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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
2章 旅のはじまり

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15話 水源の調査③


(他の冒険者かしら?)


 男たちは周囲をキョロキョロと見回しながら歩いており、アイゼンに気がつくと表情を険しくさせた。


「なんだぁ。お前たちも調査かよ」


 挨拶も前置きもなく乱暴な声をかけられ、本能的にいやだなとプラティナは感じた。

 アイゼンもまた関わらない方がいいと判断したのか、何気なくプラティナを背に庇いながら「そうだ」と静かに答える。


「この先は俺たちが調べ尽くしたから何もないぜ。悪いことは言わないからさっさと他の場所に行くんだな」


 明らかにプラティナたちを邪魔に思っているらしい口調だ。

 相手は五人ほどの集団で全員武器を持っていた。冒険者同士の争いは御法度だとギルドではきかされていたが、彼らから感じる空気はどうも好戦的で気分が悪い。

 アイゼンごしに男たちをじっとみていたプラティナに、集団の一人がようやく気がついたらしく「おっ!」と喜色めいた声をあげた。


「女がいるじゃないか」


 その一言に男たちが一斉に色めきだちプラティナに視線を集中させた。

 だがアイゼンが一歩前に出てその視界から遮ってくれる。


「俺の助手だ。俺たちは薬師として水源の汚染内容を調べにきただけだ。お前たちに指図される謂れはない」

「なっ……!」


 毅然としたアイゼンの言葉にリーダー格らしき男が眉をつり上げた。他の男たちも同様に苛立った空気になる。

 このままでは争いになるのではとプラティナが冷や汗を浮かべていると、男たちの後ろからまた違う集団がやってきた。


「お前たち、また騒ぎを起こす気か」


 どこか涼やかな声に顔を上げれば、すらりとした金髪の青年を先頭にした集団が道なりに歩いてきているところだった。男たちはその姿に「げ」と短く呻き、さっきまでの威勢はどこへやらという様子でソワソワし始めた。


「この前も他の冒険者と喧嘩になってペナルティを科せられたはずだろう。また奉仕活動がしたいのか」

「別にそんなんじゃねぇよ。チッ、いくぞ」


 青年の言葉に男たちは怯えるように歩き出す。解放されたことにプラティナがほっとしてアイゼンの袖をきゅっと掴んだ。


「大丈夫か?」

「はい。ちょっとびっくりしました」


 あんな絡まれかたをしたのは生まれて初めてだったので正直怖かった。アイゼンがいてくれなかったら卒倒していたかもしれない。


「君たち、大丈夫かい?」


 心配そうな声で呼びかけてくれた青年の笑みは穏やかだ。

 青年の後ろにいる人たちもみな穏やかな笑みを浮かべており、プラティナたちを案じてくれているようだった。


「助かった」

「よかった。あいつらはちょっと問題のある冒険者として有名なんだ。特に最近は、調査に来た冒険者にやけに突っかかって騒ぎを起こしている。ギルドも問題視しているから、なるべく関わらない方がいい」

「なるほどな」

「僕はセイン。こっちはパーティメンバーのみんなだ。君たちも水源の調査に?」

「ああ」


 セインと名乗った青年は人好きのする笑みを浮かべ、アイゼンと握手を交わす。


「そうか。でもこの先には残念ながら何もなかった。動物たちや植物に影響は出ていないようなんだが……」


 不可思議そうに首をひねるセインたちの様子から、本当に何もわかっていないことが伝わってくる。隠しごとをしない態度といい、とても好感が持てた。


「俺たちは薬師なんだ。水質を調べて薬が作れないか調べに来た」

「なるほど! 状況がよくならないのならば薬はあるに越したことはないし、是非頑張ってくれ」

「ああ」

「俺たちは今からギルドに戻る予定だ。さっきの連中がまだこの辺りをウロついている可能性もあるし、どうか気をつけてくれよ」


 優しい言葉を残し、セインたちは去って行く。

 なんだか怒濤のように人と会話したからか心臓がどきどきしていた。

 胸を押さえてじっとしていると、アイゼンが困ったように眉を寄せている。


「冒険者といってもいろいろな連中がいる。俺から離れるなよ」

「はい」

「どうする? このまま進むか? 何もないとは言われたが……」

「原因が呪いなら見ただけではわからないと思います。とにかくもう少し奥に進みましょう」


 アイゼンと共に先に進んでいくと、不思議なことに何故かどんどんと道が狭まってくる。渓谷に向かっているはずなのに何故か森の奥へ奥へと誘われているようで不思議な感覚だった。隣を歩くアイゼンもそれを察知したのか、腰の剣に手を伸ばし警戒した表情を浮かべていた。

