84. カルロ邸
僕は今、フランツ伯爵が所有する王都の別邸に居る。
この間、セーラに会うために王宮にあがった時のことなのだが。
王城の廊下で偶然フランツ様を見つけ、声をかけたところ『邸に遊びにおいで』ということになったのだ。
なんでも、魔法省の改革を進めるため、最近は王都に居ることが多いそうな。
それで、僕の邸が完成するまでのあいだ、置いてもらえるようお願いしたのだ。
いや~、それにしても さすがは伯爵邸だね。まさに豪華絢爛ですな~。
まぁ、リマの町にある本邸も広々してて良かったのだが、ここは まあ凄いのなんの。
お庭にはルネッサンスを思わせる彫刻が施された噴水。一歩 邸に入れば足が少し沈むほどのふかふかなレッドカーペット。
上を見れば、これまた豪華なシャンデリアがキラキラしている。あれは清掃するのが大変だよなぁ。と、庶民的なことを考えてしまうぐらい素敵な邸なんだわ~。
魔法省のお偉いさんは「見栄」や「はったり」も必要なんだろうなぁ。
そして僕がリビングでお茶を頂いていると、
「カルロ氏、今日は家宰候補が面接に来るんじゃなかったかい。どんな人が来るのか楽しみだよね~」
……そう、キリノさんである。
なんでここに居るのー? っと始めはなったのだが。
どうやら、あのスタンピード事件以来 フランツ様にへばり付いているようなのだ。
まあね、けして悪い人ではないんだよね。
ただ、すこし図々しいというか町の生活に慣れてないというか……。
子供の頃から世話になっている「近所のおばさん」的な立ち位置だからな~。
断れなかったのかな。フランツ伯爵も ”人のいい” ところがあるし。
「はい、もう間もなくだと思いますが」
「じゃあ、ボクも雇ってもらえないかな~」
「間に合っていますので結構です!」
「そんなつれないこと言わないでさ~」
「ホントに結構です!」
「ちぇ、いけずだな~、もう。ボクのメイド服姿 見たくないのかい?」
「うっ……いえ、全然見たくないです。大丈夫です」
いかんいかん、心が少し揺れてしまった。エルフ+メイド服=男の憧れ……。
「カルロ様、お見えになられました。こちらにお通ししても宜しいでしょうか?」
「うん、問題無いよ。しばらく部屋を借りるね。キリノさんはまた後ほど」
居座る気まんまんだったキリノさんを追いだし、ロイド様が推薦された家宰候補の男性を招きいれた。
部屋つきのメイドに案内され入ってきたのは、真っ黒い執事服を見事に着こなした犬人族の青年であった。
背をスッと伸ばし、歩く姿もなかなか堂に入っている。
ソファーに座っている僕の前まで来ると、その青年はサッと膝を折り「貴族礼」をとった。
「お初にお目にかかります。わたくしは『ディレク』より参りました『セバスタン・ツーハイム』と申します。今回はよろしくお願いいたします」
僕は噴き出さないよう必死で口元を押さえてその場は何とか堪えた。
誰だよ! 僕秘蔵の『人名辞典』を使ったのは?
あれは当時、名付け親をさせられる事が多かった僕が長年にわたり書き綴った『不朽の大名鑑』なのである。
とっいっても、こっちの世界では分からないだろうとギャグ風味満載で書き残していた。
それが、ブーメランとなり 今になって帰ってきているのだ。
ちゃんと処分するように言い渡しておいたのに……あいつらめ~。(笑)
「カルロ様、カルロ様! 大丈夫ですか? どこかお加減でも……」
「あっ、うん、問題ないよ。大丈夫だから」
いかんいかん、名前に翻弄されていたわw。――自分の書いたヤツなのに。
「と、いうことで君のことはセバスと呼ぼう。明日からよろしく頼む。ところで、今は何処に泊っている?」
「はい、ツーハイム家の別邸からでございます。不都合がございますか? それなら直ちに……」
「いや、いいんだ。あそこの別邸なら警備も万全だな。それではこれを渡しておこう」
僕はテーブルの上に一抱えある革袋をドスンと置いた。
「この中にクルーガー金貨が5枚、金貨が50枚入っている。ここしばらくの運転資金だよ」
「はい、了解いたしました。確認いたします」
「今後雇う家人たちの支度金や手当もそこから出していくから、しっかりと管理するように。足りなくなったら早めに言ってね」
それから、持ち運びしやすいようにマジックバッグを大小1枚ずつ渡しておいた。
そうして準備も順調に進み、いよいよ自分の邸に移ることになった。
お世話になったフランツ伯爵邸にはミニタオル、フェイスタオル、バスタオルをそれぞれ100枚ずつ、それにバスローブ大、中、小50着ずつを1セットにして、本邸と別邸に送っておいた。
もちろん、メイドさんへのお礼のスイーツも忘れない。
また、キリノさんにもお礼を要求されたのだが、ここは各種スイーツを心よく振舞っておいた。
なぜなら、これらをケチって付いて来られるのも面倒だったからだ。
そして、邸へ住み始めると すぐにクロナが学園寮を引き払いこちらに移ってきた。
続いて、学院に通うために エマもエレノア母様を連れて乗り込んで来た。
なぜ、家のママンまでと思うかもしれないが、何のことはない。直通の転移陣を設置したからなのだ。
まあね、みんな楽しそうで何よりだよ。――やれやれ。
邸を構えるカルロ。まあ、子爵だからそこまで入れ込まなくても大丈夫なんですが、それでも家人は20人以上になるでしょう。王国から支度金も支給されていますが、足りないのが現状です。邸を構えればお披露目も必要です。カルロは大丈夫ですが、ぽっと出の貴族はいきなり大きな借金を背負う事になるのです。
ブックマーク、評価、感想、いいね! などいただきますと励みになります!!




