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カルト

「は、はぁ!? ま、ま、待ってくれドロシー! それはいくらなんでも暴論すぎないかい? だって、なんのために!?」


「周りを見ればなんとなく察しがつくでしょうセルゲイ。これ十中八九儀式の生贄ですよ。我々がこうしてとっ捕まって、加えてご丁寧にあそこに巨大な祭壇とどこかで見たような藁人形がおったってるんです。偉大な神に私たちはこれから捧げられるんですよ」


「生贄って」


 セルゲイの顔が青ざめる。

 檻の外に目をやれば、そこには村人たちが楽しげに談笑をしながら儀式の準備を進めている。


 巨大な藁人形は小屋の中や村長の家の中とは比べ物にならないほど巨大であり、村人達はその人形を崇めるように祈りを捧げている。


 何かの魔法により操られてるわけでも、強制されているわけでもない。


 彼らにとって、この儀式はさも当たり前の事であるように、淡々と檻の周りに火を放つ準備を進めているのだ。


「ふむ。ということはこの儀式は召喚の儀式か」


「形態や、藁人形と檻の位置から鑑みるとそうですね。言うなれば私たちが今いるこの場所は食卓と言ったところでしょうか? 儀式が完成した時、次元の壁を食い破ってみただけで正気を失うような何かが姿を現すって寸法でしょうね。今までは呪いをかけるだけでしたが、規模から見るに焼き殺されるのか、それとも出てきた怪物にパクリと頭から齧られるのかは知りませんが、まぁろくな死に方は出来ないでしょうね」


「なるほど、そんな怪物を呼び出されちゃ森の神霊もたまったもんじゃないな」


「えぇ、森で行方不明者が相次いだのは神霊による妨害工作でしょう。その他にも様々な妨害工作があったはずです。村の方も村の地下で儀式を行ったり工夫を凝らしてみたものの、芳しくなかったのでしょうね。だからこそ、隠れて儀式を完遂させるのではなく、森の神霊を排除しようと決意したというところですかね?」


「排除って、まさか、それじゃあ僕たちは」


「森の怪物が呪いを振り撒いてるなんて話をでっち上げてまんまと騙されたのが、この地域で一番腕の立つ冒険者と、お人好しで騙されやすいってことで有名な魔法使いだったってわけだ」


「そんな……だまされた? この僕が?」


「そのようです。村長の外面の良さに騙されました。狂ってるとわかった上で普通を装うことができる人間ほど、厄介な人間はいませんよ全く。おかげでカルト宗教の儀式の餌としてまんまと協力をしてしまったようです。エルナムが恐れていたのは、森の怪物ではなくここの村人たちだったのですね」


「く、狂ってる……な、なんでこんな狂った儀式に巻き込まれなきゃいけないんだよ。火炙りなら身内だけでやってくれ!?僕たちになんの恨みがあるっていうんだ!!」


 檻の中からセルゲイは叫ぶが、代わりに村人たちは感謝するようにセルゲイに祈りを捧げる。


「無駄ですよ。彼らにとって魔物の餌になることは名誉です、我々は羨望の対象でしかありません」


「そんな……」


「カルト教団と森の精霊の縄張り争いに巻き込まれた、と言ったところか」


「なに落ち着いてるんだよ、僕たち、このままじゃ火炙りにされちゃうんだろ!? 何そんな他人事みたいに落ち着き払ってるんだよ!?」


「慌てたって始まらんだろう銀等級、こういう時こそ、地域一の冒険者の経験が生きる時だろ?」


「こんな武器も取り上げられて、腕を縛られて!? 何ができるってんだよちくしょう!!」


「やれやれ、冗談も通じんか。何も出来ないなら、黙ってそこで眠ってろルーキー。明日の朝には無事に家まで返してやるよ」


「な、何を偉そうに銅等級が! お前だって、腕を縛られて……て、あれ? お前手錠、どうした?」


 きょとんとするセルゲイに、俺は引きちぎって放り捨てた手錠の残骸を指差す。


「このぐらい、やり方さえわかれば簡単に引きちぎれる」


「は? いや、この手錠鉄なんですけど」


「いやいや、流石に引きちぎるのは貴方ぐらいにしか出来ない芸当ですよアイアス。まぁ焼き切るぐらいなら楽勝でしょうけど」


 そういうと、ドロシーの手錠が音を立てて地面に落ちる。


 どうやら聖剣の熱で焼き切ったようだ。


「そうか」


「いやいやいや!!? 杖なしでなんで魔法放ってるのさドロシーも!? おかしいだろ!? え、何俺がおかしいの?」


「あーはいはい。あとで外してあげますから、少しそこで大人しくしててください……さてアイアス。ここまでは良いとして、二人して仲良く捕まっている以上、問題はこのあとです」



「だな……儀式の完成と同時に俺も意識を失った。子屋でセルゲイが陥ったのと全く同じ、儀式の達成と同時に現れるのは、恐らくは精神干渉系の魔法を放つ……もしくは見ただけで正気を失う「ナニカ」だろうな」


「魔法は私には効きませんから、結論現れるのは見ただけで正気を失う類の怪物でしょうね。この手の類は厄介です。何か対策はありますか?」


「そうだな……不死鳥の霊薬も精神汚染には効果がない。打つ手なし……と言いたいところだが」


「あるんですね? 方法が」


「まぁな。今こそ乙女の嗜(撲殺兵器)みの出番だ」


 □


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほどねー、騙された、ちょっと違和感は感じたんだが。 なかなかおもしろいです。楽しませてもらってます。
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