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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
6章 港町ラプソディ

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62話 取引の秘密

間が空いてしまったので一気に投稿してます…!

 

 港に着いたときには、太陽はほぼ真上まで登ってきていた。

 アンバーは変身に疲れたのか途中で元の小さな姿に戻り、ノースの肩に乗って休んでいる。なんでもアイゼンよりも安定感があるからと気に入ったらしい。ノースもアンバーに気に入られたのがまんざらではないようで、小さな頭を指先で撫でてやったりとしている。

 船の前まで来ると、別れたときと同じように船長たちが待ち構えていた。


「待たせたな」

「いいや、丁度だ。ギルドから連絡があった。どうか仕事を頼むぞ」


 仕事を任せられる相手が見つかったことに安心したのか、船長は先ほどに比べてずいぶんにこやかだ。

 これまで夜間は交代で倉庫の見張りをしていたというのが、必要もなくなるのが嬉しいのだろう。


「あんたたちのおかげで無事に出港できそうだ。助かったよ」

「次はどちらにいかれるのですか?」

「この海の向こうにある諸島に荷物を運ぶ仕事だ。普段は別の船が請け負っているんだが、少し前に起きた嵐で船が壊れたらしくてな。早く行ってやらないと、島の住人たちの生活に不便が出てしまう」


 生活用品を運搬するのだと語る船長の表情はどこまでも明るい。今にも船の碇を上げそうな勢いだ。

 だがそれを止めるように、アイゼンが鋭い視線を船長へと向けた。


「最後に一つ確認したいことがある」

「ん? なんだ?」

「薬草を買いに来る商人のことだ。ギルドに荷を預けるのを嫌がったのはその商人だと言うが、どうしてそんな相手の依頼を受けたんだ。あんたはギルドで仕事をしていたんだろう?」


 なんのことだろうとプラティナがノースを振り返れば、彼は人差し指を立てて微笑んだ。どうやら黙って聞いているべき話らしい。

 再びアイゼンへと視線を向ければ、腕を組んでじっと船長を見つめていた。

 船長はその視線を受けて、先ほどまでとは表情を一変させている。


「……どうしてそんなことを気にする?」

「こちらもリスクは負いたくないからな。もし事情があるなら聞いておきたいだけだ。その商人とやらが信用できるのかどうかも怪しい。だいたいおかしいだろう。ギルドに品は預けないが代金はギルドで預かるなんて。品物をギルドに見せたくないとしか思えない。あの倉庫には何の薬草が詰まってるんだ」

「希少な薬草だ。ギルドで品名を見たんじゃないのか」


 追求に船長がふっと視線を逸らした。どうやら後ろめたいことがあるらしい。

 アイゼンは声を低くして更に詰め寄る。


「ああ。ギルドで査定予定の薬草一覧は見た。だから余計に不自然だと言っている。確かに高価な薬草だが、護衛を雇うほどとは思えない代物だ。他に何か隠してるんじゃないのか」

「何も隠してなどいない」

「だったら今すぐギルドの職員を呼んで薬草を検品させろ」

「そんなことできるわけないだろう……っ!」


 そこまで言って船長は慌てて口を押さえる。

 どうやらうっかり口を滑らせてしまったらしい。

 周りの船員たちも気色ばんだのが伝わってくる。


「やはり禁制品か」

「禁制品?」


 言葉の意味が分らずプラティナが首を傾げれば、ノースが近づいてきて口を開いた。


「禁制品ってのは売ったり買ったり運んだりってのが禁止されてる品のことだよ。ギルドが決めてる物もあるけど、国ごとに決められてる品も多いよ」

「そんなものがあるんですか」

「案外あるんだよね。数が少なくなってる動物の毛皮や角なんかもだし、特殊な鉱石なんかもあるかな。一番多いのは植物。固有の植物は勝手に持ち運びしたら生態系を壊しかねないし、希少なものも多いしさ。シャンデは結構取り締まりが厳しいんだ」

