6.最悪の再会
清潔に切りそろえられた真っ黒な髪、黒曜石のように黒い瞳、さわやかな印象を与える整った顔立ちは今は若干げんなりとしている。
しかし漆黒の王国騎士団の軍服に身を包んだ姿は、十分にサマになっていた。
ミモザは急いでカサカサと虫のように鉄格子へと駆け寄るとその黒い瞳を真っ直ぐに見つめて言う。
「出してください」
「……あなたという人は」
はぁ、と頭痛をこらえるように額に手を当てながら、ジーンはため息をついた。
「一体何をしたんです? 詐欺ですか? それとも美人局? かばうにも限度がありますよ」
どうやらミモザはジーンから、そういった犯罪行為を行ってもおかしくない人間だと思われていたらしい。
大変遺憾である。
「どれもしてませんよ。僕は無実です」
「じゃあなんでこんなところにいるんですか? 何か疑われるような怪しい事でもしてたんでしょう」
じっとりと疑わしげにこちらを見るジーンに、ミモザは唇を尖らせた。
「保護研究会のバーナードが魔薬を売っている現場に居合わせたんですよ。その取り引き相手の客からなぜか痴漢呼ばわりされたんです。釈明しようとしたらステラと間違えられて捕まりました」
「……それは、……うん、災難ですけども」
言いづらそうにモゴモゴと彼は首を傾げる。
「もうちょっと要領良く振る舞えないんですか?」
「それができてたら僕の人生はもっと素晴らしいものになってたでしょうね!」
「はぁ……」
サムズアップして元気いっぱいに言い切るミモザに彼は肩を落とした。
「じゃあ、あなたがステラさんでないことは僕が証言してあげましょう」
「ジーン様!」
「ただ、痴漢疑惑に関してはあなたがやっていないという確証を僕は持てませんから、自力でなんとかしていただく必要があるんですが……」
「ジーン様……」
信用の低さにミモザはじっとりとした目でジーンのことを睨む。
「というかこういう時に黙っていなさそうなあなたの保護者はどうしたんですか?」
しかし続けられた言葉にミモザはすぐに睨むのを中断させられた。そして嫌そうに顔をしかめる。
「なんですか? その顔」
「ちょっとムカついているので、あの人は家でお留守番です」
「え」
「うん?」
ミモザの言葉にジーンは表情を変える。
その顔色は真っ青だ。
「やめてくださいよ! あなた達が揉めると僕が巻き込まれかねないんですから! あと周りにも迷惑です!」
「なんですか、それ」
ミモザはむぅと再び唇を尖らす。
「まるで人のことを人災かのように」
「まごうことなき『人災』です! まぁ、この場合の『人災』はミモザさんではなくあの方のほうですが……」
そこでジーンはわずかに躊躇する様子を見せた。しかし思い切ったようにひとつ瞬きをすると切り込む。
「やめてくださいよ、一体なんだって喧嘩なんてしたんですか? なるべく早めに仲直りしてください」
「僕は悪くないです」
そう、今回の件はレオンハルトが全面的に悪い。
なにせ『恋の妙薬』なんぞに引っかかったあげくにきちんとした謝罪もせずににやにや笑うのだから。
「それ、向こうはなんて言ってるんです?」
しかしジーンは疑わしそうだ。その質問にミモザはふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「土下座して謝ってました」
そして思い出す。
あれはミモザが実家の墓参りから、帰ってすぐのことだ。




