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このパンデミックな世界に祝福を!  作者: ウォッチ
2章
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再・これどう考えてもゾンビじゃん

「クソッ! 一体何が起きてんだよ!」


 現在、俺はがむしゃらに腕を振って逃げていた。

 体中に無数の傷を負いながらも必死で走り続ける。

 そうでなければ背後から迫る群衆にたちまち殺されてしまうからだ。

 俺は走りながら後ろを振り返った。

 すぐ後ろでは大量の人"らしき"モノが全力疾走で俺を追いかけてきている。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 ……うん、あれはどう見ても人間じゃねぇな。

 だって脳味噌はみ出してるヤツとか内臓撒き散らしながら走ってるヤツいるんだもん。


 うめき声をあげながら俺を追ってくる彼らに言葉は一切通じない。

 そしてただひたすらに自分を食い殺そうと迫る背後の彼らから正面に視線を戻すと俺はこう結論づけた。


「これどう考えてもゾンビじゃん」と。


 ◇


 ――30分前。


「大丈夫ですか!? 生きてますか!? 元気ですかー!?」


 倒れている男性を必死に揺すり呼び掛けるが返事はない。


「……そうだ、呼吸は……」


 そう思い耳をすますが、男性から呼吸の音は聞こえない。

 ――というか頭がない。

 俺の現実逃避はそこで終了した。


「ヤベェ……俺、人殺しちゃったよ……」


 絶望感で押し潰されそうになる。

 人生終了のお知らせとはこういう事をいうのだろう。


「とにかく、警察にいかないと……」


 必死に話せば正当防衛だと分かってもらえるだろうか……?

 というかまずこの状況で警察は機能してるのか?

 もし機能していたとしても俺自分の住所とか名前わからないし絶対怪しまれるよな……。


 そんな事を考えながら歩き出そうと足を踏み出す。

 するとその時


 ――カランカラン、と後ろから何かが転がるような音がした。


 俺はハッとして振り返る。


「あっ」


 そして思わず声を出した。


 ……そこには確かに人影があった。

 それも一人ではない。

 何人もの、数えきれないほどの人影がそこにはあったのだ。


「おーい!」


 気が付けば俺は彼らに手をふっていた。

 嬉しかった。

 安堵した。

 ようやく人に会えたんだ、と。


 手を振ったからだろうか?

 彼らは俺のほうに走ってきた。


「おーい!」


 俺は再度叫ぶ。

 別にずっと一人で寂しかったわけじゃないんだからね!? と誰にだかわからないツンデレ台詞を心の中で言いつつ、俺も彼らのほうに駆け寄っていく。

 ――数秒後、俺の目に映ったのは自分に飛びかかってくる人々《ゾンビ》の姿だった――。


 ◇


「はぁ……はぁ……」


 逃げ込んだ廃墟のような建物の中で俺は壁に寄りかかりながら座り込んだ。

 今、外では"彼ら"が俺を探している事だろう。


「一体どうなってんだよ……あぁ……痛ってーな……」


 理解できない事態に悪態をつきながら俺は苦悶の声をあげる。

 それは当たり前の事で全身の傷は決して浅くはない。

 1部骨が見えているところまであるくらいだ。

 我ながらこんな状態でよく生き延びられたと褒めてやりたい。

 俺は小さく笑う。

 そして同時に俺は絶望していた。


「……だけど俺は"噛まれた"んだよな」


 噛まれたというよりは噛みちぎられたとも言える傷跡。

 だがそれはどちらも明確な"死"を意味していた。


 ――ゾンビに噛まれたら感染する――


 これはどのゾンビ作品でもお約束の常套句だ。

 だから物語の主人公達はゾンビに噛まれないように細心の注意をはらわなければならない。

 ……そしてそう、つまり俺はすでに感染してしまっているというわけ。

 もうすぐ俺も彼らと同じになるということだ。


「ていうかこういう無駄な事は覚えてんのな……ハハッ……」


 自嘲を含んだ乾いた笑い。


 ……そもそも彼らがゾンビではない他の何かだったとしてもこの傷ではもう俺は助からないだろう。

 あまりにも血を流しすぎた。


「……はぁ……はぁ……」


 意識が朦朧としてきて最早腕を動かすこともままならない。

 俺は荒い息を吐きながら目をつぶるとそのまま意識を闇の中へと手放した。

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