第50話
総司の療養所―
朝、総司は床の中でぼんやりと考えていた。
総司(…起きようかな…このままずっと寝ていようかな…)
そう思いながら、じっと天井を睨んだままでいる。
姉がいた時は、姉に心配をかけないようにと、体が少々だるくても起き上がるようにしていた。
…が、もう、そんな気遣いをする必要がなくなっている。
総司は閉じられたままの障子に目をやった。
まだ朝早いのだろう。老婆は来る様子がなかった。
総司(近藤先生はどうされているのだろう…どうして文をくださらないのだろう…?)
…余談ながら、姉が庄内へ行ったその日、近藤は土方の止めるのを聞かずに、官軍へ投降してしまっている。
処刑されるのも時間の問題であった。
…が、その日は姉のみつでさえも知らずにいた。
もちろん、総司に伝えられることもない。
それでも、総司は近藤からの文を待ち続けている。
毎朝、老婆が来るたびに、「近藤先生から何か連絡はありませんか?」と聞いているが、老婆は首を縦に振ることはなかった。
総司「…黒猫殿…起きているのかい?」
総司が少し布団をあげてそう言うと、黒猫がのそのそと中から出てきた。
そして、顔を出した瞬間、「くしゅん」とくしゃみをした。
4月も中旬を過ぎたというのに、まだ肌寒い。
総司は思わず笑った。
総司「まだ中へおいで。一緒にいよう。」
総司がそう言って、黒猫を自分の体に引き寄せた。
黒猫は、されるがままに動かない。
総司「いい子だ。」
今、総司の心を支えているのは、この黒猫だけである。
礼庵が、江戸に来ようとしていることすら、全く知らないでいた。




