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76. 兆候

 あれから、3日過ぎた朝のこと。


 僕が起きようかどうしようか迷いながら微睡(まどろ)んでいると、


 ぺしっぺしっ、ぺしっぺしっ、『いっぱい、おきる、あそぶ、まち、かる、おにく』


 うん、ううん。


 「どした~、あとで外でるから散歩はその時だぞー」


 『いく、おかしい、あそぶ、うれしい、かる、いっぱい』


 んん、狩る? いっぱい? ……それって!


 僕は寝ていたベッドから飛び起きると木窓を開いた。


 朝の(さわ)やかな風が部屋の中に入り込んでくる。――まだ、町は平常だな。


 急ぎ、クロナとエマを起こし着替えさせ 装備(そうび)を整えていく。


 「カルロさま、何かあったのですか?」


 僕の急いでいる様子を見ながら、クロナが不思議そうに(たず)ねてきた。


 「ああ、まだハッキリしないが、おそらくスタンピードが起きている。準備を急いでくれ。僕は隣りのキリノさん達を起こしてくるから」


 「はい、でもあまり騒がない方がいいですよね」


 「そうだな。ギルドに行くまで(だま)っていよう。エマの準備を頼むよ」


 そして僕らは、朝食も取らずに冒険者ギルドへと急ぐのだった。






 僕はみんなを冒険者ギルドの前に待機(たいき)させ、単身で中に入っていく。


 ギルド内はいつものように、ごった返しているものの緊張感(きんちょうかん)はない。つまり、まだ伝わっていないのだろう。


 僕は並んでいる列を無視して、カウンターで処理している受付嬢(うけつけじょう)に声をかけた。


 「緊急(きんきゅう)の案件のため、順番待ちを無視して申し訳ありません。僕は男爵(だんしゃく)のカルロ・アストレアです」


 そういって、僕はアストレア家の紋章(もんしょう)刺繍(ししゅう)された布ワッペンを提示した。


 「へ、緊急!? ええっと、カルロ男爵様ですね。少々お待ちください」


 そういうと、受付嬢はカウンターの上に立札を出して、奥の職員ブースへ消えていった。


 ちなみに立札には、『閉鎖(へいさ)中・隣りへおまわり下さい』と書かれている。


 後ろからは、『ちっ、』と舌打ちや、ため息が聞こえてくるが 今は勘弁(かんべん)してほしい。


 すると直ぐに、さっきの受付嬢に連れられて、ひとりの男性職員がカウンターへ出てきてくれた。


 「カルロ男爵様はあなたですか。私はカムラン、ここのギルドの副長をやっております。緊急とのことでございますが、ここでお(うかが)いしても(よろ)しいでしょうか?」


 「出来れば、個室でお願いします」


 「承知いたしました」






 すぐ、職員ブース内の個室へと通され、小さいジョッキに水まで出てきた。


 「さて、カルロ男爵様。ご説明願えますかな?」


 「では、率直に言います。スタンピードが起きています」


 カムラン副長は、少し動揺(どうよう)した面持(おもも)ちになった。


 「もう一度言います。スタンピードです。発生源はこの町から南方面へ20キロの地点。規模(きぼ)は魔獣大小入れて『7000』程だと思われます。(とりで)の城壁がありますが、決壊(けっかい) あるいは回り込む魔獣なども出てきますと全てを防ぎきることは不可能でしょう」


 「王国騎士団(きしだん)、魔法士団の奮闘(ふんとう)も期待しておりますが魔獣の数が多過ぎます。ですので冒険者ギルドの方でも適切な対応をお願いいたします」


 「ちょ、ちょっと待ってください! それはどちらからの情報を元におっしゃっておいでですかな。いくら男爵様ご本人でも、裏付けもなく冒険者ギルドは動けませんので……」


 「訳あって情報源は明かせませんが事実ですよ。それではせめて、すぐ動けるように手配をお願いします」


 「は、はあ、まあ手配と申されましても…………」


 ――トン、トン、トン、 ドアを叩く音だ。


 「失礼します。あの副長……」


 「どうかした……」






 カムラン副長が応対する間もなく、ある人物がズイッと横から割り込んできた。


 「やあカルロ(きょう)、おはよう! 急に呼び出すから朝ごはん食いそびれちゃったよ」


 「ハハハッ、すいません。実は僕もまだなんですよ、急いで来ましたから」


 「まあ それは良いとして、これは本当かい」


 この方は、もうおわかりだと思うがフランツ伯爵(はくしゃく)様である。


 そして、手に持ってヒラヒラさせているメモは、今朝出がけにピーチャンに頼んでおいたものだ。


 かならず、フランツ伯爵本人に届けるようにと お願いしていたのだ。


 「はい、間違いなく。そして、あまり時間がありません。騎士団も向かうでしょうが数が多過ぎます」


 「うん、了解。カムラン君だっけ、今の話 聞いていたよね。すぐにギルドマスターを呼ぶように」


 それからフランツ伯爵は、連れて来ていた部下達に指示を飛ばし方々に走らせていた。


 その間に僕も、皆の所に戻って朝食を済ませてくるように話をした。






 そして間もなく、ギルドマスターも到着した。


 「いや、遅くなって申し訳ない。私がここのギルドマスターをやっているブライトです。以後よろしくお願いいたします」


 「早速ですが、スタンピードの兆候(ちょうこう)が出ているとお聞きしましたが どういったことかお聞かせください」


 そこで、僕はスタンピードを起こしている場所や押し寄せている魔獣の規模などを簡単に報告した。


 しかしながら、いくら貴族とはいえ僕の証言には確たるものがない。


 さすがに、二の足を踏んでいる様子だ。


 まあ、『行ってはみたが何もありませんでした』では話にならない訳で。


 とっ その時だ。1階のホールに騎士団からの伝令が駆け込んで来たのは。


 「町の南で、スタンピード発生! スタンピード発生です!」




さて、いよいよスタンピード発生です。向かって来ている魔獣の数7000! おそろしい数だけど、なんで分かったの? ……あそっ、答える気ないんだね。しかし、カムランさんにブライトさん……ミライさんどこよ~。 (∪^ω^)気配でわかるお!  答えてんじゃん!



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 作:七海 糸 さま FA頂きました‼ (リンク有)
― 新着の感想 ―
[良い点] 100話おめでとうございます〜! また100話を読ませてもらった時も同じ事を書くと思います( ´ ▽ ` ) スタンピード!なろうに来てから知った言葉です♪ 魔獣の数が多いですね、みんな大…
2022/05/12 21:56 退会済み
管理
[気になる点] 何故だ、物語よりも登場人物の名前にひっかっかるのは。(笑) ミライさんが出てきたらスレッガーさんも出さざるをえまい。 そしてチンクはまだか。(笑)
[良い点] 町のピンチ! スタンピードの規模がでかい! シロの感知が聞いてよかった◎
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