「色々あるんですねぇ」


 感心しながら呑気な返事を返せば、アイゼンがちょっと苛立ったような咳払いをした。

 プラティナは慌てて背筋を伸ばし、口を閉じる。


「お前たちはその商人から禁制品の取り寄せを依頼されたんだろう。ギルドに保管を頼めば、品を検品されるからな。禁制品を取り扱ったと分れば一大事だ。だから倉庫を借りたんだろう」

「……もし商人が来なければギルドに売る約束になっているんだぞ」

「その時はお前たちは海の上だろう」


 人の悪そうな表情を浮かべたアイゼンが、船長たちを睨み付ける。


「諸島に荷物を運ぶと言っているが、ソレが終わったらこちらには戻らず海向こうの大陸にでも逃げる気なんじゃないか? 薬草の正体はシャンデに持ち込みが禁止されている植物といったところか。国外でなら合法だから、戻ってこなければ追いかけてまでは罰せられないと踏んだな」


 にわかには信じられない話だとプラティナはアイゼンと船長たちを見比べる。

 彼らの態度や、口調からは悪意の類いを感じない。心から誰かを助けたいと思っているとしか思えないのに。

 もしアイゼンの言うことが本当ならどうしようと、プラティナは無言で手を握り絞めた。


「出港を決めたのは禁制品をずっと預かっているのが怖くなったからだろう。荷を捨てるという選択肢もあったがそれは躊躇われた。金が入る可能性に賭けて今回の依頼を思い付いたんだろう。運が良ければ取引が成立するからな」

「馬鹿にするな! 俺たちはそんな汚い真似はしない」

「だったら今すぐギルドの職員を呼んで品を検品させろ。本当のことを話してもらわなければ、俺たちだって安心できない」

「……俺たちを脅す気か」


 船員たちの目つきが変わる。肩をぐるぐる回しながらこちらを威嚇するような動きをしたり、スコップを掲げて見せたりと明らかに好戦的な態度だ。


「いや。そんな面倒なことはしない」

「は?」


 あっさりと応えたアイゼンに、船長がぽかんとした顔になる。

 船員たちも毒気を抜かれたのか動きを止めて目を丸くしている。


「俺たちも訳アリでな。しっかりと依頼料さえ払ってもらえれば問題ない。心配してるのは、その商人とやらがどんな人間かだ。禁制品を欲しがるようなやっかいな相手だ。俺たちを脅してこないとも限らないだろう」

「彼らはそんなことはしない!」

「だったら事情を話せ。場合によっては協力してやる」


 アイゼンの問いかけに船長は何かに迷うように視線を泳がせた。

 しばしの沈黙の後、長い溜息を吐き出した船長はその場にどかりと座り込んでしまった。


「まさかお前みたいな勘のいい冒険者が来るなんてな。こんなことならギルドに鍵を預けるだけにしとけばよかったぜ」


 悪いことはできねぇもんだと呟きながら、船長は今回のことのあらましを話し始めた。


「そもそもの発端は、この国を今の女王が治めるようになったことだ。女王はこの国に元々住んでいた少数部族を迫害し、彼らからいろいろなものを取り上げたんだ」


 女王という名前にプラティナが息を呑む。

 アイゼンとノースもわずかに身体を硬くしたのが分った。


「彼らは草の民と呼ばれている。元々は王都近くにある渓谷に住んでいたが女王によって住まいを追い出され、今は山向こうの砂漠に近い場所に集落を構えている」

「砂漠近くに……? 人が住める場所ではないと聞いたが」

「そうだ。自然を愛する彼らにしてみればかなり過酷な地域らしい。そんな彼らは、今は滅びた古い魔法を未だに継承している希少な存在でな。俺が頼まれたのは、その魔法に使う特別な植物なんだ」

