表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
八章 最後の聖地と恋心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/102

84話 宰相の正体


 アイゼンたちが出て行ってから二刻ほどが経っていた。

 すでに朝日は昇りきり、周りはすっかりと明るい。

 あの悲鳴を聞いて起きてきた人も多く、みんな不安そうな顔をしている。

「プラティナ」

「アンバー、アイゼンたちは大丈夫かな」

 プラティナの不安を和らげるためか、腕の中に収まるサイズになってくれたアンバーをひしと抱きしめる。

 龍として覚醒したアンバーはどんな姿になっても人のように言葉を発せられるようになったらしい。

「大丈夫だよ。二人とも強いもん」

「そう、だよね」

 負けるとは思っていないが、なんだか嫌な気持ちだった。

 これまではずっと一緒にいろいろなことを乗り越えてきたのに、完全においていけぼりだ。

「早く戻ってくるといいね」

「……うん」

「プラティナはアイゼンが大好きだもんね」

「うん……えっ!?」

 返事をしてすぐにプラティナは上擦った声を上げた。

 アンバーはそんなプラティナの動揺に気付いていないのか大きくあくびをする。

「す、すす……好きって、どうして」

 何故知っているのかと聞きたいのに唇が震えてうまく言葉が出てこない。

 あわあわと慌てていると、アンバーは不思議そうに翼を小さく羽ばたかせた。

「ちがうの?」

「ちが、わないけど」

「だよね!」

 嬉しそうに声を弾ませたアンバーは琥珀色の瞳をきらきらと輝かせた。

「僕も二人が大好き! ずっと一緒にいようね!」

(あ、そういう)

 どうやら自分が勘違いしただけで、アンバーの口にした「好き」には深い意味はないようだ。

 ほっとしながらも心臓はドキドキうるさい。

 確かにアイゼンのことは好ましいと思うしかっこいいし頼りになるとは思っているが、それがひとつ先の「好き」なのかわからない。

 周りにいる人たちのことはみんな好きだ。アンバーもノースも、ゴルドたちのことだって。

 でもアイゼンのことを思うと、それよりももっと大きくて温かな気持ちになる。

 これが特別ということなのだろうかと考えていると、人々のざわめきが聞こえてきた。

 顔を上げれば、向こうから歩いてくる人影が見えた。

「アイゼン!」

 腕にアンバーを抱いたまま立ち上がり、駆け寄る。

 並び立って歩くアイゼンとノースはプラティナに気が付くと手を振ってきた。

 みたところ怪我をしているようには見えないが、大勢を相手にしてきたのならば何があったかわからない。

 二人を信頼はしているが、不安だった気持ちはどうにもならない。

「大丈夫でしたか? 怪我はしていませんか? 二人とも無事ですか!」

「落ち着け」

 つい矢継ぎ早に質問してしまったプラティナだったが、アイゼンの優しい声のおかげでほっと息を吐いた。

 ここを出て行った時から何も変わっていない様子に心から安心する。

「俺たちは平気だ」

「そうそう。あっちはわからないけど」

「あっち?」

 ノースが指さしたのは二人の背後だ。

 先ほどまでは気が付かなかったが、二人の後ろには小さな馬がおり荷車を引いていた。

 荷車には傷だらけの男性が三名ほど寝転がっている。

 見たところ兵士のようだったが、一人だけどう見ても貴族のような衣装を着ていた。

「……? え……ツィン!?」

 完全に気絶しているそれはかつての婚約者ツィンだった。

 頬と目の辺りが無残に腫れ上がっているが、面影がある。

「えっ、これ、どうしたんですか?」

「すっごい抵抗してきて黙らせるためにちょっとね。大丈夫、死んでないよ!」

 ものすごい笑顔で告げるノースの横ではアイゼンが静かに頷いていた。

「抵抗されたからな。こっちも反撃しないわけにはいかない。君、そいつらは治癒するなよ。命には関わらない程度に手加減はしてある。下手に回復させて集落の連中に危害を加えたら困るだろう?」

