幕間 ギルドマスターの覚悟
また間が空いてしまってすみません……!
「王都のギルドマスター様がこんな田舎のギルドマスターになんの用だってんだ」
淡く光る水晶の向こう側で胡乱げな声を上げるのは、西部地区を管轄するギルドマスターのドランだ。顔は見えないが、皮肉げな表情を浮かべているのがわかる。
ドランとは同じ時期に冒険者デビューをしたこともあり、ライバルとして当時はずいぶんと険悪な仲だった。引退時期も近く、ベックは王都のギルドに、ドランは西部のギルドに就職したのだ。そしてギルドマスターになった時期まで一緒という、くされ縁。
なにかと意見が対立することも多く、これまで仲良くしたいと思ったことなかった。
しかし、今回ばかりはそうも言ってはいられない。
大きな溜息を吐き出したいのをこらえながら、ベックは頭を乱暴に掻きむしる。
「お前にちょっと聞きたいことがあるんだ。ついこの間、聖地近くの集落を根城にしていた詐欺師を捕まえたそうじゃないか」
「ずいぶんと情報が早いな。それがどうした」
ドランの声が変わった。真面目な話をしようとしていることがわかったらしい。
「その詐欺師どもを捕まえるのに協力した中に、白銀の髪をした女性がいたと聞いたが、本当か」
「……なんでそれを……」
「いたんだな!」
念を押すように問いかければ、水晶の向こうでドランが短い返事をする。
「なんでも凄腕の聖女様だったらしい。詐欺師どものせいで毒に侵された住人たちを治療しただけではなく、麻薬の原材料になっていた花まで浄化しちまったらしい」
「……!」
やはり、とベックは息を呑んだ。
普通の聖女にそんな奇跡のような御業は不可能だ。そんなことができるのはただ一人。
(プラティナ様!)
ベックは目を見開いた。ドランと通信する前、ベックは隣町のギルドにも連絡を取っていた。ギルドマスターであるガゼルと、弟子だったセインから話を聞いたが、隣町で水源汚染の原因をつきとめた薬師に同行していた白銀の少女がいたことがわかっている。
(水源の浄化も、薬を使ったんじゃない。きっとプラティナ様が浄化したんだ)
プラティナが消えてから王都はどんどん治安が悪くなっている。郊外には普段は姿を見せないような小型の魔獣が現れ、作物を荒らしているという報告が上がっている。ここ数年、安定していたスラムでも新しい病がはびこりはじめていた。
王都を囲む城壁近くでは大型の魔獣も姿を見せ、国の騎士団が駆けつけたらしいが怪我人が大勢でたという。治療しようにも、聖女が薬を作っていないため、命が危ういものすらいる。王家からギルドに薬を出すように要請が来たが、この薬は苦しんでいる市民たちに使うために保管してあるものだ。普段、権力を笠に横暴な態度を取り、適当な訓練しかしていない連中に渡してやる薬はない
全ての状況を、最初は偶然だとおもっていたが、プラティナが神殿から姿を消し、巡礼の旅に出たことが原因ならばつじつまが合う。
殆どの人間はプラティナの祈りは形だけだと思っているようだが、本当は違ったのだ。
(この王都はプラティナ様に守られていた)
ずっと神殿でその身を削って祈りを捧げてくれていたプラティナの献身に頭が下がる思いだった。
だからこそ、彼女が病だというのに巡礼の旅へと追い出した王家のやり口にはらわたが煮えるような思いだった。
「その白銀の髪の女性は、どこにいった」
「住人の話だと、護衛の男と一緒にラナルトの港を目指して定期船に乗りに行ったらしい。日数的にもう彼方に到着している頃だと思うが……なんなんだ、急に。事情を説明しろ」
「……実は、その女性は王女プラティナ様の可能性がある」
「なんだと!!」
ドランが大声を上げる。
「彼女は神殿でずっとこの王都を守護する祈りを捧げて下さっていた聖女だったんだ。それを、女王不在の隙を狙ってあの我儘王女が追い出した」
「我儘王女って……あの女王の娘か!」
「そうだ。プラティナ様は身体を壊していらっしゃるんだ。今は巡礼の旅をしているが、どこかで倒れる可能性もある。それに、王都から追手が掛かった可能性がある」
「追手だと?」
「女王が戻ってきて、連れ戻せと命じたらしい。追い出したり、捕まえたり勝手な連中だ」
あまりのことにドランは返事もできないらしい。
「お前のギルドからラナルトのギルドに連絡が取れるか。プラティナ様を保護してもらいたいんだ。俺のギルドからはノースを送ったが、間に合うかどうかわからないんだ」
ラナルトは元々独立した国だったこともありギルドマスターはシャンデの人間ではない。残念ながらベックは面識がないため、急に頼み事するのは不自然だし、信じて貰えるとは思えない。
それに引き換え、ドランとは仲が悪くも、面識はあり、その力量は信頼できる。
「直接の面識はないが、あの港町には知り合いがいる。そいつに連絡を取ってみよう。腕の立つ冒険者だった男だ。きっとプラティナ様の助けになってくれるはずだ」
「助かる……!」
「それで、保護したあとはどうするつもりだ? 結局連れ戻すのか?」
「……」
そこはベックも悩ましいところだった。プラティナのこれまでを考えれば、再び王都に戻ってきて聖女を続けて欲しいなど酷い話だろう。だが、プラティナが作る薬や、祈りの加護がなくなればこの国が大変なことになってしまうかもしれない。
「こちらの状況を、嘘偽りなくお伝えしたいんだ。無理強いをしたいわけじゃない」
「……そうか」
こちらの苦しい胸中を察したのだろう、ドランの声はいつもより穏やかだ。
「わかった。なんとかこっちでも捜索の手を貸そう」
「内密に頼む。女王に知られるとやばいからな」
「わかったぜ」
憎らしいが頼もしいと考えながら、ドランとの通信を終えた。
静まりかえったギルドの執務室。ベックは腕組みをして考え込む。
(プラティナ様に戻ってきていただくにしろ、今のままじゃ無理だ)
このままでは結局何もかもが元通りになってしまう。
どうにかしなければ。
「チッ……」
これは、これまで女王の統治を許してきたツケなのかもしれない。
本来の王族であるプラティナを神殿に押しやり、この国を自由気ままにしてきた毒婦。
「本腰を入れるときがきたのかもしれんな」
拳を握りしめ、ベックは執務室を飛び出すと受付の事務員に声を掛けた。
「動ける上級冒険者を集めろ。情報収集ができるやつがいい」
「ノースさんじゃだめなんですか?」
「別件でお使い中だ。あいつレベルとはいわないが、他の動ける奴を探せ」
「えぇ……ノースさんより優秀な諜報員なんていないのに……」
ぶつぶつと言いながらも、事務員は冒険者のリストをめくりはじめた。
「一体何をするつもりなんですか」
「……ちょっと戦争でもおっぱじめるかな、と」
「はぁ? 何バカ言ってるんですか」
本気にしていないらしい事務員の言葉に苦笑いを浮かべながら、ベックは次に自分が何をするべきかを考えはじめたのだった。
5/1にアース・スタールナさまより書籍1巻が発売されます。
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