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第30話

総司の療養所 朝―


みつはいつものように、老婆に挨拶をして総司のいる部屋へ入ろうとした。

が、その時、主人に呼び止められた。


主人「みつさん、すいません。…土方殿から手紙が届いているんですが…」

みつ「まぁ!土方さまから?」


みつはうれしそうな顔をした。総司が聞けば喜ぶだろうと思ったのである。

しかし、その手紙を差し出す主人の顔は何か険しかった。

みつはその主人の様子に気づいて、手紙を開いた。


手紙は、最初に総司を預かってもらっていることへの礼からはじまり、療養所へ行けないことへの謝罪が書いてあった。

しかし、問題はその後だった。

江戸で戦い続けたいという、永倉と原田と別れ、近藤と流山へ行き、新たに屯営を作って戦うというのである。


みつ「!!…まぁ…それじゃぁ…」


みつの手が震えた。江戸から離れてしまうということは、総司とも会えないということになる。

そして手紙の続きには「何があっても、どのような悪い情報があっても、総司には伝えないでほしい」と書かれてあった。

総司が生きている限り、皆が元気でいると思わせていてほしい…とあった。


みつ「……」


みつは、思わずその場に座り込んで、手で顔を覆った。

総司には、この手紙の存在すら伝えられない。それが辛かった。ずっと独りで仲間が訪れてくれることを待っている総司に、少しでもなんらかの情報を伝えてやりたいのが、姉としての気持ちである。…しかし、皆、戦いの真っ最中で来られないのだ。


みつはしばらく泣いていたが、やがて顔を上げ、続きの文章を読んだ。

そこには、初めて聞く名前が記されてあった。


みつ「…礼…庵…?」


総司が京にいる時に、世話になった医者だとあった。その医者に総司が江戸にいることを手紙に書いて出しておいたから、恐らく療養所を訪れるであろうことが書いてあった。


みつ「まぁ…あの子はいろんな人に迷惑をかけて…」


みつは、涙を拭いながらそうつぶやいて、次の文章を読んだ。


『…ですが、その医者の都合によっては、そちらにいけないかもしれないので、総司には内緒にしておいてください…。来ると思っていてそれが叶わなかったら、気を落とすでしょう…。それほど、総司にとっては大事な友人であり、精神的にも支えてもらっていた人です。そしてもし、その医者が訪れたら、丁重にお迎えください。よろしくお願いいたします。』


みつは、うなずいた。手紙に向かって、涙を流しながら何度もうなずいていた。

みつには、その「礼庵」という医者が来てくれることだけを、信じるしかなかったのである。

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