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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
6章 港町ラプソディ

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57話 小さな決意

 幸いにも周囲には人気が無い。

 もし誰かに見られていたら、喧嘩だと騒がれていただろう。

 二人は譲る気配がなくにらみ合ったままだ。

 このままでは埒があかないと、ノースの手から書類を取り上げたプラティナは、それをアイゼンに押しつけた。


「ギルドへは二人で行って下さい。買い物は私とアンバーで行きます」

「なっ」

「えっ」


 にらみ合っていた二人は同時に顔色を変えた。

 プラティナは両手に腰を当てると、意気込みを証明するように胸を反らす。


「今の私は余命わずかでも何でもありません。そう簡単に倒れるようなことはないですし、もう買い物くらい一人でできます」

「いや、無理だろう」

「そうだよ、無理だよ」


 さっきまでの険悪な空気は何処に行ったのかと言いたくなるほどに息の合った二人を、プラティナは交互に見た。

 このまま旅を続けるのならば、アイゼンとノースの関係が悪いままというの看過できない。それに。


「今回の依頼を受けることになった経緯を考えれば、私も一人でお金を使えるようになっていた方がいいと思うんです。アイゼンに任せきりだったことを私は深く反省しています」

「それは俺が決めたことだ。君には何の責任もない」


 ちょっと焦ったような顔で前のめりになったアイゼンに、プラティナは首を振る。

 気を遣ってくれるのは嬉しいが、そろそろ自立しなければならないとは考えていたのだ。


「私、これまでアイゼンの優しさに甘えていました。しっかりしないといけないと思うんです」


 なにも知らないままで生きてきた。旅に出てからの日々は楽しいばかりで、アイゼンに頼りきりできてしまった。

 残り僅かな余命で聖地の巡礼だけをすればよかったからだと言い訳してしまえばそれまでだが、そうで無いことがわかった今、アイゼンにおんぶに抱っこのままではいけない。

 プラティナは小さく拳を握りしめるとアイゼンを真っ直ぐに見上げる。


「薬の一覧に材料も書いてありましたよね。買うべき物だけ教えてください。私、ちゃんとお使いに行ってきますから」

「しかし……」

「駄目だよプラティナちゃん。ここはそこまで治安がいいわけじゃない。女の子が一人で出歩いてたら、どんな目に遭うか」


 たじろいで言葉を詰まらせるアイゼンに変わり、ノースが必死の様子で説得を試みてきた。

 だがプラティナは首を振る。


「大丈夫です。私にはアンバーがいますから。ね、アンバー」

『まかせて!』

「いやいや。いくら強くても無理だって。せめて俺を連れてってよ。ちゃんと守るし」

「いいえ。アンバー、あの姿になって」

「へ?」


 プラティナの声かけに、アンバーはひと鳴きして飛び上がり、空中でくるりと宙返りをした。

 ぽん! と何かが弾ける音ともに地面に着地したときには、セルティの孤島で見せてくれた少年の姿に変化していた。


「ふふん、どうだ。これならプラティナを守れるぞ」

「は……はぁぁぁ!?」


 自信ありげに腰に手を当てるアンバーの姿に、ノースが悲鳴っぽい叫びを上げる。

 周りに誰も居なくて本当によかったと思う。


「この子は、人の姿に変化できます。それだけじゃありません。本気になれば、私とアイゼンを乗せて飛ぶこともできます。何かあれば、アンバーに乗って逃げますから」

「ええぇ!? そんなのありぃ?」

「アリだよ! 僕アンバーだよ! どうだ、すごいだろう!!」

「嘘だぁ」


 ノースは完全に理解が追いついていないらしい。目を白黒させながら、頭を抱えてしまった。

 黙り込んでいたアイゼンは、プラティナとアンバーをじっと見つめ、深い息を吐きながらガシガシと頭を掻いた。


「本気なのか」

「はい。本気です。だって、市場で買い物をするだけですよ」

「薬草の真贋はどうする」

「神殿で薬草自体は見たことがありますし、力を使えば確認することが可能です」


 用意した答えをプラティナが口にすると、アイゼンは黙り込んでしまった。

 このまま押し通せるかと思ったが、頭を抱えていたノースが勢いよく顔を上げて近づいてきた。


「でも正規の価格はわからないだろう? 仕入れを失敗したら大損だよ」

「買うのは少量ですから大きな損害はださないで済むと思うんです。もし失敗しても、その分たくさん薬を作りますから」


 アイゼンとノースは、プラティナの決意の固さを感じたのか黙り込んでしまった。

 アンバーだけは瞳をキラキラと輝かせ、嬉しそうに周りを走り回っている。


「大丈夫だよ。プラティナは僕が守るからさ」

「はい! アンバーとなら大丈夫です!」


 アンバーと手に手を取り合ってアイゼンとノースを見つめれば、二人はほぼ同時に溜息を吐いた。


「わかった」

「許しちゃうのぉ!?」

「仕方が無いだろう。こうなったこいつは頑固だ」


 驚愕の表情を浮かべるノースを放置して、アイゼンがプラティナの前に立つ。


「アンバーから絶対に離れるな」

「はい!」

「チビ、絶対にプラティナから目を離すな。何かあったらすぐにつれて逃げろ」

「うん!」


 力強く頷けば、アイゼンは深く溜息を吐いた。

 ガシガシと再び頭を掻いたので、髪型が乱れてしまっている。


「俺とコイツがギルドで依頼の受け付けを済ませたらすぐに合流するから、なにがあっても市場から出ない。できるか」

「できます!」

「……わかった。市場はこの通りをまっすぐ行った場所だ。必要な素材のリストは俺が作る。それ以外のものは買うな。いいな」

「はい!」

「過保護すぎない?」

「うるさい」


 ノースの突っ込みをアイゼンは一蹴すると、プラティナに向き合う。

 ギルドから渡された一覧を確認し、他の紙切れにさらさらと薬剤の一覧を紙に書き出すと、革袋と一緒に差し出す。


「無駄遣いはするなよ。くれぐれも食べ物は買うな」

「はい!」

「もうそこまで言うならついてったほうが早くない?」

「ノースさんは黙っててください!」

「二人とも酷くない? ねぇアンバーちゃん」

「お買いもの! お買いもの!」

「せめて返事して」


 うなだれるノースをまったく気に留めていないアンバーはプラティナの後ろをぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 プラティナは渡された紙と革袋をにぎしりめて、大きく息を吸い込む。


「私、がんばります!」

「頑張らないでくれ」


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