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銃弾の仕組み 1

書き溜めていたものが出てきたので、日の目を拝ませる意味でもぼちぼち出していきます。血を含む残酷な描写を心掛けていた時期に書いたものなので、そういったものが苦手な方は読まれないほうが良いかと思います。

朝の太陽が一日の始まりを告げ、町に一種異様な影を落とす。

辺りには長い歴史が窺える石造りの町並みが広がり、俯瞰すれば整然とした街並みがまるで絵画のように連なっていたのだろう。


その町は風化したような醜い断面と、火薬の臭いが立ち込める無人の部屋を空に晒している。

所々で銃声と爆音が響き、兵士達の呻き声があらゆる音の下地になる。

もはやどこの器官だったか判別できない肉塊が侵攻していく兵士達の後ろに並んでいる。


そんな街の中、兵士達のはるか先を行く物々しい武装をしている集団がいた。


迷彩服の上に特殊樹脂製の黒い防護服、黒いヘルメット、眼元には遮光性のあるガードをつけ、防護服と同じ無機質な光沢が足を覆っている。肩から中近距離掃討小銃を掛け、腰には護身用ではない大口径の銃。背嚢は行動を制限しない大きさで体に固定、しかし操作一つで取り外せるように普通の生活では考えられないほどに考え抜かれた構造をしている。兵士の全身に戦闘を有利に進めるためのありとあらゆる機能を詰め込んだ結果、戦闘する鎧を作ったような、そんな研究者のある種純粋な思いが込められている。しかしその中に入っている人間の中に鎧に着られている人間はいない。鎧によって生じる生身との齟齬を完全に理解し、それをむしろしなやかな行動に変えている。その身のこなしは訓練を受けただけで身につけることはできない。ある一定以上のセンスをもった、精鋭部隊の姿だ。

その先頭を歩いている二人の男は黒い軍服と一丁の拳銃という軽装にも拘らず、何者に犯しがたい空気を確保している。

リーダーらしい男が歩きながら煙草の煙を吐き出した。

二m近くある身長、広い肩幅、彫りの深い顔、そして刈り込まれた黒い髪。そして、雄弁に語る少年の様な輝きと、軍人の酷薄さを並列に存在させた褐色の瞳。見る者に決して忘れる事の出来ない深い印象を与える。背中を見るだけで彼に命を預けたくなるような、まさに上に立つ者が持っているべきカリスマが息をするように自然に備わっている。

肩に付いた徽章は男の階級が〈ネズ〉であるということを示してはいるが、その雰囲気は明らかにそんな身分では収まりきるものではない。

だが、そんな彼にも疲れが色濃く出ており目が充血で真っ赤だ。

「煙草なんか吸うものじゃアりません」

その横にいた副官らしい男が口にくわえられていた煙草を取り上げる。

最も美しい宝石を、そのまま人間にした様な男だ。長めの金髪に冷たく光る青い双眸、軍人らしからぬ程に白い肌、そして、なにより神話の中にしか存在しない顔の造作は、周囲に光を放っている。

その外見は隣のリーダーと対照的に人を激しく拒絶する性質のものだ。リーダーが全てを飲み込む凪海だとするなら、彼は国を分断する程に苛烈な永久凍土に等しい。

生き物離れした彼の視線は、無機物のようで、周囲の人間をぞっとさせる。

「いまさら体のことを気にすることもないだろ」

暖かみのある低音が耳に届く。かなり印象的な声だ。

「私があなたの健康のことなんて気にすルわけがないでしょ。朝かラ煙草を吸うのは不健全だ

と言っているんです」

対して、美しいのだが聞くのが怖ろしい冷気が発せられる。

その言葉には微かに訛りがある。

「……………………」

リーダーは深く溜息をつくと、懐の煙草も副官に預ける。

「よくできマした」

と言って、副官は没収した煙草の箱から一本取り出し火を付けた。

「……………ニライ」

「なんですカ?」

煙草を指で挟みながらリーダーの方向を向く。その動作は額に入った一枚の絵の様だ。だが横の男は誤魔化されない。

「朝から煙草を吸うのは不健全なんだろ?」

声のトーンが低くなる。怒っている訳でも不機嫌になっている訳でもないが、聞いている人間をそこはかとなく不安にさせる。

彼の声にはそれほどの迫力があった。

「何のことでスか?」

副官は煙草を銜えて小首を傾げる。

「朝だから吸ったらいけないんだろ?」

ニライはこれ見よがしに煙草の煙を吐き出し、顔を顰めた。

「ナユタ、この煙草弱くなイですか?」

「自分のを吸え」

「弱い煙草を吸ってルと肺の奥まで煙が行って早死しますよ」

「うるさい」

ナユタが不機嫌そうに言うと、辺りを見渡した。


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