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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
九章 最後の戦いと魔女の末路

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85話 ようやく気が付いた恋心


「とにかくお城に戻ろうと思うんです」

 ヴェルディが味方かもしれない。

 その話を聞いた時は戸惑ったが、時間が経つにつれプラティナはむしろそれはすごいことなのではないかと思ったのだ。

 ゴルドたちとの話し合いは一旦区切りをつけ、四人は休憩してくれてかまわないと明け渡された部屋で話し合う中で、プラティナはそれが一番いいのではと考えた。

 ヴェルディはシャンデの宰相としてこの国をずっと支えてきた重鎮だ。

 みんなの推測通り、彼がプラティナを巡礼の旅へと送り出した張本人ならばきっと助けてくれる。

「お城に戻ってヴェルディから話を聞きましょう! 彼ならレーガに立ち向かえる術を知っているかもしれませんし!」

 もともと、巡礼を終えたら王都に帰るつもりだった。レーガからこのシャンデを取り戻すのだと。

 鼻息荒くそう伝えると、アイゼンは盛大な溜息を吐いた。

 ノースもまた苦笑いを浮かべて肩をすくめてみせる。

「単純なのわかっています。でも私はそれが最善だと……」

「わかってる。そう声を張り上げなくても反対はしない」

「そうそう。あまりにも想像通りだったから面白かっただけ」

「……えっ?」

 てっきり反対されると思っていたのに、アイゼンもノースも反対するそぶりさえない。

 むしろどうヴェルディに会えばいいのかという算段まで立てはじめている始末だ。

「うちのギルド長がさ。神殿から攻めてるみたいなんだよね。何人か仲間に引き込んだみたい」

「なるほどな。ならば神殿にヴェルディを呼び寄せるのが一番いいだろう。城はレーガの根城だからな」

「あ、いいねぇ。じゃあギルド長に連絡してなんとか連絡を取ってもらうようにするよ」

 てきぱきと主役そっちのけで語らう姿をぽかんと見つめていたプラティナだったが、じわじわとこみ上げてくる喜びのまま二人に向かって両手を伸ばした。

「ありがとうアイゼン、ノース!」

「まだ早い。計画がうまくいくとは限らないんだ。油断するな」

「はい!」

「そうそう。弱まったとは言え、レーガは魔女なんだし警戒してるはずだよ。安全のためにも俺たちの指示に従ってね」

「わかりました」

 信頼できる二人の言葉に頷いていると、人の姿になったアンバーが後ろから抱きついてきた。

「僕がみんなを王都まで連れて行くからまかせておいて!」

「頼もしいわアンバー!」

 山の麓からここまで飛んできたよりも距離はあるが、成長したアンバーが本気を出せば半日もかからず王都に辿り着けるのではないかとアイゼンは計算していた。

 だが、龍が王都に急にあらわれれば騒ぎになる。

「まずは最初にお前にあった町まで行こう。あそこの聖地まで飛んでいって、そこからは徒歩で王都に入る」

「りょーかい。じゃ、ガゼルとセインに連絡を取っとくよ」

 懐かしい名前にプラティナはぱちりと大きく目をまたたく。アイゼンも驚いたのか目を丸くしていた。

 ガゼルはあの町のギルドマスターで、水を浄化したことに感謝してくれたり、アンバーの従魔登録を勧めてくれたりとずいぶんと親切にしてくれたのを覚えている。

 セインは冒険者で、とっても優しい人だった。

 まさかノースと知り合いだったとは。

「セインとは同期なんだよね。んで、うちのギルド長とガゼルは犬猿の仲でさぁ」

 けらけらと笑いながら、ノースは二人とは知り合いであることを教えてくれた。

 そして旅を進める中でガゼルからプラティナたちの情報を聞き出していたらしい。

「ガゼル、プラティナちゃんの正体にあとから気が付いたみたいで、もっと報奨金を出しておけばよかったって後悔してたよ」

「そんな……あの時、十分すぎるほどよくしていただいたのに」

 あのお金があったおかげで、その先の旅ではずいぶんと楽ができた。

 アンバーと出会うことができたのも、ガゼルがいたギルドが水の汚染についての調査を冒険者に依頼していたからだ。

 従魔登録についてもずいぶんと気を利かせてくれたのだと今ならわかる。

「プラティナちゃんは忘れてるかもしれないけどさ、王都やそれに近いギルドは全部聖女様の薬で助かってたんだ。ガゼルは昔は王都にいた冒険者なんだけど仕事で大怪我を負ってね。聖女様の薬がなかったら引退していたかもしれない」

