第33話
江戸 総司の療養所―
総司は今日もぼんやりと庭を眺めていた。
総司(…近藤先生…どうしたんだろう…。文を下さるって言ってたのに…)
総司は近藤からの文をずっと待っていた。新選組が今どんな状況なのか、総司には全く知らされていない。
総司(土方さんも…相変わらずなのかな…)
総司はうつむいた。自分独りだけ、取り残されたような気持ちでいる。
総司(この腕が…もっと動いたら…)
総司は自分の腕を見た。すっかり骨ばっている。とても、京にいた頃のように動けそうになかった。
ふと気づくと、黒猫が中庭にちょこんと行儀よく座っている。
総司はにっこりと微笑んだ。
総司「黒猫殿…おはよう。」
黒猫は朝に夕に必ず顔を出す。昼間は何か用があるのか、必ずいなくなるのだが…。
総司「おいで…」
総司は膝を叩いて、黒猫を呼んだ。黒猫は、それを合図に縁側へ飛び乗る。不思議と、総司が膝を叩くまでは、縁側に上ってくることはなかった。
その時、ふすまの外から老婆の声がした。総司が返事をすると、老婆はふすまを開いて入ってきた。
老婆「宗次郎さま、おはようございます。」
総司は頭を下げた。
老婆「今日、みつさまは、来られないそうです。」
総司「そうですか…。ありがとう。」
老婆は頭を下げて出て行った。
総司「姉さんも…忙しいんだな。」
そう呟いて、じっと自分を見上げている黒猫に向いた。
総司「…私はきっと…独りきりで死ぬんだろうね…。」
黒猫はただ黙って総司を見つめるだけである。