 淡々とした口調にそうかそういうものかとプラティナは素直に頷く。

「他の連中はオアシスの外に捕らえてる。こいつらが司令塔だったからあっちはほうっておいても大丈夫だろうし」

 そう言って居るとゴルドたちもかけつけてきた。

 気絶したツィンたちを引き渡し、オアシスの外にも何人か捕らえてあると伝えれば彼らはすぐにそちらに向かっていった。

「大丈夫でしょうか」

「問題ないだろう。レーガの迫害からここまで逃げ延びて集落を築くような強さがある連中だ。心得はあるさ」

「そうそう! 何にせよここはもう大丈夫だよ! 襲撃される心配なし!」

 ここに暮らす人々への脅威がなくなったことは喜ばしいことだ。

 でも二人がそのために戦ってきたという事実はやはり苦々しいものがある。

「でも……」

「大丈夫だ。君が不安に思うことは何一つない」

 大きな手がプラティナの頭を優しく撫でた。

 本当? と問いかけるように見上げれば、アイゼンは頷いてくれる。

(信じよう)

 これまでも、きっとこれからもアイゼンはいつだってプラティナの味方でいてくれると言ったのだから。

 自分に言い聞かせるように呟いて、プラティナはしっかりと頷いた。



「あいつらは逃げた聖女様をとにかく捕まえることだけが目的で、草の民については何もしらなかったみたい」

 再び集まったゴルドをはじめとした草の民たちは、ノースとアイゼンの報告に心から安堵していた。

 通信道具の類いは持っておらず、とにかくプラティナを追って捕まえるようにと命令させていた傭兵ばかりだったこともあり、それ以上の有益な情報はなかった。

 捕えた数名に加え、ツィンは重傷ではあるが命には別状がなく、このままこの集落にある牢屋に捕らえておくことになった。

 傷が癒えたあとは、砂漠の向こうにある国境付近で解放するつもりだと教えられ、プラティナは少しだけほっとする。

「王都の方はうちのギルド長があれこれやってくれてる。女王の支配がどんどん弱まってるのは間違いないって」

 王都のギルド長は、プラティナの置かれていた境遇を市井の人々に広めているのだという。

 これまでは女王の魔法により無意識に近い部分を操られ盲信的になっていた人々も、だんだんと真実に気が付きはじめているのではないかというのがノースのみたてだ。

「問題は、これからどうするかだ。レーガがこのまま黙っているとは思えない」

 その通りだと思う。

 レーガは卵だったアンバーを龍から奪い、大地の力を奪った。

 その上、プラティナからもずっと魔力を奪い続けていたのだ。

「私とレーガを繋いでいた鎖は消えました。まだ呪いの影響はありますが、もう一方的に力を奪われることはありません。アンバーも同じです」

 もしかしたら囚われていた間、アンバーもプラティナと同じように何らかの術をかけられたのではないかと危惧していたが、ずっと卵だったことが逆に幸いして肉体には何の痕跡もなかった。

