第47話
総司の療養所―
姉、みつの恐れていた日がとうとう来た。
明日にも、荷物をまとめて江戸を出なければならない。
ずっと恐れてはいたが、あまりにも唐突だった。
みつは、しばらく家の中で泣いた。
……
総司はいつものように縁側にすわり、外を見ていた。
総司「今日は姉さん、来るのかなぁ?…どうだと思う?黒猫殿。」
総司は膝の上の黒猫に尋ねた。
毎朝、必ず顔を出してくれる。
黒猫は丸くなったまま動かないでいる。
やがて、ばたばたという足音がふすまの外から聞こえた。
総司「姉さんかな?…でも、姉さんらしくないなぁ。」
総司がそう苦笑した時、「総司、入りますよ。」という声がした。
…しかし、何かいつもの声色と違う。
総司「どうぞ。」
総司は姉に振り向き、いつものように微笑んだ。
総司「おはよう。姉さん。」
みつは必死に何かを堪えているような表情をしていた。
総司「?…どうしたの?」
さすがの総司も姉の様子がいつもと違うことに気づいた。
みつ「…総司…姉さん……庄内へいかなければならないの。」
総司「!!!」
総司は笑顔を消した。
総司「…そう…」
やっとの思いでそう答え、顔を上げた黒猫を見下ろした。
総司「…そう…」
もう1度言った。動揺して言葉が出ない。黒猫はじっと総司の顔を見上げている。
しかし、総司はしばらくして明るい表情を姉に向けた。
総司「…もう…今日でお別れ…なの?」
みつはうなずいた。声を出すと、涙が溢れ出そうな気がしたのである。
総司は突然、柔和な笑顔を見せた。
総司「…今までありがとう…姉さん…。忙しかったのに…わがまま言ってばかりでごめんなさい。」
みつ「……」
まるで子どものような総司の言葉に、みつは黙ったまま首を振った。




