第36話
江戸 総司の療養所―
総司は姉みつの変化に気づいていた。
最近、毎日のように総司の様子を見に来ては、暮までずっといる。
総司(…何かあるんだな…)
総司は姉と別れる日が近い日を予感していた。
その日も、姉はいつものように朝から総司の様子を見にきた。
みつ「あら!」
みつは、縁側に座る総司を見て、嬉しそうにした。
みつ「今日は具合がいいのね。久しぶりだわ。あなたがそんな風に座っている姿を見るの。」
総司はにこにこと微笑んで、姉に振り返った。
総司「おはよう。姉さん。今日もいい天気だね。」
みつ「そうね。」
総司はにこにこと微笑んだまま、庭に向いた。
総司「…あのね…姉さん」
みつ「なぁに?」
総司「…こうして縁側に独りで座っていると…京のことを思い出すんだ。」
みつ「まぁ、どんなこと?」
みつは何も知らず明るく尋ねた。
総司「新選組の屯所ではね、最初は井上さんとか…斎藤さんと一緒の部屋だったんだけど…屯所が大きなところに移ってからは…一人部屋になったんだ。」
みつ「出世したのね。」
みつはなおも明るく答える。
総司「最初は寂しかったけれど…だんだん、一人に慣れてきて…そのうち、静かなところでじっとしているのが好きになってきたんだ。」
みつ「そう…でも…何か寂しいわね。」
総司「…うん。…でも…独りが気楽でいいよ。…気を…遣うことはないし…」
みつ「……」
みつは総司のいいたいことが、おぼろげにわかってきた。
毎日来られては、総司自身気を遣うのだといいたいのだろうと…。
みつ「…いけない…姉さん、大事な用を忘れていたわ。…悪いけれど、お昼から帰っていいかしら?」
総司はこちらを向かないまま「うん」とだけ答えた。
みつ「ごめんなさいね。…すっかり忘れていて…。」
総司「いいよ。」
総司は抑揚のない声で答えた。
みつはしばらく声を出せないでいたが「ちょっと汚れ物を洗ってくるわね。」と言って、部屋を出て行った。
総司は黙って、庭を見つめている…。




