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建国祭二日目は朝食会で 3

 辺境伯との話は、ちびちゃんの話題が1番盛り上がった。

 だって、ちびちゃんてば、すごいのよ。どこの世界にロックサーペントを満面の笑みで、お土産に持って帰る幼児がいるっていうの!? しかも、かば焼きにしてって食べたって……



「ヘビ……なんですよね?」

「あぁ、いくら美味しいとは言っても、女性には少し食べづらいかも知れないな」

 こういう言い方をするのは良くないのだろうけども、あたし個人の感想としては、ゲテモノにしか思えないわけだ。



 恐縮しつつ、率直な感想を口にすると、チトセさんと辺境伯は視線を泳がせつつ、

「言いづらいんだけど、モンスターの肉とかって、高級食材として流通しててね……」

「多分、君も過去に口にした事があるかと──」



「きっ……聞かなかった事にいたしますっ!」

 そう言えば、ゲームでも、モンスターとエンカウントして倒すと、ドロップ品として『○○の肉』が落ちる事があったわね。普通にギルドに売れるアイテムとしてしか認識していなかったけど、あれって食用として買い取られていた、って訳だったのね。そこまで、考えなかったわ~。



 密かにカルチャーショックを受けつつ、世界の広さを改めて認識していると──

 カラン、カラン、カラン。

 お城の庭に、カウベルに似た音が鳴り響いた。大きなベルを鳴らしているのは、時代がかった衣装に身を包んでいる、侍従だ。

 あれは、もうすぐ、国王陛下がお出ましになる、という合図なのである。



 場所を移動し、演説台の方へ顔を向け、国王陛下のおなりを待つ事しばし。陛下が王妃陛下とランスロット殿下を連れてお出でになられたのだけれど──

「レディ・マリエール。私は7年ぶりに陛下を見るのだが……」

「……おっしゃりたい事は何となく分かりますわ。ええ。正直申し上げて、その──わたしもびっくりしています」

 ずいぶん、老けられましたね、国王陛下。いえ、王妃陛下もですけど。



 昨夜の晩さん会の席で見かけたお姿を思い出せば、まさしく、劇的ビフォーアフター。どんなイリュージョン使ったんだ? 一気に10歳ぐらい老け込んで見えるわよ?

 心なしか、御髪の方も寂しくなられたような……え? あ! ちょっ……もしかして、前に禿げろ、って言い続けたせい!? そうなりかけてるの?! マジで!? うーわー……ご愁傷さま。



 御髪の方は、なるべく見ないようにして、陛下の挨拶を拝聴する。

 内容は、シンプルだった。集まってくれて、ありがとう。今年も無事に建国祭を迎えられた事を嬉しく思う。今日は、朝食会を楽しんで行ってほしい。要約すればそんな内容である。

 お声に力がございませんね、陛下。ええ、バカ息子が原因ですね、分かります。




 そうそう。我が家の人間ですが、愚兄を含め、養父母も朝食会を欠席する事にしたそうです。顔を出しづらいんでしょうねえ。他の愉快な取り巻きご一行のご家族も、同じ選択をしたようで、会場にその顔を見つける事はできなかった。

 陛下が、キアランについて一言も触れなかったのも、同じような理由だろうと思われる。

 皆さま方、心から同情いたしますわ。



「最後に、ランスロットから1つ、皆に報告があるそうだ」

 陛下に場所を譲られ、演説台の前に立ったのはランスロット殿下である。こちらは、お葬式のような雰囲気のご両親とは対照的。表情こそ、普段通りの穏やかなものだけれど、雰囲気はとても晴れやかだ。

 ランスロット殿下の挨拶も、今日は集まってくれてありがとう、心ゆくまで楽しんでいってほしい、と典型的なものから始まった。



「報告とは他でもない、私の愛しき妃、パトリシアの事だ。ここのところ、妃が体調を崩している事を知る者は少なくないと思うが、先日、医師に見せたところ、懐妊している事が判明した」

 ランスロット殿下の報告に、会場からわぁっと大きな拍手が起こった。もちろん、あたしも拍手をする。おめでたい事だもの。

 さっき、パトリシア妃殿下をお訪ねした時に聞かされた時は、びっくりしたけど。

 王子でも、姫でも、どちらでもいいから、元気に生まれて来てほしい。



 挨拶が終わったので、まずは皆さま、主催者である王家の方々へご挨拶に行くみたい。あたしも、タイミングを見計らって、ご挨拶に行ってきた。

 辺境伯は、国王夫妻には挨拶せず、ランスロット殿下だけ。わだかまりが解けた事にするにしても、国王陛下とはまだ会話したくないのだそうだ。



 挨拶が終われば、この場所に用はない。この場に残られるのは、やっぱりご年配の方が多いので、気を使ってしまうのだ。

 下手な事をすれば、侯爵家やキアランの評判を下げる事になると、髪の毛一本にまで神経を張り巡らせながら──あくまで、そんな気分で、だけど──この場に残って、キアランの朝食会を売り込んだものよ。