 完全に龍として覚醒した今、魔女に負けるとは思えない。

「だが相手は国を乗っ取ろうと考えるような魔女だ。魔力の供給が絶たれることを予想して、何らかの対策を採ってる可能性がある」

「私もそう思います」

 加えてレーガ自身にも魔力があるのは間違いない。

 無策で飛び込んでいっても勝てないだろう。

 考えれば考えるほど気が重くしていると、場を和まそうとしたのかノースが「でもさ」と声を上げた。

「俺は立ち会えなかったけど、プラティナちゃんは巡礼を終わらせたんだよね? おめでとう!」

「ありがとうございます」

「長い旅路だったんだし、おつかれさま」

「ふふ、そうですね」

 労りの言葉に少しだけ気持ちが軽くなる。

「あいつらもびっくりしたんじゃない? 追い出すための巡礼の旅がまさか自分たちの首を絞めるなんて」

「本当です、よ……ね?」

 ふふっと笑ったプラティナだったが、ノースの言葉にはっと息を呑む。

 巡礼の旅を押しつけられた時は死にに行けと言われているも同然だと思っていた。

 だが、結果としてこの巡礼はレーガを追い詰めるものになっている。

「……おかしく、ないですか?」

「何が?」

「私を追い出したのがレーガの意志ではなく、ツィンやメディの画策だったとしても、何故巡礼だったのでしょうか」

「何故って」

「ほかにも追い出す方法はいくらでもあったのに。あの聖句だって、ただの聖句ではありませんでした」

 プラティナの言葉にアイゼンもまた何を言いたいのか察して顔色を変えた。

 彼はもともとプラティナの護衛という立場だった彼だからこそ、あの時起きたことのおかしさをひしひしと感じているにちがない。

「もしアンバーに出会えてなくても、聖地を巡れば私が真実に気が付く可能性が高かったはずです。ここまで来れたらゴルドさんたちにだって出会ってしまう」

「……確かに。俺はてっきり巡礼ってことにしておけば国民に説明できるからだと思ってたんだけど」

「でもノースさんが言っていたのが本当なら、私が巡礼に出たことは誰も知らなかったんですよね」

「ああ」

 おかしな話だと思う。

 あの時、プラティナに巡礼の旅を命じたメディは神殿で聖女が死ぬのは縁起が悪いから、巡礼の旅に出たことにすると言い切ったのに。

「聖女様がいなくなってしばらくして女王が帰ってからも発表されなかったけど、それは龍とレーガの関係を考えると、国民に聖地のことを考えさせたくなかったからだと思ってたけど……」

 せっかく意識や歴史を書き換えて巡礼から遠ざけていたのに、慕われている聖女が巡礼の旅に出たと知れば騒ぎが起きてしまう可能性がある。確かにそれはレーガがもっとも避けたいことだろう。

「女王はプラティナを外に出すつもりはなかったはずだ。それをあの我儘娘が台無しにした」

「我儘娘ってまさかメディのことですか?」

「他に誰がいる」

 強引に護衛をさせられていたことを思い出したのかアイゼンの顔はとても渋い。

 腹違いの妹でありレーガの娘であるメディ。

 幼い頃は一緒に過ごしたし、今でも憎いとか嫌いとかは正直思えない。

「あの子、無事でしょうか」

 ぽつりとこぼした言葉にアイゼンとノースが目を剥いた。

「君……まさか心配してるのか?」

「だって血を分けた妹ですし……それにあの子はまだ子どもと言っても差し支えのない歳です。心配しますよ」

「プラティナちゃんってほんと……はぁ……妹姫殿は城で監禁されたままだけど、たぶん無事」

 呆れたと顔に書いてあるノースの報告にプラティナはほっと息を吐く。

 もし酷い目に遭っていたら助けたいと思うくらいにはまだ情はあった。

(本当にすごいことになったわね)

