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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
四章 自覚と無自覚

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36話 次の聖地へ


 満足げに告げれば、アイゼンはうぐぅと唸って頭を抱えてしまった。


「君はどうしてそういう……!!」

「駄目でした?」

「……いや、いい。身体はどうだ? 辛くないか?」

「平気です! むしろお腹が空きました!」

「まったく……ならチビと火をおこしておいてくれ」

「はい!」


 ぶつぶつと言いながらもアイゼンは小刀を使って器用にサーペントの腹を割いていく。内臓が食べられないのはどんな生き物も同じらしく、よどみない手つきで処理をしていく姿は惚れ惚れするものがある。

 いつまでも見とれていても仕方ないと、プラティナは以前ならった通りに石を集めてかまどを作りはじめた。

 とてとてと歩いてきたアンバーも、慣れた動きで小枝を咥えてきてくれる。


「お姉ちゃん、何してるの?」

「うん? ちょっと料理をするの」

「料理!? もしかして、あのかいじゅう食べれるの!?」


 驚きの声を上げるジェルにつられ、女性たちからもざわめきが起きた。

 まさかそんなと驚愕と畏怖の混じった視線が向けられる。


「大丈夫ですよ、きっと美味しいはずです」


 安心させるように彼女たちに微笑みかけながら、プラティナは手を動かし続ける。

 小枝や地面が濡れていて火がつくかと不安だったが、アンバーの火があっという間に水分まで吹き飛ばし小さなたき火が完成する。


「ほら、切ってきたぞ」

「ありがとうございます!」

「火は……準備ができてるな」


 たき火の準備が完璧なのを確認したアイゼンは火の前に腰を下ろすと、切り出してきたサーペントの肉を串に刺したき火にかざし、あぶり焼きをはじめた。

 血の気のない透明に近い肉は火にあぶられ真っ白になっていく。表面がぷくぷくと泡立ち、油が滲んで火に落ちる。

 嗅覚を刺激する香ばしい匂いが辺りに広がりはじめ、プラティナはお腹の虫が騒ぎ出すのを感じた。

 プラティナの横に立っていたジェルもまた口の端から垂れてしまった涎を袖口で拭っている。


「味付けはどうするんです?」

「そうだな……」


 しばらく考えていたアイゼンは、ひた、とジェルに視線を向けた。

 真正面から見られたジェルは怯えたように身をすくませながらも、じっとアイゼンを見つめ返す。


「おい。この辺りで料理に何をつけて食べる?」

「えっと……果物を煮たソースかな」

「もってこい」

「え!?」

「さっさとしろ」

「う、うん」


 転がるように走っていったジェルを見送ったアイゼンはサーペント肉をくるくるとひっくり返しながら焼き続ける。

 何枚かが焼き上がったタイミングでジェルが小さなツボを抱えて戻ってきた。


「これだよ」


 蓋を開ければ甘い匂いが漂った。どろりとした褐色のソースは初めて見るものだ。


「よし」


 満足げに頷いたアイゼンはそのソースをためらいなく焼いた肉にかけた。温まった肉に触れたことでさらに芳醇な匂いが辺りに立ちこめる。


「ほら、食べてみろ」

「はい!」


 差し出されたそれを嬉々として受け取ったプラティナはためらいなく肉にかぶりつく。

 フワフワとしながらも癖のないサーペントの肉は口の中でほろりと崩れ独特な食感をもたらす。それは決して不快なものではなく、むしろいつまでも噛んでいたいと思わせるものがあった。なにより温かいソースとの相性は抜群で、口の中がとろりと溶けてしまいそうな程に絶妙な味わいで舌を喜ばせていく。


