第54話
総司の療養所-
総司は朝ごはんを黒猫と食べた後、また横になった。
長く起きている気力がなくなってしまっているのである。
黒猫は満腹になったためか、今日はどこにも行かず中庭に寝そべっている。
総司は、うとうととし始めた。
総司(…無性に眠いな…もう目が覚めなかったらどうしよう…)
姉がいなくなってから、眠る前にいつも、そう思ってしまうようになっていた。
生きる気力すら萎えてしまっている。
総司(…中條君…早く迎えにきてください。…どうして、いつも私を追い返すのです?…私だって、山南さんや藤堂さんや…)
総司は、そこまで思ってから、ついに眠りに落ちた。
………
その時、療養所の本宅に客が来ていた。
たまたまその時、外へ出ようとしていた主人が出迎えたのだが、思わず息を呑んだほど、澄んだ瞳を持った男だった。
「井上宗次郎殿に会いに来ました。私は礼庵と申します。」
男が名乗った。
主人は、すぐに思い出して「ああ、あなたが…」と言った。
主人「土方様からのお手紙に、礼庵という医者が来たら丁重にお迎えするように…とありました。…ですが、もしかするとお越しにならないかもしれないので、宗次郎殿には黙っておくようにともありました。宗次郎殿が落胆なさるといけないからと…」
それを聞いた男が、何を思ったのか伏目がちに苦笑いした。
主人は思わず、食い入るようにその顔を見ていた。
「すぐに宗次郎殿にお会いしたいのですが…構いませんか?」
しばらく主人が黙り込んでしまったので、男が困ったように尋ねた。
主人「あ…もちろんでございます。どうぞ、こちらへ。」
男は丁寧に頭を下げると、履物を脱ぎ、主人について中へ入っていった。




