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第163話:ママ度上昇中

 ユニコーンの杖の修理を終えた、翌日。フォルティア王国を代表してシフォンさんたちも同行するなか、魔族の街へと出発した。


 本来であれば、多くの護衛騎士を引き連れていくけど、今回ばかりはメルとリズに頑張ってもらうしかない。時間をかけて準備すると魔の森の異変も進むだけだし、大勢で向かうとクレス王子の存在が知れ渡ってしまう。


 いざとなったら、戦闘メイドのアリーシャさんもいるし、ユニコーンの杖を手にしたレミィもいる。少数精鋭ということにして、緊張感を持って進んでいった。


 そんなこんなで四日が経過し、魔族の街までやってくると、大きな口を開けて驚く魔族の警備兵が出迎えてくれた。


 数週間前、二百年ぶりに人族が訪れたばかりなのに、また違う人族がやってきたんだ。驚くのも無理はない。


「ジジール様? 大勢の人族と一緒に来られるとは、いったい何があったのでしょうか?」


「ベルガス様とレミィ様の客人になります。顔くらいは覚えて差し上げなさい」


「は、はいっ! しょ、少々お待ちください」


 魔族の四天王であるベルガスさんの執事ということもあり、鶴の一声で警備兵が門へと向かっていく。そして、やっぱり悪魔の角が付いたカチューシャを持ってきたので、再びコスプレをする羽目になってしまった。


 何の迷いもなくホワイトブリムを外し、悪魔の角を装着するアリーシャさんはさすがだよ。誰よりも似合っていると感じるのは、俺の親バカ属性が反応しているんだろうか。パパと呼ばれることに慣れ過ぎたのかもしれないな。


 未婚のまま大きな娘が二人いるという複雑な心境を抱きながら、ベルガスさんの屋敷へ歩き続けると、すぐに到着する。


 そこには、屋敷の庭で佇むベルガスがいた。大量の魔晶石が山のようになっていて、どうやって処理しようか悩んでいるように見える。


 魔の森の異変を促進させていることが発覚したため、手分けして魔族で採取したんだろう。俺が採取した魔晶石はヴァイスさんに渡したし、ユニコーンの杖の依頼報酬は話し合われていない。


 つまり、これはチャンスである。


 危険を冒さずにレア素材をゲットする機会が到来したため、俺は猛スピードで近寄り、ベルガスさんの顔を覗き込む。


「随分と採取しましたね。これ、どうするんですか? 置き場所にお困りのように見えますが」


 いらない。不要なものだ。お前にやろう。そんな言葉を期待して、ベルガスさんに力強く圧をかけていく。


「帰ったか。一通り魔物繁殖エリアに存在する魔晶石を採取したんだが、予想以上に多くてな。有益な素材ではあるものの、処分に困って――」


「武器修理の報酬でもらう形でどうでしょうか。高難易度の依頼でしたし、ドワーフ族の方にも協力をいただきましたので、こちらでトントンだと思います」


 驚くベルガスさんを見れば、期待はしていたものの、本当に修理できると思っていなかったように感じる。よって、もう少し押すだけで、この魔晶石は俺のものになる。


「千年近くは機能が失われていたと聞くが、無事に修理ができたのか?」


「すーーーごい大変でしたけど、修理は完了しました。それはもう、すーーーごい大変でしたけどね」


 大量の魔晶石をもらっても当然ですアピールをしていると、ユニコーンの杖を見せびらかすレミィが援軍のように現れた。


「ベル兄、見てみてー! ピカピカになったのー!」


「これが……あのユニコーンの杖だというのか。放たれる波動がまるで別物だな」


 ウットリするようにユニコーンの杖を眺めるベルガスさんを見れば、もう勝ちは確定したようなもの。あとは言質をいただき、インベントリに入れるだけだ。


「そうでしょう? 綺麗でしょう? 魔晶石で取引しようと思うと、やはりこれくらいがトントンに――痛ッ」


 猛スピードで揉み手をしていると、いつの間にか距離を詰めていたリズに、バスッと蹴りを入れられた。


「悪いところが出てるぞー。珍しい素材はすーぐ独り占めしようとするんだから。ごめんね、ベルガスくん。ミヤビはたまに強欲になるの」


「何を言うか。魔族にとっては、ユニコーンの杖が修理されたことは、何よりもありがたいことになる。これくらいの魔晶石を譲る程度であれば、安すぎるくらいだ。魔の森の異変が終われば、もっと採取して送ろう」


「いいんですかっ!?」


「少しは遠慮しなさい!」


 バンッ! とリズの本気蹴りがさく裂したところで、意外にも身内に営業妨害する者がいると確信した。もっともクラフトスキルの恩恵を受けているパーティメンバー、リズである。


 これは大事な話し合いが必要だと思い、庭の端っこに引っ張り出し、ヒソヒソ話に切り替える。


「よく考えてくれよ、リズ。ユニコーンの杖を修理してくれたヴァイスさんの分もあるんだぞ。付与魔法に必要な素材だし、もらえるものはもらっておくべきだろう」


「個人的な取引だけで済ませるなら、シフォンちゃんを連れてきた意味がないでしょ。人族と魔族が長い時間をかけて作った溝を埋めないといけないんだし、あれだけもらえれば十分じゃん。強欲にならないの」


「構造研究から始まって、素材を用いた実験にも消費するんだ。ヴァイスさんも未知の素材と言っていたし、製品化するまでには思っている以上に消費すると思うんだよ」


「我が儘は言わないの。あれ以上に大量の魔晶石を隠し持ってたら、命を狙われるかもしれないよ。魔晶石よりもミヤビの命の方が大切でしょ」


 ……真剣な顔でそういうこと言うのは、ズルくないですか? こっちが折れるしか選択肢がなくなりますよ。


「じゃあ、あの魔晶石の山で手を打ちます」


「納得できて偉いねー、よしよし。じゃあ、シフォンちゃんに出番を譲ろうねー」


 アリーシャさんが、リズのことをママと認定した影響だろうか。なぜか俺が子供扱いされている。さすがに今回ばかりは仕方ない気もするが……、少し納得がいかない。


 俺、父親ポジションにいたはずなんだけどな。


 リズに連れられていき、メルに肩をポンポンッと叩かれて慰められた後、出番を待っていたかのようにシフォンさんがベルガスさんに近づいた。


 貴族令嬢らしい丁寧なお辞儀をする姿は、レミィとぬいぐるみ遊びをしていた人と同一人物とは思えない。次期領主らしい振る舞いだった。


「はじめまして。わたくしはシフォン・ベルディーニと申します。魔の森に隣接する街の次期領主です」

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