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33. 英雄さま

 夏の暑さも(きび)しくなるなか、隣国の姫君であるアンリエッタを乗せた馬車群は、王城の正門を(くぐ)ろうとしていた。


 これから、この猛暑(もうしょ)の中を80日におよぶ強行群で(のぞ)むらしい。


 普通に考えても、死人が出るレベルである。


 いくら、国王の安否(あんぴ)が気になるからといっても少々無謀(むぼう)が過ぎる。かといって、夏過ぎまでには60日程かかるであろうし。


 ――――はぁ、しょうがない。


 僕は、アースレット王太子に別れの挨拶を済ませたアンリエッタを(つか)まえると、適当な客間を借りて話しをした。


 内容は、アンリエッタ本人とお付き数名を選定して、最寄(もよ)りまで送ってやろうという訳だ。


 生まれ変わる前の、前世の僕は50歳を過ぎると後進を息子たちに(ゆだ)ね表舞台からは引退した。


 そこから、200年程のあいだはシロを連れての悠々自適(ゆうゆうじてき)の旅。この大陸の国々はもちろん、隣の大陸まで遊びに行っていたものだ。


 まあ。落ち着いたところで、10年も居られないんだよね。周りはどんどん年取っちゃうしね。


 かといって、エルフやドワーフの集落は何か()り固まてて、性に合わないんだよね。


 おっと、だいぶ横みちに()れてしまった。


 要は、シロが居れば大陸の主要都市(しゅようとし)なら、だいたい行き来できてしまうんだ。


 中には、廃墟(はいきょ)になってたり、国が変わってたりはするだろうけどね。


 アンリエッタの答えは、もちろんイエス! イエス! 二つ返事だったね。


 だって、おもてに立って見送るだけでも、汗がドバーだからね。


 また、少し(きた)えて送り届けてあげるさ。






 そして僕は、今王宮殿(おうきゅうでん)の応接室に通されている。


 はてさて、どちらさんがお見えになりますやら。


 一応、シロはクロナと一緒に応接室の壁側にお座りしている。


 どのくらい待たされることか 覚悟はしてきたのだが、意外にも早くご到着のようだ。


 どうやら、圧迫面接(あっぱくめんせつ)ではなかったらしい。


 扉が開け放たれ、入ってこられたのは昨日お会いしたアースレット第一王子。王太子殿下(おうたいしでんか)である。


 続いては、今朝お会いしたロイド太子妃殿下(たいしひでんか)。ミセス・ロイドとか言ったら洋服ダンスに押し込まれそうだ。


 そして最後が、んん、ロイド様より幾分(いくぶん)若いか? ……すると側室(そくしつ)かな。第2か第3王妃(おうひ)になるのか、そんなところだろう。


 おそらく、この方がセーラのお母さんなのであろう。






 僕は立ちあがり、今回は失礼のないように しっかりと貴族礼(きぞくれい)を行なった。


 「まあまあ、本当にロイド様のいう通りね。立派なあいさつだったわ」


 「わたしはエミリー。 エミリー・アーメン・クルーガーです。この度は世話になりましたね、英雄(えいゆう)さま」


 「えっ、英雄ですか? 僕はそのような大層な者ではありませんよ」


 「いいえ、あなたは英雄です。少なくともわたしとセーラにとりましてはね」


 「この度は、娘セーラを救っていただき感謝いたします。カルロ様」


 「あっ、……勿体(もったい)ないお言葉です。どうぞカルロと」


 「わかりました、カルロ。わたしはこの名前を一生忘れることはありません」


 「はっ! 光栄の極(こうえいのきわ)みに存じます」


 「ところで、カルロ。わたしも娘のセーラと温泉に連れて行ってもらえるのかしら?」


 「はひぃ。……」


 ええーっ、なぜバレた! ああっ、アンリエッタのやつめ~。


 「それで、連れて行ってもらえるの? どーなんですか!」


 「よ、よろこんでぇい!」


 「あっ、そういうことなら、私もお願いね。カルロくん」 (ロイド様)


 「は……い」






 その後は、ええぃ、どうとでもなれ! っと、開き直って楽しく会話を楽しみ。


 お茶が出てきてはスイーツを提供(ていきょう)し、さらに盛り上げてしまったのであった。


 まあ、ここで王族と懇意(こんい)になっておけば、ダンジョン周辺の開発もスムーズに進んでいくだろう。


 ただ、言っておかないと、鉢合(はちあ)わせした(うち)の者が腰ぬかすよな、これは。






 「それで、どうであった? やはりそうなのか」


 「はい、父上。ほぼ間違いないものかと」


 「で、あろうな。あんな辺鄙(へんぴ)な場所にありながら、この開発速度の速さは異常だな」


 「やれやれ、この異常さに気づいておらんのか」


 「…………」


 「…………」


 「少々頭が痛くなってきたが、わしも調べておいたぞ」


 「この古文書(こもんじょ)にはこうある。『この世にダンジョン現れる時、英雄現る』と」


 「また、『その英雄の行動を何人たりとも(さまた)げてはならない』 、これは500年程前に残された羊皮紙(ようひし)からだな」


 「そんなものが残されていたのですか? よくも無傷(むきず)で」


 「おお、そなたにはまだ、言っておらなんだな」 (言っていなかったな)


 「ここの宮殿(きゅうでん)は過去に何回も建て替えられておる。しかしじゃ、この王宮殿の宝物庫(ほうもつこ)だけは現状維持(げんじょういじ)の魔法が掛けられておるのじゃ」


 「だから、こうして羊皮紙までもが残っているのですね」


 「そういうことじゃ。して、これは100年程まえの記述(きじゅつ)だが、片耳が折れた犬の冒険者 ”シロ” 」


 「ドラゴンをも楽々倒すAランク凄腕冒険者(すごうでぼうけんしゃ)、その名はシロ。そして当時の冒険者ギルド、本部総括長(ほんぶそうかつちょう)の見解は……」


 「おそらく、聖獣(せいじゅう)フェンリルであろうと……」


 「では父上、どうなさるおつもりで?」


 「この二者のものは一晩で一国を(ほろ)ぼせるほどの力を持っておる事になる」


 「だから(わし)は、これをその者に預けてみようと思うのじゃ」


 「こ、これは、この国を(おこ)した初代様の宝剣……」


 「おぬしに頼んで良いか?」

 

 「(つつし)んで、お預かりいたします。陛下(へいか)




セーラの母君エミリー様、にっこり笑って強権発動! おいおい、強権は司法とかに使いなさいよね~。でもでも、漂ってきましたねー。大温泉回の香りが! 各自、すみやかに準備しておくように。失敗や無駄打ちは許しませんからね! 自信がないなら退避です。いのちは大事です。



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― 新着の感想 ―
[良い点] シロちゃんはバレてもなんとか誤魔化せそうですが、カルロ君が~!(汗) ま、まだ『英雄の復活or再誕じゃー!』ではなく、『新たな英雄の再来!?』と思われてるのでギリギリセーフ! 口溶けの良…
[良い点] ミセス・ロイド様( *´艸`) お呼びしてもよろしいですか? なんと!エミリー様が温泉をご所望ですと……!? うわーい⸜(*ˊᗜˋ*)⸝ これはセーラちゃんやエマちゃん幼女達がきゃっきゃう…
2022/03/11 23:50 退会済み
管理
[良い点] 家族はパニックでしょうね◎ はて、最後の会話は誰だ?
感想一覧
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