エピローグ
次にプラティナが目を覚ました時にはすべてが終わっていた。
レーガの部屋に累々と倒れていた者たちはすべて息絶えていたそうで、その中に神殿長もいたという。
その遺体がもっていた鍵を使いメディは外に出ることができた。
プラティナはヴェルディとその周りだけを浄化したつもりでいたのだが、どうやらあの時に城を中心に王都のほとんどに浄化の力を届けてしまったようだ。
おかげで、この国にレーガがかけていた魔法は完全に解け、操られていた人たちは自分たちが何故あんなことをしていたのかわからない状態らしい。
自らの意志を持ってレーガに従い私腹を肥やしていた貴族たちは、正気に戻った兵士とギルドの冒険者たちに捕まり、これまでの不正のツケを払うことになった。
そして。
「アイゼン、どうして私の目を見ないんですか」
「…………」
プラティナはすっかり元気になっていたが、王都すべてを浄化するというとんでもない御業を成し遂げたこともあり、大事を取って神殿の一室に寝かされていた。
部屋の隅に置かれた椅子にはアイゼンがずっと座っており、足を組んで腕を組んでそっぽを向いている。
目が覚めて状況を説明してもらったあと、アイゼンと二人きりにされてすぐにプラティナは思わず『アイゼン、好きです!』と意識を失う前と同じ告白をしてみた。
アイゼンはぴしりと固まったあと、何故か視線を逸らし、ゆるゆると今の位置に行ってしまい、それからずっと動かない。
「アイゼン」
「…………」
呼びかけても返事はない。
ベッドから降りて近づこうとすると、アイゼンは部屋から出て行ってしまいそうになるので動けない。
そんなまんじりとした時間が過ぎる中、痺れを切らしたプラティナぷうっと頬を膨らませた。
「アイゼン、私、アイゼンが好きです! ずっと一緒にいたいです! アイゼンはどうですか!」
真っ直ぐな告白にアイゼンの身体がびくりと揺れた。
「返事をしてくれないなら、私、みんなにアイゼンが返事をしてくれないって相談してきます」
「それはやめろ!」
ようやく声を上げたアイゼンの耳が赤い。
プラティナを恨めしげに見つめたあと、アイゼンは長く深い息を吐いた。
「……君のそれは、違う」
「何が違うんですか?」
「君はずっとこの神殿に閉じ込められてきた。俺を好きだと感じる気持ちは、雛鳥がはじめて会った生きものを親と思うようなそれだ。だから違う」
まるで言い訳を探すような口調だった。
視線はずっとこちらを向かないし、不機嫌そうに顔はしかめられたまま。
「どうしてそんなこと、言うんですか。私、ちゃんとアイゼンが好きなんです。アイゼンのことを、男の人として」
「だから、君のその好きは、俺の好きとは違うと言ってるだろう! 俺がどれだけの想いで…………!」
勢いよく立ち上がった弾みに、アイゼンが座っていた椅子が倒れた。
床に椅子が転がる音と、アイゼンの叫びが部屋の中にこだまする。
「えっと……」
ようやく静寂が訪れた瞬間、アイゼンは無言で歩き出し、部屋の扉に手をかけた。
「ま、まって!」
今、逃げられたら二度と会えない気がする。
慌てて起き上がりベッドから出ようとした瞬間、足ががくりと震え、床に落ちそうになった。
「プラティナ!」
それを抱き留めたのはやはりアイゼンだ。
大きな身体にすっぽりと抱きしめられ、そのまま二人床に倒れ込む。
「無理をするなと言っただろう!」
「ご、ごめんなさい」
「まったく……」
プラティナを胸に抱いたまま仰向けになっていたアイゼンが天を仰ぐ。
その胸板に顔を押しつければ、心臓がうるさいくらいに高鳴った。
同時に、アイゼンの心臓も大きく動いているのがわかる。
「……俺は、君とは違う生きものだ。身寄りもなく、地位も名誉もない。人に言えないような過去だってあるし、生きるためとはいえ命だって奪ったことがある。だから、俺は君に相応しくない」
切なさを孕んだ声に、アイゼンがどれほどの思いでいたのかが伝わってくる。
プラティナの告白を受け入れないのは、自分の存在がプラティナのためにならないと確信しているからだ。
「関係ありません。私の知っているアイゼンは、頼もしく賢くて、ちょっと乱暴で……世界一かっこいい人です。私、アイゼンが傍にいないともう駄目だと思うんです」
「……君、なぁ」
手のひらで顔を覆ったアイゼンが情けない声を上げた。
耳朶が真っ赤なのが見える。
きっと今のプラティナの顔も赤いに違いない。
「俺を選んでも君には何の得もないぞ」
「私だって、あなたと出会った時は余命わずかだったんですよ? 何にもない私をアイゼンは大事にしてくれたじゃないですか。おかげで、私、こんなに健康になりました!」
あの日の死を覚悟したプラティナはもうどこにもいない。
これからは、この国を守り人々を幸せにするために時間を使いたい。
でも、一番幸せにしたいのは目の前のアイゼン。
「今度は私がアイゼンを大事にします。だから……」
どうかこれからもずっと傍にいて。
絞り出すように伝えた言葉に、アイゼンは困ったように微笑んで、それから答えの代わりに額に優しく唇を押し当ててくれた。
「後悔してもしらないからな」
「しません! 絶対に!」
この先、どんな困難があったとしてもアイゼンがいてくれるならきっと乗り越えられる。
そんな確信を胸に、プラティナはアイゼンに思いきり抱きついたのだった。
強大な力で国を治めていた女王レーガが病で崩御した。
その知らせにシャンデ国内はわずかに動揺したものの、跡を継いだのが長きにわたり国のために祈りを捧げてきた王女である聖女プラティナだと知って大いに盛り上がることになった。
女王になったプラティナは、レーガの治政で荒れていた貴族社会を立て直し、国民に目を向け、これまで虐げられてきた人々にも手を伸ばした。
ギルドとの関係も良好で、これまでは一方的だった他国との交易を正常化させ、国の発展を助けた。
そして即位から数年後、プラティナは彼女をずっと支えてきた護衛騎士アイゼンとの結婚を発表した。
彼は素性こそ曖昧な元冒険者であったが、経験を活かした助言で女王を支え、よき王配としてシャンデを共に守っていったという。
完結まで長く時間がかかってしまいましたが最後までお付き合いありがとうございました
私にとってはいちばんの長編作となりました
プラティナとアイゼンの物語を書き上げることができて本当によかったです
評価やブックマークなどで応援いただいた皆さま、ありがとうございます
連載再開時から実装されていたスタンプも更新の度に押していただき嬉しかったです
書下ろしの後日談が収録された書籍3巻は4月発売です
どうぞよろしくおねがいします





