第17話 「不満、そして実力」
緊迫の空気が充満した洞窟内。そこで俺は戦闘の開幕を知らせる第一声を発した。
「散開!!」
その掛け声とともに、シュウ、ソウマ、イチカの順で駆け出す。
事前に意向を聞いた時、シュウは三体、ソウマは二体を相手することが出来ると言っていた。とはいっても、それは倒せるということではなく、五分以上持たせることが出来るという意味だ。だが、それで十分だった。
俺は広間の中央左側に到達したシュウに、次の指示を飛ばす。
「シュウさん、聖遺物の発動を!!」
「おうよ!!」
シュウはそう返事をすると、抜刀し刃先を敵陣に向ける。
そして。
「〈唸れ、獅子丸!! 解放!!〉」
その掛け声とともに、刀身が光り出し、震える。すると、そこから金属音のような高い音が鳴る。
「グギャァァ!?」
その音に反応するように、リザードマンたちが一斉にシュウの方を向くと、一気に駆け出した。
シュウの持つ「獅子丸」は第四等級の日本刀の形をした聖遺物で、解放の掛け声とともに咆哮し、敵の注意を引き付ける効果を持つ。これによって中衛や後衛に注意を向けさせることなく戦闘することが出来る前衛向きの武器だが、難点もある。
それが、モンスターの数を調整できないことだ。
相手のヘイトを強制的に向けさせる能力は強いが、それでもすべての敵がシュウに集まれば、今度は彼が危険にさらされてしまう。
だから。
「タケルさん!」
俺は隣に立つ彼の名呼ぶ。
「承知しました」
タケルは自分の二つある内の一つ、ロングボウを背中から取り出すと、シュウへ向かうリザードマンの後方の一匹を狙う。
ゆっくりと矢を添えて引かれていく弓からは琴のような澄んだ音が鳴る。
「〈悪しき敵を射抜け、鷹嘴! 解放!! 遠距離狙撃!!〉」
その掛け声とともに放たれた矢は、まさに鷹のごとく弓から放たれ、リザードマンたちの後衛、その一匹の胸に命中した。
しかしその威力は凄まじく、鉄の胸当てをつけていたにも関わらず、心臓があった場所には風穴があき、一瞬にしてそいつは絶命する。
――本当にすごい威力だな。
タケルが所持する武器の聖遺物は二つある。一つはロングボウで今しがた使用した鷹嘴。これは矢をつがえてから時間をかければかけるほど遠くに飛ばすことができ、遠くなら遠くになるほど威力を増すという能力を持つ。そしてそれとつがいになっているもう一つの聖遺物が、鷹爪というショートボウだ。これの能力は鷹嘴とは真逆の能力となっている。矢をつがえてから時間が短ければ短いほど遠くに飛ばすことができ、相手が近ければ近いほどその威力を増す。まさに対になっている武器だった。
突如として仲間がやられたリザードマンは、混乱しながらも、五体のうちの二体がこちらに視線を向ける。
剣を持っているのが一体に、槍を持っているのが一体。
――上出来だな。
俺は内心そう呟くも、タケルは不安そうだった。
「本当にこれでよかったんですか?」
「ええ、もちろんです。何か不安でも?」
タケルは少し迷いつつも、ええ、と敵から目を離さずに答える。
「先ほどシュウがモンスターのヘイトを買うまでは分かりました。私たちもよくやる戦法だからです。ですが、せっかく買ったヘイトをこちらに向けさせる意味が分からない。それでは先ほどヘイトを買った意味がない。いつもの私たちなら、シュウがヘイトを買ってソウマと挟み撃ちにし、私が各個撃破が定石です」
確かに、本来ならばそれが定石だろう。だが。
「それだとシュウさんの負担が大きすぎますし、ソウマさんの戦力を余してしまいます。今の状況では、それぞれが百パーセントの力を使わないと誰かが危険にさらされる可能性が出てきてしまいます」
「それはそうかもしれませんが……。先ほどお伝えしたように、私の聖遺物は使い勝手が悪いんです。こちらに向かってきた敵をソウマとあなたの雇い主が担当すると言っても、援護はできません。鷹嘴も鷹爪もそう何発も打てるものじゃないんですよ」
「知っています」
タケルは俺がそう答えると眉を顰める。
無理もない。俺がやろうとしていることは、最小の力で最大の効果を発揮するやり方だ。定石からは外れている。それでも。
「ここから先に進むためには、知っておいて損はないと思いますよ」
俺はそれだけ答えて、戦闘に意識を向けた。
ソウマは二体のリザードマンがこちらに走ってくるのを見ながら、それを唱える。
「〈目覚めろ、風林! 解放!!〉」
片手剣とショートシールドを含めたソウマの体全体が優しい光に包まれる。
彼の聖遺物、風林は全身の能力向上の効果を持つ。とは言っても、それは微々たるもので、多少早く動けるようになるぐらいのものなのだが、それでも、この場面に限って言えばかなりの効果を発揮する。
本来なら、リザードマン二匹とソウマの実力は拮抗している。どちらが優勢ということはない。しかしそこに武器が加われば話は変わる。リザードマンの一匹は片手剣で、もう一匹は槍。つまり前衛と中衛に分かれているということである。この差は大きい。人は感覚で生きている。剣が自分に振り下ろされる秒数を計算している者はいないし、相手との距離を測っている者はいない。それらすべてを感覚で戦うのが普通だ。通常ならばそれで苦労するということはなく、逆に感覚の方が優れている場面の方が多い。しかし、こと今に至って言えば、その感覚が邪魔をする。近接の剣の間合いと中衛の槍の間合い。このギャップがソウマの感覚を狂わせる。これを補うことが出来るのがソウマの聖遺物だった。
ソウマは自分の聖遺物の効果の恩恵を受けながら、二体のリザードマンと攻防していた。
――今日は調子がいいな。
足は良く動くし、目は良く見える。たまにこういう日があった。特に特別なことはしていないが、それでもいつもより動ける日。それが今日だった。ゆえに、ソウマは疑問に思う。
――どうしてタケルさんはあの荷物持ちの言うことを聞くのだろう。
ソウマは最初、ミナトが指揮を取ることに反対した。なぜなら、訳の分からない荷物持ちよりも、明らかにタケルの指揮に従う方が生存率が高いからだ。
タケルはそこら辺の冒険者とは日にならないくらいの才能を持っている。確かに等級は高くない。しかし、こと指揮を取るという意味ではそこら辺の冒険者よりもうまく、開拓組でも通用するほどの腕を持つとソウマは考えていた。
それなのに。
――どこの馬の骨とも分からない奴に従うなんて、タケルさんは何を考えているんだ。
タケルはソウマの調子がいいときは、それをくんでくれる。しかし、今回調子がいいにも関わらずミナトからの指示は三分持たせること。倒すことも逃げることもなく、ただ持たせろとの指示だった。
――理解できない。
苛立ち、思わず剣を握る右手に力が入る。タケルさんならという思いが頭によぎる。
しかし、ソウマの想いとは裏腹に、結果は疑問という形で現れた。
――どういうことだ? 確かに今日は調子がいい。それでも……。
調子が良すぎる。もうすぐ三分経つが、ソウマは二体のリザードマンをいなしつつも余裕だった。息すら切れていない。これはどういうことなのか。
そう疑問に思っていたその時、突如として鳴り響く琴の音色。
そして次の瞬間、今までソウマが相手にしていた二体のリザードマンの頭が跡形もなく吹き飛んだ。
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