表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ2026/1/10発売決定!!】乙女ゲームヒロインの『引き立て役の妹』に転生したので立場を奪ってやることにした。【書籍1巻2巻発売中!】  作者: 陸路りん
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/217

72.塔の中にいたのは

すみません、投稿遅れました。

 ミモザは緊急事態のため並ぶこともなく受付も素通りで第二の塔の中へと入った。ーーその途端、目の前には真っ暗闇が広がった。

 その光景にミモザは「むぅ……」とうなる。

 やはり見えない。

(いやまぁわかりきってたことだけど……)

 ゆっくりと手を上げると自らの手はしっかりと暗闇の中で浮かび上がって見えた。銅ランクの『暗視の祝福』の効果はこれだけである。

「ちちぃ!」

 チロが『しっかりしろ!』と叱咤すると共にその姿をメイスへと変えた。

「……はーい」

 メイスの柄をしっかりと握りしめ、ミモザは渋々返事をして前を向く。

 周囲に生き物の気配はない。

 ゆっくりとミモザは足を進めた。

 しばらく歩き、おそらく塔の半ばほどまで来た時にそれは現れた。

(なんだ……?)

 かつん、かつん、という足音が響いている。

(誰かが歩いてくる?)

 それは巨大な何かの暴れ回る音などではない。どちらかといえばまるで石畳をヒールのある靴が歩く足音に似ている。

 それもその軽い足音からして小柄な人物だ。

 ミモザはメイスを構えて立ち止まった。

 教会騎士達は『名簿と照らし合わせて全員の脱出を確認した』のだ。

 ということは目の前に現れる予定なのは正規ルートで入っていない不法侵入者ということだ。

 どちらにせよ、『巨大な化け物』が出る予定の場所をのんびりお散歩しているなどろくでもない人物に違いない。

 どこから攻撃が来ても対応できるよう、身体に適度な緊張を走らせるミモザの前で、それは吐息のような笑い声をこぼした。

「ひさしぶりね、ミモザ」

「……っ!?」

 そのあまりにも聞き覚えのある声と話し方に、ミモザの身体は別の意味で緊張する。

「そんなに怖い顔をしないで。別にあなたをどうこうするつもりはないの。……今はまだ」

「……っ!! ステラ……っ!!」

 それは間違いなく、逃亡中のミモザの双子の姉、ステラの声だった。

 姿は見えない。しかし彼女が笑っているのがミモザにはわかる。

 きっといつも通りのあの余裕の笑み。美しい花のような微笑みを彼女は浮かべて立っている。

 いつだって、そうやってミモザの目の前に立ち塞がってきたのだ。

「……ステラ、いままで一体なにをして、」

「せいぜい頑張ってね、ミモザ」

 ミモザの問いかけを無視して彼女はそう言った。いつだって彼女はミモザの言葉を聞かない。感情を斟酌しない。まともに話し合ってくれない。

 どんなに美しい笑みを今、彼女は浮かべているのだろう。

 きっと何度もミモザが絶望してきた、あの美しい笑みだ。

「わたしのために」

「……え?」

 そう言うと同時に彼女は身構えるミモザの脇をすり抜けて行った。まさか戦いにもならず通り抜けられるなどと思っていなかったミモザは反射で飛び退いてしまってから慌てて彼女の気配を追うように振り返る。

「……いない?」

 しかしそこにはもう彼女の気配はなかった。

 遠のいたとか、隠れているとかではない。本当に『消えている』のだ。

(移動魔法陣……?)

 彼女は金の祝福を持っている。それを使用すれば街から別の街まで一瞬で移動することすら可能だ。

(いや、それとも……)

 聖騎士となってから聞いたことがある。『保護研究会』は試練の塔を研究するための組織、少なくとも結成当時はそうであった。そして今現在も入場を厳密に管理しているはずの試練の塔での目撃情報が多く、それにも関わらず入場者のリストに名前は載っていない。つまり、試練の塔内部へと入り口を介さず直接侵入する手段を持っているかもしれないという噂だ。

 それは確定ではないが非常に有力視されている話で、彼らを捕まえたい人々は試練の塔内部を探し回っているらしいがいまだにその手段は解明されていない。

 現在、ステラはエオ達保護研究会のメンバーと行動をともにしているはずだ。その謎の侵入手段を使用している可能性は非常に高い。

 どちらにしろ、この暗闇の中ではその手段を解明することはミモザには不可能だろう。

(何が目的なんだ……?)

『わたしのために』と彼女は言った。

 現在、ミモザとステラの立場は逆転していると言える状況だ。

 ゲームでは本来ミモザは死体であり、何者かにその遺体を連れ去られ、それをステラが保護研究会と共に追いかけることになる。

 しかし今はステラが保護研究会と共に逃げ回り、それをミモザが追いかける形となっている。

 ステラが保護研究会と共に行動するところなど部分的にはゲーム通りだが、ゲームの攻略対象と接触していないなど異なる部分も多い。

 これはミモザが聖騎士となったことによる弊害とも考えられるが……。

(ゲームの『ミモザの遺体を盗んだ黒幕』は誰なんだ?)

 思い出せないミモザにはわからない。

 その『黒幕』とステラが敵対しているのか協力関係にあるのかすらも。

 いままではなんとなくステラはゲーム通りにその『黒幕』のことを追っている可能性が高いような気がしていたが、今回、試練の塔のこの異変に対して彼女が何もせず立ち去るという行動をしたことでよくわからなくなってしまった。

 今回のこの『異常』は前回同様ゲームのイベントではないのか。つまりこれは本来ステラが解決するイベントのはずだ。

 しかし彼女はそれを解決せずに立ち去った。事情を知っているようなそぶりで。

 前回の第一の塔での異常では確信はなかった。

 直前にステラが目撃されていたが、入れ違いで異常が起こった可能性もあったのだ。

 しかし今回。

(もしもステラがこの『異常』を引き起こしていたとしたら……?)

 その瞬間、ミモザの手元が震えてはっと顔を上げた。

 メイス姿のチロがミモザに危険を知らせたのだ。

 そして何かの突進してくる気配に慌ててミモザは大きく飛び退く。

 考え事をしている間に『それ』は近づいてきていたらしい。

 何かがミモザの目の前の空気を薙ぎ、壁を削る鈍い音がした。

「……っ!!」

 何も見えない。何も見えないがしかしーー、

(大きいことだけはわかる……っ!!)

 ミモザの目の前の道、その空間すべてを塞ぐような大きさのものが、そこには立ち塞がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