 だが、道なりに細くながらも川は続いている。きつくなってきた斜面にそって道を進んでいくと、不意に開けた場所に出た。


「わぁ」

「なんだここは」


 そこにあったのは切り立った崖だ。細い滝が淵をつくり、川となって先ほどの道の脇を流れ込んでいく。


「ここが水源ですか?」

「いや……地図にはこんな場所は書かれていない。さっきの道も不自然だった。渓谷には一本道のはずなのに」


 アイゼンと共に周囲を見回すが、人気はなくとても静かな場所だった。満ちている空気はとても清浄なもので、優しい匂いが満ちているのがわかる。


「ここは自然にできた聖域なのかもしれない」

「聖域?」

「ああ。何らかの条件が混ざり合うと、自然発生した魔力が結界を作って人間が立ち入れない場所を作ったりするんだ」

「なら私たちはどうして……?」


 首を傾げれば、アイゼンが何か言いたげにプラティナを見てきた。


「君の聖なる力が結界に干渉したのかもしれない。他の連中はこの場所に気がつかなかったんだろう」


 そんなことがあるのだろうかとプラティナが周囲を見回していれば、淵の近くに何かが落ちていることに気がついた。最初は植物かと思ったそれが、もぞりと動いたのが目に入る。


「あっ!!」


 気がついたときには駆け寄っていた。慌てたアイゼンの声が聞こえたが止まれなかった。


「なんてこと!」


 それは全身を鈍色の鱗に覆われた翼の生えたトカゲだった。猫ほどの大きさがあり、ぐったりと地面に横たわっている。よく見れば尻尾の一部に深い傷があり、そこから青い体液が流れ出て滝壺に流れ込んでいた。


「魔物の子どもか? こんな種族は見たことがないぞ」

「怪我をしてるみたいです」

「おい、あぶないぞ」


 制止する声が聞こえたが、プラティナは構わずそのトカゲに手を伸ばした。ひんやりとした身体はつるりとしていて滑らかだ。浅く上下する背中を撫でながら、傷を確かめる。


「ひどい……何かで切られたみたいです」

「傷跡がえぐれているな。かぎ爪のようなものでやられたんだろう。誰かに狩られたのかもしれない」

「ひどい。こんな小さな子を……」


 ここは禁猟区ではなかったのか。

 込み上げてくる憤りから唇を噛みながら、痛々しい傷跡にそっと指を触れる。


「きゅう」


 トカゲが苦しそうに鳴く。プラティナを見つめる琥珀色の瞳はうるうると揺れており、怯えているのがわかった。


「すぐに治してあげるからね」


 指先に聖なる力を込めて治癒を祈る。ごっそりと力が取られるのを感じたが、必死に祈れば、深い傷が見る間に塞がり流れ出ていた体液も止まった。


「はぁ……」

「大丈夫か!?」


 魔物の治療などはじめてで、全身が疲労感に包まれたのがわかった。その場に座り込んだプラティナの身体をアイゼンが抱き留めてくれる。


「きゅう! きゅう!!」


 すっかり傷の癒えたトカゲは起き上がるとその場でぴょんぴょんと跳ねて全快を喜んでいる。小さな翼をパタパタとさせ、ふわりと身体を宙に浮かべていたトカゲは座り込むプラティナの膝に乗ると、甘えるように喉をならす。


「まあ……」


 そのあまりの可愛さにプラティナは頬を緩ませ、小さなすべすべとした頭を撫でた。琥珀色の瞳が嬉しそうに細まり、さらに身体をすり寄せてくる。


「懐かれちゃいました」

「……まったく、魔物を治療するなんて馬鹿な話を聞いたことがないぞ」


 呆れきった様子ながらもアイゼンはプラティナを責める様子はなかった。むしろ、彼もまたどこか安心した優しい顔をしている。


「しかしこんな生き物みたことがないぞ? 何かの突然変異か亜種か……」

「危険はなさそうですけど。まだ子どものようですし」


 両手で抱き上げてみれば驚くほどに軽い。しかしその表皮はしっかりしているし、口の中にはびっしりと牙があった。だが大きな瞳と愛らしい仕草のせいか、怖いとはまったく思えない。


「きゅう」

「あなたずっとあそこにいたの? 痛かったでしょう」

「きゅう~~」


 怒ったような声をあげ、トカゲが先ほどまで自分の倒れていた場所を睨むような仕草をした。青い体液がこびりついた地面は見るほどに凄惨だ。その部分に触れている水面も青く濁っており、ずいぶんと汚れてしまっているのがわかった。


「……もしかして!」


 トカゲを腕に抱いたまま、プラティナは濁った水面近くに駆け寄る。

 水に指を差し入れれば、どろりとした独特の感触が皮膚にまとわりついた。悪寒で肌が粟立つ。


「どうした?」

「これです!」

「は?」

「この汚れが汚染の原因です!!」

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