第42話
江戸 総司の療養所―
総司の姉、みつは縫い物をしながら、縁側にいつものように座っている総司に言った。
みつ「…ねぇ…総司…。礼庵先生…ってどんな方?」
総司は突然礼庵の名が、姉の口から出たので驚いた。
総司「姉さん…どうしてその人の名を?」
みつ「いえね…前に土方さんが江戸へ来られた時にお名前が出たのよ。」
みつは、手紙のことは言えないので、そう言うしかなかった。
みつ「京でお世話になったんですってね。」
総司「そう…。土方さんは、嫌っているように見えて、実は頼りにしていたのかなぁ…」
みつは驚いて、思わず縫い物の手を止めた。
みつ「土方さん、嫌っていたの?」
総司「ん…。その人…本当は女性なんだけど…男姿をしているんだ。」
みつ「…どうして…男姿を?…」
総司「わからない…。私にも最後まで「女」だと言わなかったし…。…土方さんは「男姿をする女なんてろくな奴いない」って嫌っていたんだけれど…」
みつ「そう…」
手紙に書いてあったことと、随分違う…とみつは思った。
土方の手紙には「丁重に扱うように…」とあったのに…と。
総司「京にいる時に、好きになった女性がいてね…。私のことだけじゃなく…その人のことも大切にしてくれた…。」
みつ「…まぁ…」
総司「…私がここにいることも知らないと思うよ…。…どうしているんだろう…。」
みつは、総司によけいなことを思い出させたような気持ちになった。
総司は、礼庵のことを思っているのか、その後ひと言も口を聞かなくなった。
みつが帰る時間になっても、総司は縁側に座ったまま動かない。
みつ「総司…姉さん、帰るからね。」
そう声を掛けたとき、総司ははっとしたようにみつに向いた。
総司「うん。ごめんよ、姉さん。…明日…は…?」
みつ「もちろん、来るわよ。」
総司「そう…よかった…。」
総司はほっとしたような表情になり、「じゃぁ、明日ね」と姉に笑顔を向けた。
みつも笑顔を返した。
みつ(…一層…寂しい気持ちにさせてしまったみたいだわ…)
みつは、そう思った。