 でも、今年はしなくていいから、気が楽だわ~。



 さっさとランスロット殿下夫妻が主催なさる、朝食会の会場の方へ移動しよう。

 辺境伯にエスコートしてもらいながら、お城の庭を歩いていると、誰かが横に並んだ。誰かしら、と横目に伺えば、ベルだった。まあ、と声を出せば、彼女はにっこり笑って、

「おはよう、マリィ」

「おはよう、ベル。今日も素敵ね」



 彼女は、白いサマードレスを着ていた。赤い石を連ねたネックレスとイヤリング。ピンクオレンジのロングストールが、アクセントになっている。

 ダリアの君の呼び名に相応しい、華やかさだ。



 そんな彼女をエスコートしているのは、40代前半くらいのおじ様だった。頭に白いものが混じり始めて、紅白のおめでたい髪色になりつつある。誰あろう、ハーグリーヴス侯爵だ。

 お互い顔を知ってはいるけれど、面と向かって挨拶をした事がないので、あたしたちは足を止めた。歩きながら、挨拶をするほど親しい間柄じゃないもの。



「今日は、父を紹介したかったのよ。見つかって良かったわ」

「お初に御目文字いたします、ハーグリーヴス公爵」

 膝を折り、彼に向かって頭を下げると、公爵は「娘に友人を紹介されるのは、初めてだ」と嬉しそうに目を細め、娘が世話になっていると仰って下さった。

 お世話になっているのは、こちらの方です、と言葉を返し、辺境伯とチトセさんを彼に紹介する。



「ああ、やっぱりか。7年ぶりだな、辺境伯。元気そうで何よりだ。お父上の事は残念だったね。元々体が頑丈ではないと聞いていたが──」

「覚えていて下さったとは恐縮です」

 会釈を返す辺境伯だけど……知り合いなの? この2人。



 ──結論から言うと、知り合いだった。先代の辺境伯と、公爵のお兄様が仲良しで、辺境伯は学園に通っていた頃、公爵のお宅に遊びに行っていたりしていたらしい。

「ベルも遊んでもらった事があるんだが……さすがに、10年以上も前の事だと覚えておらんか」

「ええ。申し訳ございませんが、覚えておりませんわ」

「お気になさらず。こちらも、小さいレディがいた事くらいしか覚えておりませんので」

 辺境伯が苦笑いを浮かべる。



 ところで、と話を切った公爵は、一歩下がったところに立っているチトセさんへ視線を向け、

「ジェネラル。今日もクイーン・アローラの護衛かね?」

「公爵様まで、ジェネラルなわけ?」

 少々げんなりした声で、チトセさんは答えた。公爵が辺境伯とお知り合いなのはともかく、チトセさんともお知り合いだとは意外である。



「ベル、昨夜、話したろう? 儂の命の恩人だよ」

 は? 命の恩人? 何があったの、公爵。

 何でも、昨日のマザー・ケートのコンサートで、公爵が狙われたらしい。何てこと! それって、コンサートをめちゃくちゃにされた事よりも、オオゴトじゃないの! あの日、あの場所で、そんな事が起きていたなんて!



「警備兵も儂の護衛も、隣に座っていらしたマザー・ケートも、犯人の存在には全く気付いていなかったんだが──」

 緊急事態発生、とマザー・ケートへ報告に来たチトセさんが、

「アンタ、そんなトコで何やってんの」

 と、一言。そのまま、指先1つでダウンさせたそうだ。ちなみにこれ、誇張でも何でもなく、事実らしい。どんな手品を使ったら、指先1つでダウンさせられるのかしら? 謎だわ。



「方法については企業秘密」

 あたしの疑問をチトセさんは、完全にスルー。公爵も子供みたいにせがんだけれど、

「トップシークレットだから、教えられない」

 チトセさんは、断固拒否。辺境伯は、笑いをこらえるのに必死のようだった。



 それはともかく、突然、誰もいなかった場所に、ごろんと黒ずくめの男がぶっ倒れた状態で、現れたので、一時パニックになりかけたらしい。

 それを治めたのが、チトセさん。

 どんだけ、ハイスペックなんだ、この人は。



 チトセさんは、犯人を瞬く間に縛り上げ、邪魔だと言ってボックス席の外に放り出したそうだ。公爵は、ダウンさせてから放り出すまで、1分かかっていないと断言される。その上で、

「縛れば終わりのあんなんより、あっちの方が問題ですよ」

と、舞台の上のミシェルを指さしたそうな。



 その後は、昨日の通り。コンサート終了後、犯人は公爵が引き取ったのだそうだ。

「連れ帰り、尋問したところ、あっさりと吐いたよ。儂を殺して、公爵家を代替わりさせることが目的だったらしい。儂を殺したところで、依頼主に鉢は回って来ないがな」

 つまらなさそうに公爵は、ため息をつかれた。貴族生活にも、色々ございますわね。



「まあ、何だ。改めて礼を言わせてもらうよ、ジェネラル。君のお蔭で、こうして娘と朝食会に参加できるのだからな」

「気にしないでって言っても気にするんだろうから、1つ情報を貰いたいな。お嬢さんは、学園の生徒でしょう? 昨日のコーラス部の発表について、何かご存知ないかな?」

 チトセさんに水を向けられたベルは、それよっっ! と、あたしを指さした。

 急に指を指さないでほしいわ、ベル。びっくりしちゃうじゃない。



「ベル、落ち着きなさい」

 公爵に宥められ、このままここで立ち話もなんだから、と場所を朝食会の会場へ移す事になった。


朝食会、予想よりも長くなってしまいました……。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

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