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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
3章 最初の聖地

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31話 あなたでよかった

 

 それから、プラティナたちは祠の裏側に隠されていた通路を通り集落に戻った。

 落ちてしまった吊り橋はアンバーがちぎれた縄を谷底から引き上げてきてくれたおかげで、早めに復旧できそうだった。もちろん、吊り橋に塗られた毒はプラティナが浄化したため二度と誰かが被害を受けることはもうないだろう。


 集落に戻ったリッチェルや住民たちは残って待っていた人々に教祖たちの悪行を暴露し、花が持つ毒性についても説明した。

 パニック状態になった人もいたがプラティナなら癒やせると知りなんとか落ち着きを取り戻したのだった。


「これからどうしたらいいと思いますか?」


 集落の人々を浄化し終えたプラティナに、リッチェルが力なく問いかけてきた。

 聞けば、彼は元々住んでいた街で今集落に住んでいる人たちをとりまとめる役職についていたらしい。どうにかして彼らを守りたい、助けたいと住まいを探している中であの教祖たちに声を掛けられた。


「最初は本当に何もなかったんです。住まいを用意してくれて、ここであの花を育てながら龍に祈るだけでいいと言われて」


 あの花は龍が好む花なので育てれば育てるだけ加護があると言われたそうだ。

 疑問に感じたことはあったらしい。教祖が連れ歩く男たちはどこか異質だったし、彼らは花には近寄らなかった。

 だがそれ以外の暮らしは安定していたし、食事に困ることも無かった。祠付近の土地は枯れていたし、教祖の教えを破って吊り橋を渡ろうとして命を落とした者もいた。静かに暮らしたいという願いが、彼らの思考を鈍らせてしまったのだろう。


「まさか麻薬の密造に関わっていたなんて……みんなにどう謝れば」


 リッチェルは教祖に従い人々を危険にさらしたことを心から悔やんでいるのが伝わってくる。

 プラティナが浄化した住民の中には歩き始めたような小さな子までいて、心が痛かった。花粉がもたらす毒は風に乗って集落全体に広がっていたらしい。大地や水さえもその花粉に汚染され、ここ最近は野菜も育たなくなっていたらしい。

