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第2話

総司の療養所―


最近、総司は老婆を「おかあさん」と呼ぶようになっていた。

特に深い意味はない。その方が呼びやすかったのだった。


老婆「おかゆをお持ちしました…でも、本当にこれだけでいいんですか?」

総司「いいんです。なんだか食欲がなくて…。どうもありがとう。」

老婆「…でも…みつさんからは、もっと…」


「みつ」とは、毎日、総司の様子を見に来てくれる姉の名前である。


総司「わかっています。…でも、出してもらっても、きっと残してしまうから…」


総司はそう言ってから、はっと何かを思い出したような表情をした。


老婆「?…どうしました?」

総司「ああ、いや…。いただきます。」


総司は目の前に差し出された碗を取り、さじを受け取った。その目は、赤くなっていた。


総司は中條ちゅうじょう英次郎のことを思い出したのだった。

京にいる時、最後まで総司の体を思い、自分の食事を作ってくれていたのは、平隊士の中條だった。

中條は、新選組に入る前まで旅館で下働きをしていた。その時に料理の腕を磨いたらしい。

いつも総司の具合を見、味付けにも気を遣って、総司の食事を作っていたのだった。


…その中條は、この年の1月3日、鳥羽伏見の闘いで仲間をかばい、銃弾に斃れた。21歳の若さだった。

入隊時から、何かと死を恐れず無茶をする青年だった。その度に叱責した。「自分より先に死ぬな」と諭したこともあった。

…江戸に向かう富士山丸の中で、同じ一番隊だった山野 八十八やそはちから、中條の最期の言葉が「先生に謝って」だったと聞いた時、総司は溢れる涙を抑えられなかった。


……


総司は涙を落としながら、老婆の作ってくれたおかゆを食べた。おかゆの中に自分の涙が落ちていくのを見ながら食べた。


総司(中條君…ごめんよ…もっと…君の作ってくれたご飯をたくさん食べておけばよかった…)


心の中でそう謝りながら、総司は食べ続けた。

老婆はそんな総司に気を遣ってか、そっと部屋を出て行った。

総司の口から、とうとう嗚咽が漏れた。


総司(…どうして私が生き延びてしまっているんだろう…どうして…)


涙はとめどなく、総司の頬を流れ落ちていた。

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