#05-00
新章です。今後は毎週水曜日の0:00の更新を目指していきます。ただ、必ず週刊で掲載できるとは限らない点、予めご了承下さいませ。
薄暗い部屋の中、3つの人影が飲み物を手に談笑していた。
「アマテラスがやられたようだ」
「ククク……奴はCα四天王の中でも最弱……」
「Cαの面汚しよ……」
静寂。それは3秒ほど続いたが、
「……ぷっ」
ひとりが小さく吹き出すと、
「ぶぶっ、ぶふぁははははは!」
「くくくっ……お、お腹痛い…………」
「はははははははは!」
3人とも腹を抱えて笑い始めた。
直後、薄暗かった部屋のLED照明がピッと音をたてて光度を増していく。
そこは二台のPVベッドが奥に置かれている、殺風景な部屋だった。ただ、部屋の中央には大きな丸テーブルが置かれ、その上に酒瓶やビール缶、スナック菓子やつまみの類が広げられている。馬鹿話をしていた3人は、そんなテーブルを囲みつつ、ゲラゲラと笑っているところだった。
「なにやってんだか……」
部屋に入ってきたのはデニムのエプロンを身に着けた小太りの男性だ。左手に持っているトレイには、香ばしい匂いを漂わせているイカの揚げ物が載られている。
「あっ、できた?」
目元に涙すら浮かべて笑っていた女性が手伝おうと席を立ちあがるが、小太りな男性は照明リモコンを持ったままの手を軽くふり、テーブルにスペースを作るようにと目で促した。
「おー、きたきたぁ! 旦那のイカリングさいこー!!」
「いつぶりだっけ?」
女性を手伝いながら、ビール缶やグラス、スナック菓子類などが広がっているテーブルを他の2人も片付けていく。
片方はリングが揺れるピアスをつけたソフトモヒカンの軽薄そうな青年。
もう片方は短い髪を逆立てている垂れ目気味のメガネの青年だ。
「確かCα中だったから……半年前?」
「そうっすねぇ」とソフトモヒカン。
「そっかぁ。もう半年かぁ」とメガネ。
「早いもんねぇ」
小太りの男性のためにウーロンハイを作り出した女性は、懐かしそうに目を細めた。
『 PHANTASIA ONLINE 』クローズドαテスト──通称“Cα”。それは、医療用として開発されたPVRを娯楽レベルまでデチューンすることを目的としたデータ取りの一種だった。
テスターの過半数はNEUROジャパン社に縁故を持つ者たち。ここにいる四人も、メガネの青年が当時のNEUROジャパン社で契約社員として働いていたことからCαになれた幸運な者たちなのだ。
「ところで先輩」とソフトモヒカンが女性に尋ねた。「《青》のあれ、いつまで放置しとくんっすか?」
「あれって?」
「ほら、騎士団の連中、狡いことやって……」
「ああ……奴らね。うん」
女性は自らの前髪を指先でいじり始めた。
「あれって……どう考えても、金儲けの手段に使おうとしてる……よね?」
「だろうね」
ウーロンハイを持った小太りの男性が苦笑混じりに頷いた。
「でも、だからといって全否定されるものでもないよ? そりゃあ、僕らみたいに生粋のゲーマーからしたら、ああいうのは目障りにしか思えないけど、下手に潔癖すぎるとVRMMOってジャンルそのものを閉じてしまいかねない。いろいろ、微妙なところだよ」
「でも旦那、逆にイメージ、悪くなるんじゃないっすか?」
「うん。だから、一応は警告を……したんだよね、平井くん」
小太りの男性は、メガネの青年に尋ねた。
「ええ、しておきました」
メガネの青年はビール缶で喉を鳴らしてから答えた。
「といって、僕はもう契約社員じゃないんで」
「社長様だもんねぇ」と女性。
「ひゅーひゅー」とソフトモヒカン。
「からかうなよ」
メガネの青年はソフトモヒカンの肩をこづき、照れを隠すようにビール缶を煽った。
「おもいきったよねぇ、あの時点で起業だなんて」
「賭けですよ、賭け。これからPVR市場が賑わうなら、うちみたいにオブジェを作る仕事が増えるじゃないかって。まあ、今はPOの下請けだけですけどね」
「で、どこのデザインを?」
「企業秘密です」
「くくく」と女性。「倒壊都の教会に──」
「あー、なんのことですかねー、せんぱーい」
メガネの青年がわざとらしく大声を出すと、場には笑いが起こった。
「でもさ」
と、女性が梅酒ハイを口にした。
「いいところ、ついてると思うよ? PVRのオブジェデザイン、普通に見た目を整えるだけで終わりってわけにもいかないわけだし」
「だからこそ!」
ソフトモヒカンが力説した。
「騎士団っすよ、騎士団! 奴らのせいPOがコケたら洒落になんないんすよ!」
「あー、実はこいつ、うちに就職する気なんで」
「「あぁ」」
女性と小太りの男性が納得の声をあげた。
「いやいやいや! それだけじゃないっすよ! マジですって!!」
「はいはい、わかったわかった」
女性は苦笑まじりに手をヒラヒラとさせた。
「あんたの気持ちはよーくわかったから。それにね、うちの陣営でも、ちょーっとばかりそのあたりのこと、鬱憤が溜まってるし……パパ、どう思う?」
「ん~っ、そういう話、確かに増えてるねぇ」
「やるんですか?」
メガネの青年が楽しげに尋ねた。
小太りの男性が笑う。
「おいおい。君はマトメの魔王様なんだから、中立を保たないといろいろとまずいだろ」
「《赤》にはいつもお世話になってますし」
「そうっすよ! それに引き替え《青》の連中ときたら!」
ヒートアップするソフトモヒカンの様子に、他の3人は苦笑を漏らしあった。
「そうだ。平井くん、《青》といえばSLだけど」
小太りの男性がメガネの青年に尋ねる。
「SL、両方が“クイッカー”なんだって?」
「ええ、そうらしいんです」
「すごいなぁ。Cαから数えて……6人目と7人目?」
「えっ? 7と8じゃないの?」
女性が異議を唱えた。
「えっ?」
「んっ?」
「ええっと……」
他の3人が、それぞれ数え始める。
「……Cαだと、先輩、平井さん、姫、ミモリっち、団長、神様の6人っすよね?」
「ああ、ミモリちゃんがいたか」
「学校、たいへんらしいよ。正式版になっても復帰は難しいかもって」
「ほー」
女性がニヤリと笑う。
「平井ぃ。連絡、とりあってんだー」
「そりゃあ、仲間でしたし」
「姫とは?」
「それが全然。メール送っても反応が無くて。相変わらずって感じですよ」
「あの子も《赤》に来ればよかったのに……」
「呼べばいいじゃないですか」
「呼ぶって、今から陣営変えろって?」
「まさか」
彼はメガネを押し上げ、ニヤッと笑った。
「先輩が《赤》の最強、“ANE5”として、“水晶山”で暴れればいいんですよ。どうせ姫のことだから、騎士団なんて相手にもしていないでしょうし。やりましょうよ、先輩。Cαの戦闘狂ソロテスター集団“ゾロ”の親睦会。盛大に、徹底的に……やってくださいよ。俺たち、落選組のためにも」
LOG.05 " VERSUS "
2012.01.09
部屋の情景描写追加。神様=アマテラスの補足ルビ追加。




