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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
6章 港町ラプソディ

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49話 ごはんにしよう

ご無沙汰してます。がんばります。

 

「なんだあのいけ好かない貴族は!」


 鼻息荒く怒りを隠さないゼットに、プラティナは思わず笑ってしまう。

 店の従業員たちはゼットを押さえ込んでいたせいで疲労困憊といった様子だ。


「すみません。変なことに巻き込んで」

「いや、いいんだ。俺は店の客は守るって決めてるんだ」

「ゼットさん……」

「いや~しかし、いいザマだったなあの貴族サマ。プラティナちゃんにきっぱり振られていい気味だぜ」


 からからと笑うゼットはずいぶんとご機嫌だ。


「振るも何も、先に婚約を解消したのはツィンですし、私は何の未練もありませんから」


 思い返してみても優しい人だと思ったことはあれど、会いたいとかずっと傍にいたいとは考えたことも無かったように思う。

 あの狭い神殿の中で、ツィンと過ごす時間だけが、酷く穏やかだったのは事実だ。その安らぎを好意と勘違いしていたような気がする。


「しかし、プラティナちゃんはやっぱり貴族のお嬢様だったんだ。どうりで気品があると思った」

「え、あはは……」

「まあ人生には色々あるのが付きもんだからな。後悔しないように生きることだ」


 追求するつもりはないと暗に告げてくれたゼットに、プラティナは頭を下げる。

 ツィンとの会話を聞かれたことで大方の事情はバレてしまっただろう。それでも、態度を変えることがないゼットや従業員たちの態度に胸が一杯になる。


「ありがとうございます」

「いいってことよ。さ、メシにしよう!」


 どん、と胸を叩いてゼットが厨房に入っていった。

 すぐに漂ってくる美味しそうな香りに、忘れていた空腹感でお腹がきゅるるっと鳴いた。


「座ろう、プラティナ」

「はい」


 アイゼンに促され席に座れば、すぐさま大皿に載った料理が運ばれてきた。

 ふわりと磯の香りが鼻孔をくすぐる。


「我が港自慢の海鮮パスタだ!」

「わー!!」


 思わず歓声を上げてしまう。つやつやとした太めのパスタ麺と共に和えられているのは、肉厚のぷりぷりとした貝だったり鮮やかな色合いをした小さなエビなどの海産物たちだ。彩りに添えられたハーブの香りが食欲をくすぐる。

 我慢できずにフォークを持ってそのまますくい上げようとしたら、アイゼンに手で制された。


「おちつけ。取り分けてやるから。火傷するなよ」


 小皿に綺麗に取り分けられたパスタが目の前に置かれる。ふわりと立ち上ってくる湯気が、外の外気で冷えた頬をほんのりと暖めてくれた。


「いただきます」

「ああ」


 フォークに巻き付けて口に運んだパスタは絶妙な弾力だった。舌の上でつるりと踊る食感がたまらない。肉厚の貝は見た目通りのジューシーさで、噛めば噛むほどに旨味が広がっていく。他の具材もどれも少しずつ味わいが違ってとてもおいしい。


「ほら、これも食えよ」

「わあ! トマト!」


 人差し指と親指で作る穴ほどのサイズをした真っ赤なトマトが皿一杯に盛られて運ばれてきた。

 こちらもハーブが入ったオイルがたっぷりと掛けられており、まるで宝石のようにきらきら輝いている。

 フォークを刺すのがもったいなくて、スプーンでひとつすくい上げ、口の中に放り込む。すぐに食べてしまうのが勿体なくて口の中で転がしていれば、アイゼンが瞳で「はしたない」と訴えているような気がして慌てて歯を立てた。