 森の外にある村に教義を広げようとしたのは、人手を補う為だけではなく、安全な食料が欲しかったからなのだと教えられた。


「麻薬に関しては何も知らなかったのですから、気に病む必要はありません」

「ですが、きっと私たちは奇異の目で見られます。ここを追い出されたら、どこで暮らせばいいのでしょうか」


 目を真っ赤にして訴えるリッチェルの向こうには集落の人々がいた。

 居場所を無くすかもしれないという恐怖に怯える姿に、かつて神殿で祈り続けていた自分が重なりプラティナは目を細める。


「大事なのはこれからです」


 プラティナはリッチェルの手を取った。

 荒れ果てた手から、彼もまた教祖に仕えながら花を育て身体を病んでいたのだろうことがわかった。

 聖なる力を込め、その身体を癒やしながら優しく微笑みかける。


「人々は私が癒やしました。大地だって元に戻します。ですから、これからはどうか、みんなで幸せになれるように生きてください」

「うっ……」


 ぼろぼろと涙をこぼしながらリッチェルがその場にうずくまる。

 しっかりとプラティナの手を握ったその両手は小刻みに震えていた。

 きっと何もかも良くなる。

 そんな気持ちでプラティナが微笑んでいると、後ろから伸びてきた腕が腰に回ったのがわかった。


「おい、いつまで聖女様にしがみついてる気だ」

「アイゼン!?」


 軽々とプラティナを抱えあげたアイゼンは、唖然とするリッチェルを残してスタスタと歩き始めた。

 その場に残されたリッチェルは目を丸くして座り込んでいる。


「何ごとです!?」

「浄化にいい場所が見つかったんだよ」


 どこかぶすっとした顔のアイゼンに言われ、ああ、とプラティナは小さく頷いた。

 この集落はソムニフェルムの花に囲まれている。花粉の汚染はかなりの範囲に広がっているだろう。


「手っ取り早いのは花の根絶だ。チビに燃やさせてしまえばいいんじゃないか」

「そんなことしたら森の生態系が壊れてしまいますよ。それに球根が残っていたらまた次の季節に新しい花が咲くだけです」


 アイゼンがプラティナを運んできたのは集落の外れだ。

 ほんの少し高台になっているそこからは周囲の全てが見渡せた。遠くには聖地も見える。

 ゆっくりと地面に降ろされたプラティナは、いい場所だと思いながらゆっくりと傍に膝をついた。両手を組み、静かに目を閉じる。


「本当に大丈夫なのか? さっきまでかなりの人数を浄化してたじゃないか」

「ふふ。ええ、今はなんだか無敵の気分なんです」

「なんだそりゃ」


 どこまでも優しいアイゼンの言葉に微笑みながら、ゆっくりと祈りを込める。

 依り代から受け取った力はまだプラティナの中で大きく渦巻いていた。元々この土地に流れていた力だ。きっと元に戻りたがっているのかも知れない。


「神よ。どうかこの地に住まう人たちに長き安寧をお与えください」


 祈りに答え、聖なる力が大地に染み渡っていくのがわかる。

 これまで神殿で祈っていたときは身体から無理矢理に力を剥ぎ取られているような心地だった。だが今は違う。

 水をせき止めていた栓を外したときのように、流れに沿って力が抜け出て行く。

 イメージするのは全ての毒が消え去った光景だ。人々も花も動物も、魔獣さえ。


(みんなが幸せに暮らせますように)


 そんなのは綺麗事だと誰かが笑う声が心の奥で響いた気がした。

 酷い痛みが頭を締め付けるが、それを無視して祈り続ける。


「なんだ……これは」


 祈りに応え大地全体が光り輝く。

 風にそよいでいたソムニフェルムの花も淡く輝き、その姿をゆっくりと変えていった。

 心地よい倦怠感に包まれながら、プラティナはゆっくりと目を開ける。


「わぁ……!」


 そこに広がっていたのは純白の花畑に囲まれた集落の姿だ。

 様々な色合いが特徴だったソムニフェルムの花は、形はそのままに白い花へと変貌していた。


「お前……まさか花の毒性ごと消してしまったのか?」

「えっと、たぶん?」


 そこまで想像していたわけではないが、あの花にだって罪は無いのだ。願わくばこのまま美しく咲いていて欲しいし、集落の人々を守って欲しいと思った。

 そんな願いが伝わって、あの姿に変わったのかも知れない。


「アイゼン、みんなにもう大丈夫だって言いに行きましょう。きっと喜びます」

「そうだな」


 立ち上がろうとしたプラティナの手をアイゼンが掴み、引き上げてくれる。

 そしてそのままここに連れてこられたときと同じように抱きかかえられてしまった。


「ちょ! 歩けますよ!?」

「あっちこっちでバタバタ倒れてるくせに。黙って運ばれとけ」

「もお……」


 どこまで心配性なんだと苦笑いしながらも、プラティナは大人しく抱えられておくことにした。

 みんなの元に戻れば、一様に驚いた顔をして何をしたのかと詰め寄ってくる。


「あの花の毒は全て分解しました。これから咲く花にも毒はありませんし、球根から悪い薬が作られることはありません。大地も、もう大丈夫です」


 そう伝えれば、リッチェルをはじめとした村の大人たちは声を上げて泣き、あろうことか「聖女さま」とプラティナに手を合わせ始めたのだ。


(私、もう聖女じゃないのに)


