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このパンデミックな世界に祝福を!  作者: ウォッチ
1章
8/11

フルスイング オブ ザ デッド 前編

 風間さんとはその後すぐに合流できた。

 コンコンとベランダから教室の窓をノックすると彼女は一瞬驚いていたが俺だと気付くと涙を流しながら抱きついてきた。


「さっき上城さんが襲われたのを見て、私……体が動かなくなっちゃって……」

「うん、心配させてごめん。もう大丈夫だよ」


 その間、俺は噛まれた傷跡を見せないように努めた。

 ここで彼女を動揺させてはいけない。

 もう考えに考え抜いて決めた事だ。


「上城さん、これからどうします?」


 しばらくして俺から離れた風間さんはそう尋ねてくる。

 文句のつけようもないほどの美少女。

 そんな彼女の表情には俺を疑うような気持ちは一切見えない。


「うん、とりあえず時間があまりないから急いでここから出ようと思う(上に待たせてるヘリコプターもそうだけど、俺のほうもね)」

「え? でも廊下には……上城さん?」


 俺は何か言おうとする風間さんの華奢な体を抱き締めた。

 とても強く、あらん限りの力で。


「苦し……上城さ……」


 肩と腕に挟まれた風間さんの首がギュウギュウと締まる。

 出来るだけ動脈だけを締めるように心がける。

 罪悪感で胸が張り裂けそうだった。

 だけどこれしかゾンビが徘徊する廊下を抜け屋上に行く方法はない。


「ごめん風間さん……ごめん……」


 俺はひたすら謝罪を繰り返す。

 すると風間さんはそれを聞いて何を思ったのか俺を弱々しく抱き締め返した。


「……そうで……すよね。上城さん……良いんです……自分を責めないで……私はあなたが……いなかったらどうせすぐに死んでいたでしょうから……だからあなたが生き残るために、少しでも役に立てるなら……」


 あぁ、風間さんは俺が今から彼女を囮にすると勘違いしているのか。

 それならそれで良い。


「本当にごめん……」


 俺は出来るだけ感情を出さないようにそう言った。


「……()さん……もっと前に出会いたかったな……」


 そこで風間さんの体から完全に力が抜ける。

 俺はそれをしっかりと受け止め床におろした。


「クソッ……! あぁ……! ちくしょう……!」


 涙がとめどなく溢れてくる。


 もっと彼女と一緒にいたかった。

 もっと彼女の笑顔を見ていたかった。


「……あぁ……そうだったのか」


 ――今はっきりと分かった。

 俺はいつのまにか彼女の事が好きになっていたのだ。

 自分の命をかけてもいいと思えるくらい。

 理屈なんてない、ただ彼女がそばにいる事が俺にとっての『生き甲斐』になっていたんだ。


「ふぅ……」


 教室の扉をゆっくりと開けて廊下に出る。

 外には大量のゾンビどもが隙間なく徘徊しており、とてもじゃないが"生きて"は通れそうにない。


「それならよぉ……死ね気で行けば通れるって事だよなぁ……!?」


 俺はバットをキツく握りしめゾンビ達目掛けて走りだす。

 ゾンビ達がこちらを一斉に見るがほとんど恐怖はなかった。


 ――もう一度ベランダから南側の階段に戻る事も考えた。

 だけど階段をあがってもおそらく上の階にも窓を割ってゾンビは侵入しているだろうし噛まれたら即ゲームオーバーな状況に風間さんをさらすのは気が引けた。


 それに対して俺はすでに噛まれているから何も怖くない。

 ゾンビと戦って風間さんを屋上まで連れていく。

 それが今の俺に残された唯一出来る事だ。


 自衛隊員に俺が提示したタイムリミットまで残り10分ほど――チンタラしている暇はない。

 バットをゾンビの脳天に思いきりふりおろす。


「うわああああああっ!!!」


 そして俺の孤独な戦いが始まった。


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