第25話
総司の療養所―
総司はいつものように、縁側に座り、外を眺めていた。
まだ、近藤の訪問を夢のように感じている。
その時、総司の部屋に入るふすまの前で、姉のみつが表情を固くして座っている。
実は、主人が遣えている庄内の藩主が江戸を引き払い、帰ってしまった…という話を聞いたからである。
藩主が帰ってしまったのなら、藩士である夫も帰らねばならない。
…ということは…総司をおいて、江戸を出なければならないということになるのである。
みつ(…どうしよう…)
みつは、総司をおいて江戸を離れたくない。しかし、この時代には、夫から離れるわけにもいかなかった。
みつ(その時になるまで黙っておこう…)
みつは結局、そう決心した。
どうしても今は、総司には言えない話であった。
みつは、必死に表情を明るくして、ふすまを開いた。
みつ「おはよう、総司。」
総司はいつもの微笑でみつに振り返った。
総司「おはよう。姉さん。」
みつ「今日は顔色もいいようね。…さぁ、汚れ物を出して。洗ってあげるから。」
総司「うん。…いつもごめんね…。」
みつ「いいえ。どういたしまして。」
みつはつとめて明るく見せた。総司との別れが迫っている。しかし、総司にそれを悟られたくなかった。
…それでも…必ず別れの日は来てしまうのである。
今のみつには、その時のことを考えないようにするしかなかった。
総司「姉さん、今日はいい天気だね。…だんだん暖かくなってきたし…」
総司が明るい声で、みつに言った。




