69話 成長と忘れていた約束
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「では明日にでも出立しますか?」
目を輝かせるクルトにアイゼンが「いや」と言って首を振る。
「そうしたいのはやまやまだがこちらにも事情があってな。明日、人に会う約束がある。出立は明後日でどうだ」
「明後日……」
「何か問題が?」
考え込むクルトにアイゼンが片眉を上げる。
その表情にクルトはひっと短い悲鳴を上げた。
「アイゼン、あまり脅さないであげてください」
「別に脅してない」
プラティナがなだめるように声をかけるとアイゼンは何故が不機嫌そうに視線を逸らしてしまう。
「……実は明日、仲間と落ち合う約束をしているんです。もし僕が行かなければ仲間たちはここまで僕を探しに来てしまうでしょう。先ほどお話したように僕たちは女王に追われる身ですから、あまり危険なことはしたくないんです」
クルトは仲間と別れ一足先にここに来たと言っていたのを思い出す。
自警団のこともあるし、可能なら町に入りたくないのも納得だ。
「僕は一足先に仲間と合流して事情を説明しようと思います」
そう言いながらクルトは地図を取り出し床に広げて見せた。
先ほどから、いろいろなものが出てくるので少し感心してしまう。
「ここ、峠の麓にある集落で落ち合いましょう」
港町から砂漠に向かうためには山を越えなければならない。この山に向かう峠の麓に集落があると地図には記されていた。
「この集落に危険はないのか?」
「はい。ここは小さな集落で、冒険者たちも通り過ぎるだけです。僕たちとは薬の取り引きなどをしているので信頼できます」
「そうか」
アイゼンは少しだけ考え込むとノースに視線を向けた。
近寄ってきたノースは地図からその集落をみると、うん、と納得したように頷いて見せる。
「いいんじゃないかな」
「なら決定だ。お前は先に仲間と落ち合いここで待て。俺たちは旅の支度を済ませてからそこに向かう。二日後でどうだ」
「わかりました」
力強く頷くとクルトは大事そうに地図をしまい込む。
それから広げていた荷物を整えるとそれを抱えてさっと立ち上がった。
「もう行くんですか?」
「早い方がいいと思うんです。仲間たちにも皆さんのことを説明しないといけませんし」
にこっと明るい笑みを浮かべたクルトはプラティナに向き直る。
「プラティナ様。ここであなたに会えたのはきっと龍の導きなのだと思います」
「龍の導き?」
「はい。時に龍は僕たちに進むべき道を指し示すことがあると言われています。あなたが聖地を目指したタイミングで僕たちがここに来た……偶然とは思えません」
確かにあまりにもできすぎている気はする。
ほんの少しでも何かがズレていれば、プラティナとクルトは出会うことは無かっただろう。
もしクルトに出会えなければ最後の聖地に行くのも難しかったかもしれない。
「どうかお気をつけて。集落でお待ちしています」
ぺこりと頭を下げたクルトは部屋を出て行った。
なんだか急に部屋が広くなった気がする。
「さて」
静寂を打ち破ったのはアイゼンの声だ。
部屋の隅にある椅子に腰掛けたアイゼンは大きな動きで足と腕を組む。
「最後の聖地への案内人は見つかったし、路銀も稼げた」
「明日は旅の準備をするんですよね……あれ? でも買い物はゼットさんに頼んでいたんじゃ」
そんなことをアイゼンが言っていたのを思いだし、プラティナが首を傾げればアイゼンが思いきり顔をしかめた。
「もしかして忘れたのか?」
「何をですか?」
何かあったろうかと首を捻っていると、アイゼンとノースは揃って溜息を吐いた。
「君……呪いに詳しい人間に会う話を忘れているだろう」
「……あ!」
「まったく……」
完全にすっかり忘れていた。
プラティナの身体に宿った呪いについて調べるために、呪いに詳しい人間を探してもらっていたのだった。
「さっきゼットが話をつけてくれたらしい。ここらじゃ有名なまじない師が旅から帰ってきたそうだ。明日の午後なら会えるらしい」
「まじない師って……胡散臭すぎない? 本当に大丈夫なの?」
ノースが目を細め怪訝そうな顔をした。
アイゼンも同じ気持ちなのか表情は険しいままだ。
「ギルドとゼットの紹介だから腕は確かだと思うが……まあ何もしないよりはいいだろう」
「まあ、それでいいならいいけどさ。プラティナちゃん、不安だったら会わなくてもいいんだよ?」
「おい」
気遣ってくれているらしいノースの言葉にプラティナは首を振る。
「大丈夫です。もしこの呪いについて何かわかるなら私も知りたいですし」
女王レーガからかけられた呪い。
プラティナの力を強制的に吸い上げ我がものにするという恐ろしい呪いにどう向き合えばいいのか、早く知りたかった。
そのまじない師が解呪できるとは思えないが、話を聞く価値はあるだろう。
「よし。なら飯を食って今日は早く休むぞ」
「わーい! ご飯!」
