HELP
「いるね」
「いますね」
俺と風間さんは2階の窓からグラウンドのほうを眺めていた。
予想はしてたけどやっぱりいた。
超いるという訳じゃないけどまばらな感じで結構な数のゾンビがいた。
これではバットなんてとてもじゃないが取りにいけない。
ただでさえヤツらは足が早い。
武器を調達しに行って死ぬとか本末転倒過ぎる。
「諦めるか……」
「ですね」
俺がそう呟くと風間さんもそれに頷いた。
まぁバットはまだ諦めきれないが、とにかくもう昼過ぎだ。
いつどうなるかも分からない以上、食事をとったほうがいいだろう。
俺はバッグから家にあったパンを取り出すと風間さんに差し出した。
風間さんはパンと俺の顔を見て不思議な顔をしている。
「しばらく何も食べてないんでしょ? 俺の家にあったパンだけど良かったら食べて」
「……お礼に身体を好きに触らせろ、とか言いませんよね?」
俺は鼻水を噴出した。
「ゴホッゴホッ! い、いきなり何を言うんだよ! 俺がそんなクズに見える!?」
「……」
すると風間さんはジーッと俺の顔を見た後、それを受けとった。
失礼な子だよまったく……。
……あぁ、でもそれもありだな。
今からでも――。
「……」
「あ、何でもないです」
あぶねー。
今、視線だけで殺されそうだったわ。
◇
その後、俺達は特に何も行動することなく時刻は夜になった。
「……あの、寝ないんですか?」
俺がグラウンドのほうを眺めていると背後から声をかけられた。
振り向けば風間さんが廊下に立っている。
眠いのか目がトロンとしていつものようなツンツンした感じがない。
こっちのほうが断然可愛いのに。
「うん、もう少ししたら寝るよ」
「……そうですか、じゃあおやすみなさい」
そう言い風間さんは教室の中に入っていく。
――と思ったら教室の中から顔だけ出して睨み付けてくる。
「あ、もし覗いたり変なことしたら絶対に許しませんから」
「はいわかりました」
そんな事を言って風間さんは今度こそ教室の中に消えていった。
最後、顔にはほんの少しいたずらっぽい笑みを浮かべて。
「はぁ、どんだけ信用ないんだよ」
俺は溜め息をつくと廊下の壁にもたれかかるようにして座った。
「まぁいっか……さて、夜はこれからだぁ……」
俺は伸びを一回するとそのまま朝まで寝ずの番をはじめた。
――夜が明け、俺がコクリコクリとしていると急に肩を叩かれる。
ビクッとして起きると目の前にいたのは風間さんだった。
「何故上城さんがここで寝ているんですか? ……もしかして中を覗いてたんですか?」
「え? いやいや誤解だよ、そんな訳ないじゃん」
「本当に……?」
風間さんの目がスッと細くなる。
あー、これ嘘つけないやつだわ。
「……すみません、一回だけ覗きました」
「やっぱり……最低ですね」
「いや、でも安全か確かめようと中を見ただけで別に――」
「あー、もういいです言い訳は。とにかく上城さんが最低な人だってことは充分わかりましたから」
「そんなぁ……」
「許してほしかったらグラウンドの倉庫にあるバットを一本でも調達してくるんですね。まぁ無理でしょうけど」
風間さんはくるっと俺に背を向けると教室の中に入っていった。
いや、マジでゾンビが入り込んでないか一瞬見ただけなんだって……まぁいい、とりあえず俺は今のうちにやることをやってしまおう。
俺は風間さんがいる教室とは違う教室に入り、黒板の下にある引き出しの中からチョークを出来るだけ多く取り出した。
そのまま屋上までむかう。
幸い屋上に通じる扉は施錠されておらず、俺は屋上に着くとすぐに床にチョークで文字を書きはじめた。
「一回やってみたかったんだよ、これ」
俺が書いたのは大きな「HELP」という文字である。
上空を救助のヘリコプターが運よく通りかかるなんて都合のいい事は考えてはいないが、やれることは出来るだけやっておきたかった。
俺はチョークのついた手をパンパンと叩くとグラウンドのほうを見つめる。
「よし、あとは武器だな」




