第20話
総司の療養所―
総司は寝ていた。
陽が落ち、外が暗くなってきている。
体を起こす力も気力もなかった。しばらく寝たきりになるだろう。
京にいた頃は、咳き込んでも、そして血を吐くことがあっても、一晩体を休ませれば、動くことができた。
しかし、ここへ来てからは、2・3日動けなくなることが多くなった。
用を足すのも、老婆に手を借りなければならないほどである。
総司「…情けないな…本当に私は…「沖田総司」だったのかな…」
そう呟いた。
……
「沖田だっ!新選組の沖田総司だっ!」
総司はその声とともに囲まれた。
もう聞き飽きるほど、その声は聞いている。
総司は白刃に囲まれ、ゆっくりと高下駄を脱ぎ捨てた。
総司(…いやだな…名前が一人歩きしてしまっているようだ…)
総司はそう思った。自分自身は、さほどそれほどの腕はないと思っている。
どちらかというと、永倉や斎藤の剣が好きだった。
しかし、ここで引いては、沖田という姓の名折れにもなるし、組にも迷惑がかかる。
総司「仰るとおり、新選組の沖田です。…手加減はしませんよ。」
総司は静かにそう言い放った後、刀を抜いた。
……
ふと総司は現実に戻った。
中庭に黒猫が来たのを見たからだった。
黒猫は庭にお座りをして、床に横たわったままの総司を見つめている。
総司「黒猫殿…情けない姿をお見せして申し訳ない。」
総司がそう言うと、黒猫は縁側へひょいと飛び乗った。
総司「足の方は治ったようだね。…さぁ、おいで。」
総司が手を伸ばすと、黒猫はその手に顔を摺り寄せた。
総司は微笑んで、黒猫のされるがままに手を差し出している。