「おいひい~~!!」

「だから口の中にものをいれたまま喋るな」


 いつものように冷静な口調ながらも、アイゼンの目は優しい。汚れた口を拭うための布を差し出され、プラティナは頬を染めながらそれを受け取る。

 ぺろりと一切れを平らげ満足感に浸っていれば、じっとこちらを見ているジェルと目が合った。

 期待に輝く瞳に、プラティナは微笑み返す。


「食べてみる?」

「いいの!?」


 飛びつかんばかりの勢いでジェルがサーペントのあぶり焼きを手に取った。

 フウフウと小さな口で軽く冷やして、すぐにそれにかぶりつく。

 口の周りをソースだらけにしながらもぐもぐと顎を動かしていたジェルは、目をまん丸にして何度も大きく頷く。


「美味しい! お姉ちゃんコレ美味しいね!」

「でしょう?」

「おじさんもすごい!」

「俺はおじさんなんて年齢じゃねぇ!」


 二人のやりとりにプラティナが声を上げて笑っていれば、いつの間にか女性たちが近寄ってきていた。


「あの……」

「はい?」

「それ、本当に食べれるんですか?」

「ええ、もちろん!」

「お母さん、コレ美味しいよ!」


 ジェルの言葉が呼び水になったのか、川の民の女性たちも恐る恐るサーペントのあぶり焼きを口にしはじめると、美味しさに驚きと歓喜の声を上げたのだった。

 その騒ぎに出航の準備をしていた男たちや乗船を待つ客たちも集まってきて、片付けそっちのけで大試食会がはじまってしまった。

 当然、小さなたき火では事足りなくなる。

 男性たちがどこからともなく大きな石を集めてきて巨大なかまどを造り、そこにアンバーが火をおこした。

 女性たちが巨大な金網をその上におき、切り出されたサーペントの肉をそこに並べていく。

 アイゼンはサーペントを捌きながら、川の民に食べられそうな部位とそうではない部位について説明をしていた。

 プラティナはジェルと一緒になって焼けた肉にせっせとソースをかけていく。


 気がつけば外はすっかり夕暮れ。

 だが、火を囲みながら食べる食事のおかげでみんな笑顔だ。

 旅をはじめてたくさんの美味しい料理を口にしたが、こんなにたくさんの人と笑いながら食べたのは初めてかもしれない。

 お腹だけではなく心の奥にずっと空いていたぽっかりとした穴が埋まっていくような多幸感に、何故か目の奥がつんと痛くなった。

 旅に出てよかった。心からそう感じられた。

 視線を感じて顔を上げれば、いつの間にか横に座っていたアイゼンがじっと見下ろしてきていた。

 夕焼けに染まった黒い瞳は吸い込まれそうに綺麗で目が離せない。

 きっとアイゼンが従者でなければこんな幸せを知ることもないままに死んでいたのだろう。

 聖地巡礼や自由という目的以外にも、たくさんのものを与えてくれた人。


「またついてるぞ」


 アイゼンの手が、プラティナの頬を撫でる。

 その優しい動きに心臓がきゅうっと苦しくなった。


(……?)


 その苦しみの理由がわからず、プラティナは何度も瞬く。

 こんなにもしあわせなのにアイゼンを見ていると切なくなるのは何故なんだろう。


(いつか、お別れしなくちゃいけないからなのかな)


 旅の終わりか、それとも己の死か。

 どちらにしてもそんな日が来なければいいと願っている自分に、プラティナは酷く動揺する。


「アイゼン、あの……」

「ん?」


 優しい声にますます胸が苦しくなった。

 何か言わなければ。そう考えるほどに言葉が詰まる。


「お姉ちゃん!」

「わ!」


 駆け寄ってきたジェルに腕を揺らされ、プラティナは我に返る。

 キラキラと輝く満面の笑みに、さっきまで抱えていた切なさがどこかにいってしまった。


「ジェル?」

「お姉ちゃん! あのかいじゅうのお肉がたくさんあるから、もう大丈夫だってお母さんたちも喜んでるよ」

「そう。よかったわ」

「皮や牙も全部くれるってほんとう?」

「ええ。私たちの旅にはいらないものだから、みんなの役に立てて」


 サーペントの肉だけではなく皮や牙にはじまる全ての素材は川の民に託すことにした。

 元々、退治してしまったのも場の流れだったし持ち歩いても使い道はない。

 ここで暮らす人たちの生活に役立ててくれれば十分だ。


「ありがとう」


 ぎゅっと抱きついてくるジェルの髪を撫で、プラティナは優しく微笑む。

 旅をはじめて本当にたくさんの人に感謝されたが、こんなにまっすぐに喜ばれたのは初めてかもしれない。

 くすぐったい気持ちになりながらアイゼンとアンバーに振り返れば、彼らもまた優しい顔で笑っていた。


「……ねえ、お姉ちゃん」

「なあに?」


 呼ばれてジェルに振り向けば、何故か腕を引かれてかがまされていた。

 近づいてきたジェルの髪が肌をかすめ、頬にやわらかい何かが押し当てられる。


「……?」

「えへへ」


 頬にキスされたのだと数秒遅れて気がついたプラティナが呆然としていれば、悪戯っぽい笑顔と目が合う。

 びっくりしすぎて声が出ない。頬を押さえたまま固まるプラティナに再び抱きついたジェルが、甘えたような声を出した。


「お姉ちゃん。またここに来る?」

「え、っと……どうだろう」

「絶対また来てね。僕、きっといい男になって待ってるから」

「えっ!? えぇっ!?」

「っ……! このガキ……!!」


 勢いよくアイゼンが立ち上がった瞬間、ジェルはプラティナから離れて駆け出していってしまった。

 残されたプラティナは何が起こったのかを理解できないままだ。


「プラティナ」

「はい!?」


 鋭い声に驚いて再びアイゼンを向けば、先ほどジェルにキスされた頬をアイゼンの掌が覆った。

 ごしごしと少し痛いほどにこすられてプラティナは戸惑いの声を上げる。


「な、なんです」

「汚れてる」

「ええぇ?」


 まだソースがついていたのかと恥ずかしいやらいたたまれない気持ちになりながらも、何故かその手を振り払う気にはなれずプラティナはなすがままにされていたのだった。





 結局、宴となった食事は夜半まで続きみんなは火を囲みながらそのまま夜を明かした。

 無防備に人々が累々と眠る中、アイゼンがずっと隣にいてくれたことを触れあう肩のぬくもりで感じていたプラティナはとても幸せな夢を見た。

 だが残念なことに、目が覚めた時にそれがどんなものだったかは覚えていなかった。





 明けて翌日。

 出港準備が整った定期船に乗り、プラティナたちはラナルトの港町へと無事に出立できた。

 見送るジェルたちに何度も手を振る。

 また必ず来てねと言ってくれる声に応えられない切なさを感じながらも、素敵な出会いに感謝を告げた。


「次の聖地にも無事にいけるといいですね」

「そうだな」


 まだ見ぬ聖地に思いを馳せながら、プラティナは光る水面を見つめていた。


四章はこれにて終わりになります!

いつも誤字報告&いいね本当にありがとうございます。

五章の再会は9月中旬を予定しています!


そして、ありがたいことにこちら書籍化&コミカライズが決定しました。

詳細はまた追ってお知らせいたします。

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