 今更ながらに嘘をついていることを思い出し冷や汗を浮かべてアイゼンを見れば、何故か彼はどこか満足げな笑みを浮かべていた。

 元はと言えばアイゼンが彼らを納得させるために言い出したことだというのに。

 ほんの少しだけ恨みがましい気持ちを込めた視線を向ければ、その口元がわずかに上がるのがわかった。


「聖女さまはお疲れだから少し休ませる」

「ああ、もちろんです。休める場所に案内します。あの小屋をお使いください」


 転がるようにやってきた老人に案内されその場を離れるまで人々の聖女コールが聞こえてきて、プラティナは耳を塞ぐのをこらえるので必死だった。

 いたたまれないやら恥ずかしいやらで頭を押さえていれば、アイゼンのかみ殺した笑い声が耳に届く。


「笑い事じゃないんですよ!」

「いいじゃねぇか。あいつらにとってはお前は紛れもない聖女なんだから」

「もう……」


 聖女であった十年間のことが不意に思い出された。

 ずっと孤独で祈り続けた日々。僅かに関わる人たちはいたが、あんな風に涙を流して喜んで貰ったことなど無かった。

 胸の奥がくすぐったくて頬が勝手に緩む。

 安心したからか瞼が重たくなってきた。

 健康になったと錯覚したが、やはり力の使いすぎは否めなかったらしい。

 抱えられて歩く振動がまるで子守歌のように身体に響く。


「プラティナ? 眠いのか?」

「はい……ふぁ……」


 なんとかあくびをかみ殺してみるが、這い上がってくる眠気に勝てそうにない。

 申し訳なく思いながら、抱きかかえてくれているアイゼンの胸に頭を預けた。

 安心できる温かさとたくましさに体温がじわりとあがる。

 瞼の重さにまけながらとろとろと目を閉じながらも、せめて感謝を伝えたくて唇を動かす。


「アイゼン、あなたでよかった……ありがとう」


 あの日、出会ったのがアイゼンじゃなかったら、きっとここまで来ることはできなかった。


「…………も……」


 アイゼンが何か言った気がしたが、その言葉は聞き取れないままプラティナは静かに眠りに落ちたのだった。




 幸せに溺れるみたいに眠りに落ちたプラティナを、用意されていた場所に寝かせたアイゼンは物音を立てないようにその場を離れた。

 さっきまで腕に抱いていた感触を確かめるみたいに掌を何度も握ったり開いたりしながら外に出ると、案内の老人が驚いたように目を丸くしてアイゼンを凝視してきた。


「おや、従者殿もどこか具合が? お休みになられますか?」

「は?」

「お顔が真っ赤ですぞ」


 指摘され短く呻いたアイゼンはその場にしゃがみ込み、動きを止めてしまった。

 その姿に住民達が慌てて軽い騒ぎになったが、木の上で休んでいたアンバーだけは我関せずといった様子で大あくびをしていたのだった。





 その後。

 集落の人々は教祖を名乗っていた男たちを地域の警備隊に通報し突き出した。

 彼らは以前も同じような悪事を繰り返していた指名手配犯だったようで、全員が逮捕されることになった。集落の人々は男達の被害者として処理され、お咎めなし。森の外にある村とも和解し、よい交流を保てるようになった。


 ギルドからやってきた調査団がプラティナが浄化したソムニフェルムの花を調べたところ、本当に何の毒性も確認できず、むしろ球根からは季節性の流行病に効く薬効が発見されたのだった。

 白いソムニフェルムは『プェルムの花』と名付けられ、貴重な素材として扱われることが決まる。

 そうして、森の中の集落はプェルムの花と聖地カーラドの谷を守る村として長く繁栄していったのだった。



三章はここまで。

誤字報告&ブックマーク&評価、いつもありがとうございます。


おかしいな、コメディの筈なのに……と思いながら書き続けて気がつけば10万字(笑)

描写しそびれたので25話にこっそり追記してるんですが、リッチェルはだいたい20代後半の青年です。

アイゼンがぶすっとするわけですよ、はい。


連載再開は8月下旬からの予定です。

何話かの幕間を挟んで新たな聖地に赴く四章がはじまります。

完結まで頑張って投稿するので是非お付き合いください。

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