじゃない。」


それを聞いた猫は、また目を細めて見せると、頭を下ろした。

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