 そんな繋がりがあったなんてと驚けば、ノースは優しく微笑む。

「聖女様はさ、これまでずっとこの国の人間を助けてきたんだ。だからみんな聖女様を助けたいんだ」

「……でも、そのせいでご迷惑が」

「むしろ迷惑をかけてほしいから、遠慮なく頼ってよ」

 どんと胸を叩いてみせるノースに困ってアイゼンを見れば、彼もまた同じく胸を反らしていた。

「こういう時は使えるものは何でも使うべきだ。相手が君に恩を感じているなら、十分じゃないか」

「だよねぇ! セインは王都にも顔が利くから、うまいこと侵入できる経路がないか調べといてもらうよ」

「ついでに王都に潜入するための道具も頼む」

「まかせて~!」

 止める間もなくノースはどこかに消えてしまった。

 アイゼン曰く、特別な通信道具をつかって話を付けに行ったのだろういうことだ。

 おいてけぼりになった気持ちでアイゼンを軽く睨めば、悪戯っぽい笑みが向けられた。

「たまにはふりまわされるのも悪くないだろう?」

「どういう意味ですか」

「そのままの意味だ」

 わけがわからないとプラティナは子どものように頬を膨らませたのだった。

 ノースがいなくなったことで部屋の中はプラティナとアイゼン、そしてアンバーだけになる。

 なんだかこの三人だけになるのは久しぶりな気がすると思っていると、アイゼンも同じ気持ちになっていたらしい。

「久しぶりだな、こういうのは」

「そうですね」

 アンバーは話に飽きたのか、プラティナの膝の上でころころと転がっている。

「旅をはじめた時は、まさかこんなことになるとは思わなかった」

「本当ですよね……」

 出会った時、プラティナは自分の死を覚悟していたし、アイゼンだってプラティナが死ぬまで見守ってくれるくらいの気持ちだったはずだ。

 それがまさか国を巻き込んだ大きな騒動にまで発展してしまった。

 今さらながらにアイゼンへの申し訳なさが募った。

 メディのせいで自由を奪ってしまっただけではなく、プラティナのせいでこんな大変なことにまで加担させて。

「あのアイゼン、ご」

「謝罪ならお断りだ」

「えっ」

 謝ろうとしたプラティナの言葉をアイゼンが思いきり遮った

「君の旅を助けると決めたのは俺だし、ここまで来たのもすべて俺の意志だ。君が負い目に思う必要は欠片もない」

「で、でも」

 アイゼンはそういうが、もしあの時、彼がプラティナと歩む道を選んでいなかったら、今頃は自由気ままな冒険者生活を送れていたはずだ。

 この広い世界を旅して、もっとたくさんの出会いがあったはずなのに。

 それを奪ってしまったのは紛れもなくプラティナなのに。

「言っておくが、俺は後悔なんてしてないぞ」

 まるでプラティナの心を読んだような口調だった。

「もしあの場で君と別れていたら、俺は再び生きるために冒険者に戻っていただろう。だがそれは死んでいないと言うだけだ。一番大事な仲間は守れず、何の目標もなく、寿命が尽きる日を待つだけの人生だった。これまでのように」

 どこか遠くを見るアイゼンの表情には虚しさが滲んでいる。

「でも君が俺を変えた。弱々しくて危なっかしくて、そのくせ妙に思いきりがよくて馬鹿みたいにお人好しで優しくて……もしもっと早く君に出会えていたら、俺はもう少しまともな人間になれてただろうな」

「アイゼンは素敵な人です! 強くて賢くて、私をこれまでずっと守ってくれました!」

「……ありがとう。君がそう言ってくれるから、俺はもう少し真面目に生きてみたいと思ったんだ。だから最後までつきあう。プラティナ、君の存在は今の俺が生きる理由だよ」

 目の奥がつんと痛んだ。

 泣いてはいけないと思うのに、視界がゆるりと揺れる。

(ああ、私はこの人が好きだ)

