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神との激突

「っぐ!?」


炎の体躯から振り下ろされる拳を十度ほど防いだ所で、思わず声が漏れる。


重量や拳の純粋な威力はそこまでではない。


リリアの魔法の方が威力だけを見れば遥かに上回るだろう。


両腕が健在の今、拳だけなら受け止めることに難はない。


だが、拳に籠る熱は別である。


俺の大楯も、放たれた炎やドラゴンのブレスならば防げるが……炎そのものに殴りかかられてしまってはその熱を全てその身に受けなければならない。


この程度の炎で盾が溶けると言う心配はないが、盾に籠る熱は俺の腕を焼き、むせかえるような熱波は火炙りにでもされているかのように全身を焦げ付かせる。


加えて、絶えず炎には精神を摩耗させ、相手を(まき)に変えてしまう呪いが振り撒かれている。


「っとに、厄介な呪いだよ全く」


容赦なく振り下ろされる連打が15を超えたところで、ぐらりと視界が揺れる。


気付け薬による激痛のお陰で意識を失う事はかろうじて避けられているが。


熱波に呪いにきつけの痛みの三重苦に、全身が悲鳴を上げる。


このままじゃ、呪いの前に痛みで気を失ってしまいそうだ。


【………】


炎は拳を引くと、何かを値踏みするようにこちらを見つめる。


拳を受け止められたことに驚いているのか?

呪いが効かないことを訝しんでいるのか?


どちらかは分からないが、このままでは埒が明かない……そう判断をしたのだろう。


【おおおおおおおおおお】


生ける炎は祈りを捧げる村人達に視線を送る。



「おぉ!我らが神がこちらに視線、を゛?らややたからまさ、ん!!?」


「ナムコチヤサキナハタォ屋やなまた!!!!?」


狂乱していた信者達の理性が一瞬で消え去り、半狂乱状態でイモムシのように広場をのたうち回り始める。


そんな様子に炎は満足げに口元を緩めると。


「おい、まさか……」


広場に顔を押しつけるように炎は飛び込み、村人達を焼き尽くし始めた。


「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」」


絶叫が夜空に響き渡り、広場に設置された藁人形と一緒に、村人達は男、女関係なく炎に飲まれ咀嚼されるように焼き尽くされる。


広場に響く悲鳴が一つ、また一つと消えて行くにつれ、炎はその度に一段、二段と薪をくべられた炎のようにその身を巨大にさせていく。


やがて、村人の悲鳴がは聞こえなくなると、炎は村全体を包み込むほどの大きさにまで育ち、こちらに向き直り拳を振り上げる。


──これでもう、そんな盾では防ぎ切れないぞ。


炎の中に浮かぶ双眸がそう宣言するかのように光る。


だが。


「アイアス!!」


空に響き渡るようなドロシーの声。


それは準備が完了したと言う合図であり。


「どうやら、食事に時間をかけすぎたようだな」


【!!?】


何かを察したのか、炎の神は咄嗟にドロシーのいる檻の方へと視線を向けるが。


「よそ見をするな。お前の相手はまだ俺だ」


その隙をついて俺は盾を投擲し、炎の神の顎を撃ち抜く。


【!!?ごっ!?】


ぐらりと巨体が揺れ、炎の体が村の外に流れる川へと倒れ込む。


同時に大量の水蒸気が上がり、川の水が一瞬で干上がっていく。


川の水で鎮火、とは流石に行かないようではあったが。


「やれ! ドロシー!!」


お膳立てとしては満点の出来栄えであり、俺の合図に呼応するように、聖剣が抜き放たれる。



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