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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
九章 最後の戦いと魔女の末路

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89話 レーガとの対決


 上へと続く階段は静かだったが、城の中らしき部屋に出るとずいぶんと騒がしい気配がする。

「噂通り、ずいぶんと混乱してるね」

「見つかる心配は」

「ここは一応、地下牢に入るための隠し部屋だから大丈夫。んで、確かこの辺に……あった!」

 見た目はクローゼットになっている扉を開けば、窓のない長い廊下があらわれた。

「これは王族とかだけに伝わってるこの城の隠し通路。さっきの地下牢とか、王族の居住区とかその辺に繋がってるんだよ」

「よく見つけたな」

 感心半分呆れ半分のアイゼンに、ノースはふふんと自慢げな笑みを浮かべた

「俺、これでも凄腕の諜報員なんで。ベックさんが仕入れた情報通りなら、レーガは王の寝室に引きこもってるってよ」

「お父様の……」

「そこに神殿長と、お目当ての宰相もいるはずだよ」

 ぞわりと首筋の毛が逆立つ。

 ここから先に進んでしまえば、もう後戻りはできない。

 だからこそ、前に進む時が来た。

 アイゼンと並んで廊下を進む。

 先を歩くノースは、時折、両の壁を叩いたり耳を当てたりしながら城内の様子を窺っていた。

「やっぱかなり荒れてるね。レーガだけじゃなく宰相もいないし、国は混乱状態だし」

「大丈夫でしょうか?」

「シャンデは強国で有名だからそう簡単に攻め入れられないとは思うけど、時間はかけない方がいいと思うな」

 国のためにも急がなければ。

 はやる気持ちから自然と歩みが早くなる。

 そうして、先に進んでいくと、だんだんと周りの空気が濃く重くなっていくのを感じた。

 まるで沼の中を歩いているような気分だ。

「最悪だな」

「大丈夫ですか、アイゼン」

「ああ。ただ酷く醜悪な臭いだ。魔力か?」

「レーガだね。これまでは巧妙に隠せてたけど、プラティナちゃんと龍からの魔力の供給が絶えたことで原液垂れ流しになった、って感じじゃないかな」

 魔力には本人の性質が深くあらわれる。

 邪悪な魔力はそれだけで人間を不快な気持ちにさせる波動を持つというが、ここまでとは。

「着いたよ」

 目の前には大きな朱色の扉があった。触れるのを躊躇うくらいにべっとりとした魔力が染みついている。

「私が開けます。皆さんは下がっててください」

「えっ、危ないって」

「この魔力に触れる方が危険です。私、聖女ですからまかせてください」

 ノースを追い抜き、プラティナは扉を押し開けた。

 ぎぎっと引き攣れた音を立てながら開かれた先には、懐かしい父の部屋が広がっている、はずだった。

「な、何……!?」

 目に飛び込んできたのは下品な赤だ。

 絨毯も大きなベッドに使われている飾り布やシーツもすべてが赤だった。壁さえも真っ赤に塗られており、まるで部屋全体が血に濡れているようでさえあった。

「うっ……何だこの臭いは」

「何か腐ってんのか……げぇ!」

 ノースがその場で軽く身体をのけぞらせる。

 何があったのかと視線を追えば、床にたくさんの人がたおれていた。男性もいれば女性もいる。性別がわかったのは彼らが服を着ているからだ。顔はわからない。何故ならみんな、干からびていた。

「ひっ、なんですかこれ……」

 一番近くに倒れていた執事服を着ている人に近づき、アイゼンがその様子を確かめる。

「……息はない。これは、生気を吸われている……?」

「そう。その者らは妾の糧になったのだ」

「!!」

 ベッドの上でのそりと動く人影にプラティナたちは警戒態勢を取る。

「久しいのプラティナ。ずいぶんと大きくなったではないか。あの憎らしい巫子、そっくりではないか」

「お義母様……」

「ははは! まだ妾を母と呼ぶか! 憎たらしい子だね!」

 真っ赤なシーツに肢体を包んだレーガがゆっくりと立ち上がる。ベッドの上には服を着ていない人間だったものが何人も転がっている。

「何をしているんですか。この人たちは……」

「お前のせいだろう、プラティナ」

「えっ」

 レーガがひたとプラティナを睨む。

「お前が妾から大事な力を奪った。そのせいで妾はこやつらから力を吸うしかなくなったのだ」

「そん、そんな……」

 まさかと思い後退れば、レーガ不愉快な声を上げて笑う。

「もう少し力を蓄えてから迎えに行こうと思っていたが、まさか自分から鳥かごに戻ってくるとはな!」

 ごっと音を立てて部屋の空気が一瞬で熱くなる。

「っ……」

 その瞬間、身体のあちこちが針で刺されたように痛む。

 思わずうずくまればアイゼンたちが慌てたように駆け寄ってくる。

「プラティナ!」

「プラティナちゃん」

 その光景にレーガが酷く楽しそうに声を上げた。

「やはり、そなたに喰わせた呪いはまだ残っておるようだな。妾が生涯を掛けて作った呪いだ、さすがの龍でも壊せなかったか!」

「っ……でもあなたは私からはもう力を奪えないはずよ。いい加減、諦めてこんなことは……ああっ」

 急に増した痛みにプラティナは喋ることさえままならなくなる。

「ふははは!」

 レーガは自らの胸の中に手を突っ込む。血は一滴も出てはいないが、何故かすっぽりと手が収まっていた。

 異様な光景に目を見開けば、レーガはゆっくりとそこから手を引き抜く。

(収納、魔法)

