第39話
総司の療養所―
夕方、総司は縁側に座ったまま、暮れていく空を見ていた。
黒猫は、もういない。
いつも暮れる前にどこかへ行ってしまうのだ。そして、朝になるとまたどこからか現れる。
総司「今日も早かったなぁ…」
そう思っていると、あわただしい足音がして、いきなりふすまが開いた。
総司「!!」
総司はとっさに腰を浮かせたが、入ってきた人物を見て、ほーっと息をついた。
総司「…姉さん。驚かさないでくださいよ。」
みつ「よかった…無事で…」
みつはその場に臥せって泣き出した。総司は目を見開き、姉の傍までにじり寄った。
総司「どうしたの…姉さん?…」
姉の背にそっと触れると、みつは総司の首に抱きついてきた。
総司「!!…」
みつは、昼に官軍の兵士が来たことを、老婆から聞いたのだった。
老婆が大丈夫だと言おうとしたが、もうその前に総司の部屋に走りこんでしまっていた。
みつ「姉さん…もう…寿命が足りなくなってしまう…」
みつは総司に抱きついたまま言った。
総司「大丈夫だよ、姉さん。どんなに寿命が縮んでも、姉さんは長生きするから。」
みつ「…本当に…この子ったら…」
みつは総司を抱いたまま泣いた。
そして、総司は姉のぬくもりを感じながら、じっと目を閉じていた。
……
総司は床に寝ている。
その横で、みつはいつものように縫い物をしていた。
みつ「やっぱり…明日から、毎日来るわね。何が起こるかわからないもの…」
総司はくすりと笑った。
総司は、昼に姉がいなくてよかった…と思っていたのである。
あの狼狽ぶりからすると、官軍の兵士の前でも何を口走っていたかわからないと…。
みつ「なぁに?…何を笑ったの?」
総司「ううん。何でも。」
みつ「…何か言いたそうだけど…?」
総司は体を横にして、姉に背を向けた。
総司「もう寝よっと。」
みつ「…嫌な子ねぇ。」
みつはそう言いながらも、ふっと表情を緩めた。何よりも、弟が無事でよかった…。そう思い、再び縫い物を続けた。