 みずみずしい果肉とほんのりと甘酸っぱい果汁がオイルソースに絡まって舌を喜ばせてくれた。


「ん~~!! おひいぃ~!」

「口の中にものを入れたまま喋るなといったろう。こぼれるぞ」

「ごめんなふぁい」


 差し出されたナプキンを受け取って口元を拭けば、アイゼンがふわりと目元を緩ませる。

 笑顔と呼ぶにはいささか硬いが、その心根を映し出したような優しい表情に、食べ物で満たされた心とは違う部分がいっぱいになっていくような気がした。

 美味しいものでお腹が満たされていくことで、島での出来事やツィンとの再会で弱っていた部分が元気になっていく。

 周りを見ればみんな楽しそうに食事をしていた。

 ごはんは世界を救う。プラティナの頭の中にそんな言葉がふわりと浮かんだ。


「うわ、めっちゃいい匂い!」


 ドアベルの音と共に陽気な声が響く。

 顔を上げれば、先ほどツィンを軽々と運んでいった青年、ノースがお腹をさすりながら店の中に入ってくる。


「やあ聖女様。無事にあの男は港町の外に捨ててきました。しばらくは追ってこれないと思いますよ」


 口の中にトマトを一杯含んでいたせいで返事が出来ず、プラティナは口を押さえたままノースをじっと見つめた。

 アイゼンとは真逆と言っていいくらい陽気な笑顔を浮かべ、ひらひらと手を振られるとどうにも警戒心が薄れてしまい、プラティナは思わずノースに釣られて小首を傾げてしまう。


「お前……」

「おっと、喧嘩はナシだぜ護衛騎士サン。さっきも言ったけど、俺は敵じゃない。その証拠にホラ、これ」


 軽く腰を浮かせ低い声を出したアイゼンに、ノースが何かを差し出した。

 それはいくつかの財布や手形だった。


「あの連中の有り金と通行手形。これがなきゃ、港町にも入れないし、戻るにしても数日かかる」

「これで信じろと?」

「えーまだ足りない? 腕か指にしても良かったんだけど、血なまぐさいのは聖女様が嫌がるだろうから我慢したんだぜ」


 ね、とでも言うように微笑みかけられプラティナはようやくトマトをゴクンと飲み込みこくこくと頷いた。


「危ないことはダメです」

「ほら」

「プラティナ。すぐに人を信用するな。コイツが味方の振りをした敵だったらどうするんだ」

「あ、そういうこと言う!? 護衛騎士サンは疑り深いな」


 するりと流れるような動きでアイゼンの隣の席に座ったノースが頬杖を突きながら、好戦的に瞳を細めた。

 長い腕をひょいっと伸ばしトマトを一粒摘まむとひょいっと口に放り込む。


「うわ、うっま! 店主、俺にもごはんくれよ! ちゃんと金は払うから!」


 ゼットさんはノースの言葉にぎょっとして、それからプラティナに視線を向けた。

 いいのか、と問いかけてくる目に笑いながら頷く。

 それに気が付いたアイゼンが咎めるように眉をひそめた。


「プラティナ」

「ご飯はみんなで美味しく食べるのが正解なんです。いいじゃないですか」

「そうそう。食事の席で喧嘩するなってうちのギルドマスターもよく言ってるぜ」

「お前が口を挟むな」

「護衛騎士サマは心が狭いね~」


 バチッとにらみ合う姿に思わずどんと机を軽く叩いてしまう。

 小さな音だったが、彼らは同時に動きを止め目を丸くしてプラティナに顔を向けた。


「食事は楽しく、でしょう?」


 せっかくのご飯なのにと軽く睨み付ければ、アイゼンはしぶしぶ、ノースはニコニコ笑いながら姿勢を改める。

 丁度そのタイミングを待っていたかのように、ゼットが一人分のパスタとこんがりと焼き目の付いた丸パンを運んできてくれた。


「へい、おまち」

「やった! うまそ~」

「パスタのソースをこのパンで拭って食べるのが、この街の流儀だぜ」

「美味しそうです!」

「チッ……」


 パスタに夢中になったノースの姿に、ゼットは満足げに頷く。アイゼンはまだ納得してない様子ではあったが、やはり空腹には勝てなかったのか無言でフォークを動かし始めた。

 プラティナはゼットの言葉に従い、丸パンを一口大にちぎって取り皿に残ったパスタソースを拭って口に運ぶ。

 皮はパリパリ中はしっとりのパンに塩味の効いたソースが絡まり、本当においしい。

 見ればアイゼンもパンをちぎりながら同じようにして口に運んでいる最中だった。

 普段はあまり変わらない表情が驚きと喜びでぱっと明るくなる瞬間を目撃したプラティナは、幸せに頬が緩むのを感じた。


「おいしいですね」

「……そうだな」

「マジ最高!」

「お前は黙って食え」


 わいわいと騒がしいテーブルを囲みながら、プラティナは嬉しさとくすぐったさでなぜだかちょっとだけ泣きたくなった。


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