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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
6章 港町ラプソディ

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52話 それは奇跡か偶然か ②

 

「逃げ出せた、って……あ」


 旅立ちの日に、聞かされた話を思い出す。アイゼンは隷属の契約をかけられメディの近衛騎士になっていたが、何故かその契約魔法が弱まったことで脱走を図ったのだと。

 だが結局は捕まってしまい、呪いをかけられたのだが。


「君は言っていたな。メディによって神殿から城に移り住んだと」

「ええ。余命わずかな私は聖女には相応しくないと……」

「君が城で滞在していた部屋にこの魔法陣はあったか」


 私は無言で首を振る。

 ほんの一週間ほど滞在していた部屋は、急ごしらえで整えられたらしい質素な部屋だった。

 神殿の部屋よりは幾分かましだったが最低限の家具しかなく、寝台に座って祈りを捧げていたくらいだ。


「だろうな。だから俺を縛っていた魔法が弱まったんだ」

「どういうことですか」

「……俺を縛っていた契約魔法はおそらくは女王が作ったものだ。だが、ある日突然、その制約が弱くなった。じわじわと削れていき、自力で破れるほどにまでな。それは、君という魔力の供給源を失ったからだ」

「なるほどね。女王は聖女様の力を使って城の中を掌握してたってわけか。あのむやみと強い結界も聖女様の力でって考えれば納得だ」

「そんな、まさか」


 あまりの情報量に頭が追いついていかない。

 怖くなってアンバーを抱き寄せれば、腕の中で心配そうにキュルルと喉を鳴らす音が聞こえた。


「女王が視察で国を離れたのも影響したんだろうな。通常の魔法は術者との距離が離れるほどに効果が薄くなるものだろう」

「……そうですね」

「だがこれまでも女王不在の間も魔法が弱まったことはなかった。君の力がそれを補っていたからだ。君が倒れたのは、そのせいかもしれない」


 ぞわりと項の毛が逆立つような感覚があった。


「あの城には、俺以外にも契約魔法で拘束されている奴が大勢いた。正確な数はわからないが、同じ魔法で縛られているからかなんとなくは察しがついた。あの城で、本心から女王と王女に忠誠を誓っていた人間は一握りだろうよ」

「そんな……」

「君を神殿に閉じ込めたのは、力を奪うためだけではなく魔法を解除させないためだったのかもしれないな」


 自分が神殿にいた理由がどんどん明らかになっていく恐怖に、プラティナは息を呑む。


「でも、これまでにも女王が国を離れたことは何度もあったはずだぜ? 聖女様が倒れたのは今回がはじめてだったんじゃないのか?」

「そう、ですね。体調を崩すことはありましたが、あそこまで力が枯渇したのはあの日がはじめてでした」

「他にも要因があるのかも知れないな」


 アイゼンが考え込みながら目を細める。ノースも同様だ。

 プラティナは、なんと言っていいのかわからずただただアンバーを抱きしめていた。

 聖女として国のために力を使い続けていたのだと信じていた。だが、本当は違った。義母であるレーガはプラティナの力を奪うために聖女という役目を押しつけ、力を奪い続けていたのだ。


「……私、情けないです」


 ぽつり、と声がこぼれる。

 王女なのに聖女なのに自分の力がどう使われているのかに気が付けなかった。アイゼンだけではない。他の人たちも、自分のせいでレーガに縛られていたのだとしたら。

 呑気に外の世界を見たいなどと言ってしまった自分が、とても情けなくてたまらなかった。


「君のせいじゃない」


 優しい声にハッとして顔を上げる。

 黒い瞳がまっすぐにプラティナを見つめていた。


「君が神殿に入れられたのは子どもの時だ。何も知らなくて当然だ。君はあの女王に搾取され、外界から隔絶されて生きてきた。君が責任を感じる必要はなにもない」

「そうだよ聖女様。女王のことは腹が立つけど、聖女様がいてくれたからシャンデは守られてたし、聖女様の薬や祈祷のおかげでたくさんの連中が救われたんだ。俺は、聖女様に感謝してる」

「アイゼン……ノース……」

『そうだよ。プラティナはわるくない!』

「アンバーまで」


 優しい言葉に胸がいっぱいになる。


「悪いのは女王だろ。どう考えても国の乗っ取りだ」

「……なあ、レーガは一体何者なんだ? 冷静に考えれば元は側妃だった王妃が女王になるなんてありえないだろう」

「そこが謎なんだよね。レーガの過去って調べてもナニも出てこないって言うか……もしかしたらそれもなにかの阻害魔法で調べられないようになってたからかもしれないけど」

「なら今なら分るんじゃないか」

「……確かに」


 ノースは芝居がかった仕草で頷くと、胸ポケットから白い紙とペンを取り出した。


「それは?」

「ギルド特製の伝達魔法さ。この紙に書いた内容が、対になってる紙に念写されるようになってる。これの相方を持ってるのは、王都にいる俺の上司」

「へぇ!」


 なんて便利な道具なんだろうと顔を近づければ、ノースが自慢げに胸を反らした。


「貴重な紙だから滅多には使わないんだけど今回は聖女様のことだから特別にって持たされたんだ。これだけ距離があると思念通話は雑音が混じりやすいからこっちが確実なんだよね。」


 さらさらとちょっと癖があるが読みやすい文字が紙に書かれていく。

 内容はレーガの過去についてもう一度詳しく調査するべきだという進言と、無事にプラティナに合流できたというものだ。それ以外にもなにが絵のようなものも描いたが、意味は分らなかった。

 しばらくすると、紙の余白に文字が浮き出てきた。


『了解した。聖女様を命がけで守れ』


 几帳面で少し硬い文字だった。そのしたにはやはり同じような絵が描かれている。


「その絵はなんです?」

「んー? ほら、顔が見えないからさ。本人だよっていうサインみたいなもん」

「なるほど!」


 世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるの感動しながら頷けば、何故かノースがははっと声をあげて笑った。


「よかった。元気出たみたいだね」

「え?」

「さっきまで暗い顔してたからさ」

「あ……」


 自分の単純さが恥ずかしくなってしまう。

 さっきまであんなに深刻な話をしていたのに、不思議な魔法ひとつで浮れてしまっている。


「いいって、いいって。聖女様はそれでいいんだよ」

「そうだな。君はそれでいい」


 アイゼンまで一緒になって頷いている。

 なにがそれでいいのだろうか。わけがわからないと首を傾げれば、少し離れたところにいたゼットまでもが笑い声を上げていた。

 つられて笑えば、アンバーも嬉しそうに羽ばたいてくれる。

 一緒にいてくれる仲間がいる心強さに、さっきまでの暗い気持ちがどこかに飛んで行ってしまった。

 ひとしきり笑い合うと、さて、とノースが明るい声をあげる。


「聖女様の呪いの謎がこれで分ったワケだけどどうする?」

「最後の聖地に行こうと思います。聖地で祈祷をする度にこの呪いが弱まっていることを考えると、どうしても無関係とは思えないんです」

「そうだな……ここまで来たんだ行ってみるか」

「はい!」


 元気よく頷けば、アイゼンが優しく微笑んで頭を撫でてくれた。

 その大きくて温かな手のひらの感触がくすぐったくて心地いい。


『僕も!』


 アンバーが飛び上がって自分からアイゼンの手のひらに自分の頭をこすりつけた。

 アイゼンは仕方が無いとてもいいたげな手つきでアンバーの頭を撫でてあげている。

 その光景にプラティナは胸の奥がじんと痺れるのを感じたのだった。



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