ベッドの上で暇そうに転がっていたアンバーが元気よく声を上げた。
プラティナのお腹もご飯という言葉に反応してぐうと鳴る。
そのタイミングを待っていたかのように、食堂の方からゼットの「夕食の時間だ」という威勢のいい声が聞こえてきた。
「お呼びだ。行くぞ。ついでに買い物についてもゼットに相談しておくか」
「あの旦那に準備は頼んでたんじゃなかったっけ?」
ノースの問いかけにアイゼンは緩く首を振る。
「頼んだのは道具や食事の類いだけだ。山を越え砂漠に行くなら服を揃える必要があるだろう」
「あ、そっか。装備は本人が行かないとね」
「ああ、まじない師に会いに行く前に買い揃えるぞ」
「砂漠用の服なんてあるんですか?」
「そうだ。砂漠は昼は暑いが夜は冷える。特殊な魔法を付与した服を着なければ体力がすぐに奪われるだろう」
「へぇ!」
「その前に越える山は岩が多く険しい場所だ。今の靴のままでは危ないからそれも買う必要がある」
砂漠というのはずっと暑い場所だとおもっていたが、どうやら違うらしい。
世界の広さにまたひとつ噛みしめていると、アイゼンが他にも必要なものを上げていく。
「雨よけのローブもいるだろうし、怪我に備えて薬や魔獣避けも買っておいた方がいい」
「えっ、怪我は私が治せますよ?」
「魔獣なんて僕がいれば一口で食べちゃうぞ」
プラティナとアンバーの言葉にアイゼンはがくりと首を折る。
それを聞いていたノースがけらけらと声を上げて笑った。
「確かに。最強の聖女様と龍がいれば山越えなんて簡単なんじゃない?」
「僕が乗せていってやってもいいぞ!」
ふんと荒い鼻息と共に胸を反らすアンバーにノースはますます笑い声を大きくする。
「またまた~! そんな小さな身体でどうやって俺たちを運ぶのさ~」
「むっ……何だとう? 僕はなぁ……もがっ!」
喋りかけたアンバーの口をアイゼンが掴んで黙らせた。
「お前は少し黙ってろ」
「むー!」
ノースはまだアンバーが人を乗せられるほどに大きな龍になれることを知らない。
なるべく人に知られない方がいいというのがアイゼンとプラティナの共通認識だった。
(絵を見たあとだし)
クルトから見せられた青龍の絵は成長したアンバーにあまりにも似ていた。
聖地で力を得る度に成長していくことを考えれば、何か関わりがあるとしか思えない。
口を押さえられた不満を訴えるようにアイゼンの手を甘噛みする小さなアンバーをプラティナはじっと見つめる。
よくよく考えればプラティナはアンバーのことを何も知らない。
最初の町で出会った時は少しかわった存在くらいに思っていたが、もしかしたら特別な存在なのかもしれない。
最後の聖地で祈りを捧げたらアンバーはどうなってしまうのか。
「ノース、貴様も煽るな!」
「ごめんごめん」
「アイゼンのばかー!」
ノースを叱るアイゼンの声に思考が断ち切られた。
見てみれば人の姿になったアンバーとアイゼンとノースがじゃれあっている。
わあわあと騒ぐ姿とみていると、わずかに浮かびかけた不安な気持ちが飛んでいってしまった。
「私、お腹が空きました! 行きましょう!」
声をかければ三人は動きを止めて顔を見合わせる。
「……そうだな、行くか」
「はい!」
全員で食堂に降りると、ゼットは人の姿のままのアンバーを見て目を丸くした。
慌てて知り合いの子どもを預かったと苦しい言い訳をすることになったのだが、ゼットは特に追求せずアンバーの分も食事を出してくれた。
アンバーは「ずっとみんなのご飯、食べてみたかったんだ! 美味しい!」と歓声を上げゼットの食事にかぶりついていた。
ほっぺたいっぱいに食事を頬ばり、一口ごとに美味しいと感想を叫ぶ姿は見ていているだけで頬が緩んでくる。
「ほらアンバー、これも食べて」
「うん。プラティナ、これも美味しいよ」
「本当だねぇ」
料理をあれこれと分けあいながら食べているだけでとても幸せだ。
野菜にチーズをかけて焼いたものは野菜の甘みとチーズの塩っ気がちょうどいい塩梅でいくらでも食べられそうだし、赤い野菜のスープで煮込んだ鶏肉は甘酸っぱくて柔らかいパンによく合う。
「アンバー、ほっぺが汚れてるわよ」
ナプキンでアンバーの頬についた汚れを拭ってあげていると、何やら視線を感じて顔を上げた。
すると向かいの席に座ったアイゼンとノース、そして何故か近くにいたゼットまでこちらをじっと見ている。
「どうしました?」
「いや……」
「なんというか」
「成長したなぁプラティナちゃん」
表情と言葉は三者三様ではあるが、こちらを見つめる瞳は皆驚くほどに温かい。
なんだかくすぐったい気持ちになってプラティナは慌てて視線をアンバーに戻す。
「プラティナ! 一緒のご飯、楽しいね!」
「……! うん、そうだね、楽しいね!」
無邪気なアンバーの声に頷きながらプラティナはみんなとの食事を楽しんだのだった。
2/12にコミカライズ2巻発売されます
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