「魔法に使う植物?」

「龍の雫という花だ。花びらに魔力を宿した特殊な花なんだが、女王の統治がはじまった途端に毒性があるとされてこの国では根絶やしにされて禁制品になったんだ」


 何もかもが初めて聞いた話だった。王女として城で暮していたときもそんな花の存在は聞いたこともみたことも無かったように思う。


「そんな花、聞いたことがないぞ」

「私もです。ノースは知っていますか」

「聞いたことないなぁ? ギルドで働くようになって長いけどまったく知らないや」

「だろうな。希少な花だし、一般には流通していない。俺も一度だけ見たことがある程度だ。彼らから依頼を受けなければ思い出しもしなかっただろう。そもそも禁制品にされていたことさえ知らなかった」


 何故レーガは龍の雫を根絶やしにした上に禁制品にしたのだろうか。

 これまでのことを考えると、自分たちになにも関係が無いように思えないのが少し怖い。


「この国では絶えてしまった龍の雫だが、ある国ではまだ自生していてな。それを知った草の民が、どうしても手に入れたいと俺に依頼をしてきたんだ」

「よく受けたな」

「昔、世話になったことがあってな。恩返しだな」


 本来なら禁制品を運ぶことはかなり危ないことだ。発見されれば、よくて罰金。運が悪ければ禁固刑もありえる。この港に着岸を禁止されてしまうかもしれない。

 だが、そんな危険を冒してまで返したい恩が船長にはあったのだろう。


「その草の民はどうして龍の雫を欲しがっている」

「彼らの使う魔法は、自然の力を借りるんだそうだ。その媒介に龍の雫から採れる花蜜を使うんだ。これまでは蓄えていたものを使っていたが、十年という月日のせいでもう底が付きかけているらしい」

「なるほどな……」

「俺たちだって叶うなら彼らを信じて待っててやりたい。だが、諸島に荷物を運ぶ依頼が来てしまった。俺たちが受けなきゃ、島の住人たちの生活に影響が出てしまう」


 船長の表情は真剣だった。その口調からも、その人たちを信じているのが伝わってくる。

 アイゼンが最初に言ったように、禁制品の運搬から逃れたかったという気持ちも嘘ではないのだろうが、それ以上に誰かを助けることに誇りを持っているのが伝わってくる。


「決して逃げようなんて思っちゃいない。彼らは必ず来ると信じているし、そもそも3日を過ぎても引き取りに来なければギルドに品を預けるようにと提案したのは彼らなんだ」

「何故そんなことを」

「なんでも龍の雫ってのはある程度日数が経つと完全に萎れて、ただの雑草に見えてしまうらしい。あの箱には龍の雫の存在を隠すために他の薬草も詰めてあるからな。ギルドの職員が見ても、存在には気づかないだろうとな」

「本物を見たことがないなら余計に、ということか」

「そうだ。もし自分たちが間に合わなかったときに、俺たちが損をしないようにとしっかりと考えてくれた連中なんだ」


 噛みしめるように言葉を紡ぐ船長の表情はどこまでも優しい。

 草の民を本当に信用しているのだろう。


「……疑って悪かったな」

「え?」

「まさかそこまでの覚悟をしてるとは思わなかった。すまない」


 素直に謝ったアイゼンに、船長たちがぽかんと口を開け固まる。


「さっきも言ったが俺たちも訳アリだ。旅が脅かされるような事態は極力避けたい」


 アイゼンは少しでも手元に入る金が高い仕事を選んでくれたのだろう。

 まさかこんなにも複雑な依頼に関わってしまうとは想像しなかったのだろうが。

 船長たちもソレを察したのか、複雑そうな表情を浮かべていた。


「変なことに巻き込んでしまって悪かった。もしアンタたちが嫌なら依頼は降りてもらって構わない」

「いや受けよう。これも何かの縁だ。俺たちも女王とはワケアリでな。他人事とは思えない」

「ほんとうか!」

「ああ。その草の民とやらがくるまで、しっかりと倉庫は守ってやるよ」

「たすかる!!」


 そうしてアイゼンと船長は硬く握手を交わしたのだった。



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