第31話
総司の療養所-
みつが総司の部屋に入ると、総司は気分がいいのか、縁側に座って庭を眺めていた。
みつ「…おはよう…総司。」
総司「おはよう、姉さん。…いい朝だね。」
みつ「そうね。」
みつは、まだ土方からの手紙のことを引きずっている。それが、顔に出てしまっているらしい。
総司「どうしたの?…姉さん。…体の具合でも悪い?」
みつ「いいえ。大丈夫よ。」
みつは笑顔を見せた。しかし、どこか引きつっているようである。
総司は何かを感じたようだが、知らぬ振りで庭に向き直った。
みつ「朝ごはん、できているわよ。食べる?」
総司「…いらないよ。」
みつ「また、そんなことをいって…。」
総司「…食欲ないんだ。」
みつ「ねぇ、総司…」
総司「後で食べるよ。」
みつ「わがまま言わないの…せっかく、こちらの人が作ってくださっているんだから…食べなきゃだめよ。」
総司「……」
みつ「…ねぇ、姉さんを困らせないで。」
総司「……」
みつ「総司…」
みつは総司の横に座り、黙り込んでいる総司の顔を覗き込んだ。
みつ「まぁっ!嫌だわ!この子ったら!!」
みつは思わずそう声を上げた。総司は必死に笑いを噛み殺していたのである。
みつの困る声が楽しかったらしい。
総司は笑いながら言った。
総司「ごめんよ、姉さん…。だって、姉さん、何か深刻な顔をしてるから…。ちょっとね…」
みつ「人を困らせて喜ぶなんて、嫌な性格だこと。」
みつは怒った表情で言った。しかし本気で怒ってはいない。何か心の奥でほっとしていた。
総司「京にいる時にもよくやったんだ。若い子なんかにね。…中條君なんか何度やっても騙されるから、おかしかったなぁ…」
みつ「ああ、よく話してくれる真面目な男の子のこと?」
総司「うん。びっくりすると、目がとても大きくなるんだ。それを見るのが楽しかった。」
みつ「本当に意地悪な子ね。誰に似たのかしら。」
総司「そうだなぁ…どちらかというと土方さんかなぁ。」
土方の名前が出て、みつはぎくりとした表情をした。
総司「いや、近藤さんかも。…案外、子どものようなところがあったから。」
総司はそう言ってくすくすと笑っている。
みつ(土方さんや近藤さんとは血がつながっているわけじゃないのに…。でも…仕方がないのかもね。…あなたを育ててくれたのは…あの人達なんだもの…。)
みつは少し寂しい気がした。




