第49話
総司の療養所―
総司はふと目を覚ました。
日がすっかり暮れており、中庭に面した障子が閉じられている。もちろん、傍には誰もいない。
総司「…姉さん…行っちゃったか…」
そう呟いて、ぼんやりと天井を見つめた。
起き上がろうという気力は、もはやない。
独り取り残されたような、寂しさが募っていく。
その時、障子をがりがりと削るような音がした。
総司「!!」
総司は一瞬飛び起きようとしたが、はっと何かの声に気づいた。
「…ニャァ…ニャアン…」
がりがりという音と一緒に聞こえるその声は、紛れもなく猫の声だった。
総司「黒猫殿…」
総司は胸が熱くなった。体を起こし、急いで障子を開いてやった。
黒猫が、行儀よく座っている。
総司「…いらっしゃい。…今日は随分と遅かったんだね。」
黒猫は目を細めた。
そして、いつものように、総司の膝に顔を何度もこすりつけてから、膝の上で丸くなった。
総司「黒猫殿…もしかすると、私が独りになってしまったことがわかっているのかい?」
黒猫はくいっと顔をあげ、総司を見上げた。そして目を細めた。
「ニャアン」
そう言うと、再び総司の膝に顔をうずめている。
総司「…やっと聞かせてくれたね…君の声。…案外優しい声なんだな。惚れ直したよ。」
総司は黒猫の体を撫でながら、言った。
黒猫は、ちらっと片目だけを開けて総司を見、そしてまた閉じた。
総司「ふふふ…まんざらでもないようだ。」
総司はそう言うと、障子の間から見える月を見上げた。
…さっきまでの寂しさが薄れていくのを感じていた。