 人を特別な意味で好きになるという意味がわからなかったから気付なかっただけで、きっとずっと前からアイゼンはプラティナの好きな人だったに違いない。

 何があってもアイゼンがいてくれる。

 そう思えたからこそプラティナはここまで笑ってこられたのだ。

「だから謝るな。君に謝られたら、俺の立つ瀬がないだろう」

「はい」

「この先も、何があっても必ず守る。君の願いが叶うまでは必ず支える。だから前を向いてやりたいことを思いっきりやってこい」

「……はい」

 返事をする以外の言葉がうまく出てこない。

 ありがとうだとか、嬉しいだとか、全部が終わっても傍にいてほしいだとか、伝えるべき言葉はたくさんあるはずなのに、人生経験が伴わないせいでこんな時にどんな風に気持ちを伝えたらいいのかがまったくわからないのだ。

 情けなくて不甲斐なくて、こんな自分の傍にいてくるアイゼンが愛しくて。

「私、頑張ります」

 必ずこの国を取り戻す。そして胸を張ってこの気持ちを伝えよう。

 それまではこの想いは胸に仕舞っておく。アイゼンを困らせるのは望むところではない。

 決意を新たにしていると、姿を消していたノースが戻ってきた。

「無事に連絡が取れたよ。あの町まで行ければ、セインたちが王都まで案内してくれることになった。王都の方はうちのギルド長がなんとかしてくれてる」

「そんな簡単に!?」

 あまりにもトントン拍子すぎて戸惑っていると、ノースがにんまりとした笑みを浮かべた。

 それは先ほどアイゼンから向けられた笑みによく似ており、プラティナはまさかと軽く身を引く。

「いやぁ、いつもは驚かされっぱなしだからそういう反応は新鮮で楽しいね」

「ノースまで!」

「だってさぁ。なぁ?」

「そうだな。気持ちはわかるぞ」

 そんなに自分は彼らを振り回していたのだろうか。

 なんだか釈然としないものを感じながらも、プラティナは呼吸を整えてノースに向き直る。

「助けていただけるのは嬉しいのですが、皆さんに危険はありませんか?」

 それがとにかく心配だった。

 これからやろうとしていることは、国のためではあるが半分はプラティナが責任を取るべきことだ。

 もし失敗すれば、レーガは間違いなくこの国を壊してしまうだろう。

 反逆者としてプラティナはよくてこれまで通り幽閉、最悪の場合、命を落としかねない。

 それを手伝った仲間たちがどんな目に遭うかなんて、正直想像もしたくない。

「大丈夫だ」

「アイゼン?」

「これまで君は、俺たちを散々驚かせるような奇跡ばかり起こしてきた。今さら、あんな魔女なんかに負けるわけがない」

「そうそう。なんてったってプラティナちゃんは凄腕の聖女様だからね」

「プラティナ! 僕が傍にいるんだよ! 絶対負けないよ!」

「アンバー……ノース……」

 みんなの言葉にじわりと涙が溢れてくる。

 こんなにも自分を信じ助けてくれる仲間がいることが、とても心強い。

「あっちは絶対に油断しているはずだ。君は余命わずかだからと追放された身。力を搾取されなくなったことで多少の回復は予想されているだろうが、まさかここまで健康になっているとは思っていないはずだ」

 何故かどこか自慢げにアイゼンが胸を張る。

 ノースもうんうんと頷いていた。

「わかる。おれが神殿や城で情報収集してた時、周りの連中はもう二度とプラティナちゃんは帰って来れないと信じ切ってたもん。巡礼の旅のことだけ知ってた一部の神官なんて、命を賭けて巡礼に向かった聖女様を祀る銅像を建てよう! なんて話をしてたし」

「どっ……銅像」

 想像して思わず固まっていれば、アイゼンが我慢できずに吹き出していた。

 アンバーは意味がわからなかったのか「銅像って何だ」とノースに尋ねる始末だ。

「あっちは弱ったプラティナちゃんを想定しているはずだから、それを利用するべきだと思うんだよね。こっちにはアンバーって大きな切り札もあるわけだし」

 ぱちんと片目をつむって見せたノースに、アイゼンがなるほどなと応える。

「確かにそれはいい案だ」

「でしょう?」

 再び二人だけで話を通じ合せる姿に、プラティナはたまらず声を上げる。

「もう! 二人だけで話さないでください! 私だって手伝いたいんです!」

「わかったわかった。ちゃんと説明するから、そう拗ねるな」

「ごめんて。じゃ、本気の作戦会議といこうか」

 楽しげに笑う二人に恨めしげな視線を向けながら、プラティナはその間におさまり話し合いをはじめたのだった。


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