第44話
総司の療養所―
総司は縁側で、お手玉を投げながら、頭をかしげている。
総司「みさはこうしてたかなぁ???どうだったかなぁ…」
必死に記憶をたどる、なかなか思い出せない。
時々、軽い咳をしながらも、必死に思い出そうとしている。
その後ろ姿を、いつものように縫い物をしながら、みつがおかしそうに見ていた。
総司「姉さん、知らない?…いろんな投げ方があったんだけど…」
みつ「ごめんなさいね。…姉さん、わからないわ。」
みつは、小さい時から親の手伝いをしていたので、お手玉で遊んだ記憶がない。
何度かは、あったのだろうが…。
総司「そうかぁ…。どうだったかなぁ…」
総司は一所懸命にお手玉をあっちに投げ、こっちに投げ…しながら、一人遊んでいた。
退屈しのぎに丁度いいらしい。
総司は、しばらく遊んでいるうちに、やがて思い出すのをあきらめて「あー疲れた」と背伸びをした。
そして、後ろにいる姉に振り返った。
総司「ねぇ、姉さん…」
そう言いかけて、ふと口をつぐんだ。
姉が針を持ったまま居眠りをしているのである。
総司「…あぶないなぁ…」
総司はこくりこくりと体をゆらしている姉の手からそっと針を抜いた。
そして、まだ糸のつながっている布を、姉の膝の上からそっと抜いて、横に置いた。
姉は気づかずに眠っている。
総司「…よく、座ったままで寝られるなぁ。」
総司はどうしようか…と思案したが、そっと自分の肩にかかっている羽織を姉の背中に乗せた。
すると、姉の体がぐらりと揺れ、総司によりかかった。
総司「!…おっと…」
総司は思わず姉の体を支えた。
姉はまだ目を覚まさない。
総司(…姉さんの肩って…案外小さいんだ…)
そう思った。小さい頃、よく姉に手を引かれて、買い物などへ連れて行ってもらった。大きく思えたその手も、今は小さくみえる。
総司「…疲れてるんだね…ごめんよ。私のために…」
総司は姉を抱いたまま、そっと呟いた。




