第34話
五兵衛新田-
近藤は、月を見上げていた。永倉・原田と訣別し、土方と共にここまで来たのである。
土方も隣に座り、月を見上げている。
ここで、新規の兵を募ったところ、ほぼ50人ほどになった。
もちろん兵としては、まだ足りない。
近藤「歳さん…総司はどうしてるかなぁ…」
土方は、ふいに視線を膝に落とし、黙っている。
近藤「最後にあったのが、もう大分前のような気がするよ。…骨ばかりの姿で、ずっと泣いていた。…何度思い出しても…哀しいばかりだ…」
土方は何も言わなかった。ぴくりとも動かない。
近藤「…歳さんも、会いに行きたかったんじゃないのか?どうして行かなかった…?」
近藤のその言葉に、土方は力なく首を振り、消え入りそうな声で言った。
土方「…泣いてしまいそうだから…さ。」
近藤「え?」
近藤は聞き違えたのかと思い、「何て言った?」と聴き返した。
土方「あいつを見たら、泣いてしまいそうだからさ。」
今度は、はっきりと言った。そして自嘲気味に笑った。
土方「…案外…俺ァ涙もろいからな。…きっと、あいつの前で泣いてしまう…。」
近藤「泣いたらいいじゃないか。私だって総司の前で泣いたぞ。…」
土方「近藤さんはいいんだよ。…でも、俺は泣いちゃ駄目なんだ。」
近藤「…わからん理屈だ。」
近藤はそう言って笑い、再び月を見上げた。土方も一緒に月を見上げた。
土方「この戦に勝ったら会いに行くよ。…すべてが終わった時に。…勝って、笑顔で会いに行く。」
近藤は月を見上げてうなずいた。
近藤「そうだ…とにかく勝たなければな…」
近藤は強い口調で、自分に言い聞かせるように言った。