 メディに追放を宣言され、ツィンに婚約破棄された日のことが遠い昔のようだ。

 まさかこんなことになるなんて、あの時はまったく考えもしなかったのに。

「状況から考えるに、あの我儘娘の起こした騒動に乗じて誰かが君を神殿から連れ出し、巡礼に出したと考えるのが妥当だろう」

「まあそうだろうね。いくら聖女が余命わずかだからって、巡礼に出すなんて考え、あの我儘姫さまじゃ考えつかなそう」

 散々に言われているメディのことはあえて聞き流し、プラティナは二人の言葉にあの時のことを振り返ってみる。

 巡礼を命じてきたのは使者だった。

 彼は「これは決まったこと」のようなことを口にしていた。

「私の処遇を決めたのがメディでないのだとしたら……」

 あの場にいた人たちの顔を思い出してみる。

 メディにツィン、たくさんの兵士。囚われの身だったアイゼン。そして。

「……ヴェルディ」

 父の代から仕えてくれていたシャンデの宰相。冷酷で優秀な人物だという評判しか聞いたことがない。

 レーガが女王になりプラティナが聖女として神殿に送られる時も、見送りには来ていたような気がするがそれだけだ。

「ヴェルディ? ああ、あの宰相か。あれは妙な男だったな」

「お待ちください」

 ゴルドが急に声を上げた。

 見ればその顔には驚愕が貼りついている。

「今、なんと言いましたか」

「妙な男、か?」

「その前です。宰相の名を、なんといいましたか」

 あまりにも必死な問いかけにプラティナとアイゼンは顔を見合わせる。

「ええと、ヴェルディです。家名は知りませんが、王家に長く仕えてくれている臣下の男性です」

 ゴルドの目が極限まで見開かれる。

 部屋の中にいた年嵩の草の民たちも何故かどよめいていた。

「まさか、そんな……姿を消したとは思っていたが、まさかシャンデの王城にいたのか」

「ヴェルディを知っているのですか?」

 意外な展開に驚いていると、ゴルドが重々しく頷く。

「知っているも何も……ヴェルディは草の民。あなたの母であった龍の巫子を守る護衛騎士だった男です」

「……!!」

 言葉が出ないとはこのことだろう。

 まさか、そんな、と唇を震わせているとゴルドが大きく首を振った。

「クリスタがシャンデに嫁いだあと、ヴェルディは静かに姿を消しました。仕える主がいなくなったので旅にでも出たのかと思っていたのですが、まさかついていっていたとは。あやつから、何も聞いていないのですか」

「な、何も。私は子どもでしたし」

 まさか母とヴェルディにそんな過去があったなんて知らなかった。

 もしそれが事実で、彼らが知るヴェルディと宰相のヴェルディが同一人物ならば。

「君にあの聖句を持たせたのがヴェルディならば辻褄が合う」

 龍を目覚めさせるための聖句。

 それをクリスタの娘であるプラティナに託したのだとしたら。

「でも、なんで今になって」

 もしそれが本当なら、どうしてみすみすレーガに従っていたのか。何故いまになってプラティナを助けようとしたのか。

 あらゆる疑問が浮かんできて、固まっているとゴルドがくぐもったうなり声を上げた。

「あれはずっとクリスタを慕っていました。命を賭けて守るのだと……まさか、ずっと傍にいたのかと……」

 掠れた弱々しい声に秘められた感情に胸が詰まりそうになる。

 ゴルドは前髪を掻きむしりながら俯いてしまった。

「じゃあ、プラティナちゃんを巡礼に出したのは宰相のヴェルディってこと?」

「可能性は高いが……」

 考え込むアイゼンとノースを見つめ、プラティナはぼんやりと考える。

(ヴェルディがお母様の騎士?)

 信じられない。ヴェルディはつねに宰相として政治の表舞台にいたのに。

 名前が同じだけで別人ではないかと思いたかったが、そんな偶然があるとも思えない。

 黙り込んでしまったプラティナの肩をアイゼンが優しく叩く。

「今はあまり考え込むな。ヴェルディが本当にこちら側かどうかはこれから確かめればいいだけのことだ」

「……アイゼン」

 いつだってプラティナの心を軽くしてくれるのはアイゼンの言葉だ。

 泣きたい気持ちを必死に押し殺して頷けば、ゴルドがその場に頭を下げた。

「もし皆さまの知るヴェルディが、我らの知るヴェルディならばきっとすべてはクリスタ……そしてプラティナ様のためにしたことだと思います。どうか信じてやってください」

「ゴルドさん……」

 ゴルドがここまで頭を下げるということは、彼の知るヴェルディはそれだけ信頼のおける人物と言うことなのだろう。

 何が正しくて間違っているかわからないと思いながら、プラティナはただ静かにそれを見つめることしかできなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アース・スタールナさまより書籍発売

特典や販売先の詳細は公式サイトでご確認ください!

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