第48話
総司の療養所―
総司は姉みつの膝に頭を乗せて、体を横たえていた。
九才の時と同じ、別れの前に膝枕をねだったのである。
みつはずっと、整えたばかりの弟の髪を撫で続けていた。
そして、途切れ途切れになりながら、子守唄を唄っていた。
弟はじっと目を閉じている。
気持ちよさそうだった。
総司「…姉さん…まだ…時間は大丈夫?」
みつ「大丈夫よ。何も気にしなくていいのよ。」
みつの声は涙でうわずっていた。しかし、総司の閉じた目には涙もなく、ただ幸せそうに微笑んでいる。
みつ「総司…死んではだめよ…。姉さん、帰ってくるからね。…きっと帰ってくるから…それまで…死んでは駄目よ。」
みつは、体を折り、総司の頭を抱くようにして言った。
総司「うん…姉さん。…待ってるからね。」
総司は目を閉じたまま言った。
みつ「…総司…総司、お願い…目を開けてちょうだい。」
総司の唇が震えた。…涙を堪えている顔になったが、しばらくして目を開いた。
真っ赤に充血している目から、堪えていた涙がぼろぼろとこぼれた。
みつ「…きっと帰ってくるからね。…気を落としてはだめ…よ。」
涙声で言う姉の言葉に、総司はうなずいた。
そして、じっと姉の目を見上げたまま言った。
総司「もう…眠るよ。…姉さん。」
その言葉にみつはぎくりとした。
「眠っている間に、帰っていいよ」という総司からの暗号なのである。
みつは言葉もなく、ゆっくりとうなずいた。
みつ「ゆっくりお休みなさい。総司…。眠るまで抱いているから。」
総司はうなずいて、目を閉じた。
その目から、涙が幾筋も流れ落ちた。




