5.牢屋にて
そして現在、ミモザはチロと共に留置所に拘束されているのである。
一応釈明はしてみたのだが……、『聖騎士ミモザ』の容姿は実はそこまで世間に浸透してはいない。
レオンハルトのようにグッズは発売されているものの、詳細な姿絵は高価なためそこまで普及しておらず、よく売り出されている絵皿や簡易的な姿絵は多少デフォルトされたデザインのものだ。つまり、ミモザの姿を知っている人は御前試合を観戦しに行っていた者や高価な姿絵を持っている者に限られるのである。
レオンハルトのように十年もの期間、聖騎士を勤めていればもう少し姿を知っている者が多かったのかもしれないが、まだ一年も経っていないミモザの知名度などそんなものである。
つまり、警察官達もミモザの容姿を知らず、それよりは指名手配犯として回ってきていたステラの容姿の方が知られている状態だったのだ。
「……そりゃあ、捕まるわ」
「ちちちっ!」
『納得してないでなんとかする努力をしろっ!』とチロが叱咤する。
とはいえ、ミモザの今の立場でできることなど、「中央教会のオルタンシア教皇か騎士団長のガブリエル様にでも問い合わせてみてください」と依頼する程度しかできない。
そして現在、その返答待ち中である。
ミモザはごろん、と鉄格子の中の固い床に寝そべった。
「もう寝て待つしかすることないなぁ……」
「ちぃっ!」
「だってさぁ……」
『ちゃんとしろっ!』と訴えてくる相棒にミモザはごろごろと床を転がる。
その姿は非常に怠惰である。
「……じゃあわかった」
しばらくチロの叱咤を聞き流していたミモザだが、いたしかたなく起き上がった。
「やれるだけのことはしてみよう」
「ちち! ちちちぃ!!」
『そうだ! その意気だ!!』とチロはガッツポーズを作る。
それにミモザはひとつうなずいてみせると、
「まぁ、ちょっと道具が足りないんだけど、そこは気持ちでカバーする、ということで……」
と言いながら立ち上がり、静かに両手を合わせて目を閉じた。
「ちー?」
『一体何をする気だ?』と不審げに眉をひそめるチロに、ミモザは答えず少しだけ腰をかがめると、
「ほぁっ!」
間抜けな掛け声と共に屈めていた腰を伸ばし、合わせていた両手も天へと向かって突き出した。
「…………」
「ほぁっ! へぁっ! へぁっ!」
それをひたすら無心で繰り返す。
チロはそれを白い目をして見ていた。
「ふぁっ! へぁっ!」
「ちちー……」
『またまじないかよ……』と呟いてチロは小さく舌打ちをする。
しかし必死なミモザは気づかない。
「ほぁっ! へぁっ! ほぁぁあ……っ!!」
ひときわ熱を入れて屈伸運動をして両手を天井へと向けた時、
「……一体何をやってるんですか?」
静かな声がその儀式を遮った。
ミモザは両手を突き出した状態で静止する。
白熱していて気づかなかったが、鉄格子の向こうには見慣れた人物が立っていた。
「ジーン様!」
そこにはドン引きした様子でミモザを見つめるジーンの姿があった。