 何かが手に握られていた。

 見せつけるようにレーガはそれはを指先で弄んで見せた。

「何?」

 それは真っ赤な宝石で、不気味なほどに艶やかだ。見た瞬間、痛みがますます強くなってく。

「これは妾の血から作った宝珠じゃ。お前の身体……いや、魂にはこれがしっかりと食い込んでおるのだ。どんなに逆らっても、妾がこの宝珠に力を込めれば、身体に残った宝珠の破片がお前を苦しめる。どうだ、痛いだろう?」

 にやにやと笑うレーガは顔の作りは美しいのに酷く醜悪な顔をしていた。

 苦しむ人間を見るのが楽しくて仕方がない、そんな顔だ。

(人ではない)

 このままにしておけば、レーガはこの国中の人々を苦しめるだろう。

 そんなことは絶対に許されない。

「さあプラティナ、こっちにおいで。痛みを取り除いてやろう。おとなしく再び妾のものになれば、そこにいるお前の大事な男たちは助けてやらんことはないぞ」

「ッ、ふざけるな。お前ごときに俺が後れを取ると? ぶった切ってやる」

「あんまり舐めないでくれるかな」

 アイゼンとノースが同時に床を蹴り、レーガに向かう。

 だがその直前で、二人の剣を受け止めた巨体があらわれた。

「ヴェルディ!」

 それは自分の身体ほどもある大剣を振るうヴェルディだった。その瞳に光はなく、ひと目で操られているのがわかった。

「はははは! よくやったヴェルディ!」

「ヴェルディ!」

 プラティナの呼びかけに反応する気配はない。

 彼は大剣を振るいアイゼンたちをはね除けると、レーガを守るようにその前に立ちはだかった。

「この憐れな男はのう、自力で妾の支配から抜け出し、主の娘であるお前を逃がしたのだ。こそこそと妾の邪魔をしようとしておったわ。なんとも憎らしくも憐れな男じゃ。だから妾も全力で応えてやったのよ」

「何を……彼に何をしたんですか!」

「大したことではない。ちょっと自我を破壊してやっただけだ。二度と元には戻らぬ」

 にんまりと口の端を左右に引き上げ笑うレーガに、プラティナは拳を握りしめた。

(やっぱりヴェルディが私を)

 せっかく助けてくれたのに、間に合わなかった。

 申し訳なさに涙が滲む。

「ははは! 死の恐怖のない人間とどう戦う? 殺すか? その優しい娘の前で!」

「くっ、この外道が」

 唸るアイゼンをレーガが楽しそうに見下ろす。

「さあ、どうするプラティナ! たとえ逃げてもその痛みは一生お前を苛むぞ! 妾はどんな手段を使ってもお前を絶対に捕まえてやる!!」

「ぶっ殺してやる、魔女が!」

 アイゼンが吠えるがレーガに近づこうとする度にヴェルディが邪魔をする。

「ははは! 無駄じゃ! 妾には死という概念はない! この肉体が果てたとしても代わりはいくらでもいる!」

「代わり……まさか、メディ!?」

 メディから聞いた話が頭をよぎる。代わりの肉体。そのためにメディが生かされていたのだとしたら。

「ははは! 他人でもかまわぬが、血を分けた肉体はもっとも相性がいいからのう。産んでおいてよかったわ」

「酷い……」

 あまりの残酷さに叫ぶこともできなかった。

 人とは違う理に生きるレーガは、プラティナたちの考える常識をたやすく破壊し超えてくる。

「どうするプラティナ! もっと痛くしてやろうか!」

「痛っ……!」

 レーガが宝珠を握り絞めると痛みが増す。

 立っていられなくなってその場にうずくまる。気を抜いたら意識を失ってしまいそうだった。

「プラティナ!」

 アイゼンが悲鳴じみた声を上げ、プラティナの身体を抱きしめてくれる。

「しっかりしろ……!」

 今にも泣きそうな顔をしたアイゼンにプラティナまで泣きたくなった。

「だい、じょうぶ。痛いだけ、ですから」

「大丈夫なわけがあるか! ノース、魔女からあれを奪え!」

「気軽に言うなよっ! くそ、この宰相様、何なの? まったく隙がないんだけど!」

 果敢にレーガに向かっていっては、ヴェルディに阻まれているノースが叫ぶ。

「無様だのう! それ、もっと苦しめ」

「きゃあぁっ!」

 赤い宝珠を握り絞められると、それに呼応するように身体が悲鳴を上げた。

 アイゼンが抱きしめてくれなければ、もう気を失っていたかもしれない。

(私のせいだ。私が何も考えずにここまで来たから)

 もっと警戒すべきだった。作戦を練って冷静に準備していれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。

 痛みに意識が遠のきかけた、その瞬間、ローブの中で何かが動いた。

「プラティナをいじめるなぁ!」


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