第46話
総司の療養所―
総司は姉みつの膝を枕に体を横たえていた。
みつは、もう縫い物をせずに、総司の顔を見下ろしていた。
みつ「ねぇ…総司、憶えてる?」
総司「…なに?…姉さん。」
弟が目を上げて、姉を見た。
その顔は、みつには幼い頃と変わらないように見える。
みつ「…あなたを試衛館に行かせる前の晩…私に膝枕をねだったこと…」
総司は目を閉じて笑った。
総司「…そんな前のこと…」
忘れるはずがない。あの時は、もう一生姉と会えないものと思っていた。…でも、言わなかった。
総司「…もう、忘れたよ。」
みつ「まぁ!…姉さんは、あなたと別れてから、ずっとあの時のあなたの寝顔を思い出しては、泣いていたのに。」
総司は驚いて目を開いた。
総司「!…本当に?」
みつ「本当に決まっているじゃないの…。」
みつは怒ったような顔をしてみせたが、やがてくすっと笑った。
みつ「…でも…今は試衛館に行かせてよかったと思っているわ。…近藤さんや土方さんはとてもあなたを大事にしてくれたもの。」
総司「ん…」
総司は目を閉じた。
そして、京にいた頃の近藤や土方のことを思い出していた。
総司(…会いたい…会いたい…)
念じるように何度もそう思っていた。




