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気になること

「おぉ……ドロシー様、アイアス様……話は村のものから聞いております。森の怪物を退治していただき……なんとお礼を言っていいか」


  報告へ行くと、家の前で村長は俺たちを出迎えた。

  その表情は朗らかで、他の村人達のように声に出したり行動に起こしたりはしないが……その表情から他の誰よりも喜びを噛み締めていることが十分に伝わった。


「礼には及びません。ただ我々は依頼を達成しただけですから。冒険者として当たり前のことをしただけです。 それよりも、セルゲイ達のことですが」


「ええ、今は先に戻られたお二人と一緒に落ち着ける場所で休んでもらっています……森の怪異を目の当たりにして相当疲弊をしたのでしょう……みなさまぐっすりとお休みになられています」


「そうですか……ちなみにエルナムさんは?」


「ご安心を、彼もまた落ち着きました。多少時間はかかりましたがね、ドロシー様の薬がよく効きました……何から何まで誠に申し訳ない」


「いえ……皆が無事であることに越したことはありませんから。全員無事で何よりです」


 村長の言葉にドロシーはほっと胸を撫で下ろす。


 先に戻っていたリタとグレッグはどうやら森の怪異に巻き込まれることなく村に戻ることができていたようだ。


 ……結局、堕落した魔物からは原因であったであろう行商人の手がかりは見つからなかったことが残念だが……まぁあれだけ危険な行動をとっていたセルゲイ達が無事だったのだ、よしとしよう。


「じゃあ……これで俺たちの役目は終わりだな」


 ドロシーと村長に依頼の達成を告げると、ドロシーもそれに頷く。


「そうですね。木に変えられてしまった被害者もまた一人増えてしまったことですし、冬が来る前に解呪の薬の量産に着手をしようと思います……村長さん、もう少しだけ辛抱していただけますか?」


「もちろんですとも⁉︎ 貴方のおかげで冬を越えられるのです。これ以上何を望みましょう……本当に貴方様は我々の恩人です。このご恩はいつか、我らの名誉にかけてお返しさせていただければと……」


「その感謝の言葉だけで十分ですよ……私の願いは、みなさまが無事に冬を過ごしてくれることだけです……それではこれで」


「あぁ!! お待ちを、二人とも」


 そう言ってクラウソラスに戻ろうとする俺たちを、不意に村長は呼び止めた。


「どうしました?」


「あ、いや……実は今回、魔物討伐の感謝の意を込めて、宴を開くことになったのですが……恩人であるおふた型にもぜひ参加をしていただければとも思ったのですが」


「宴……ですか」


 ドロシーは少しだけ嬉しそうに耳をピンと立たせる。


 出たな酒好き。


「おいドロシー、呑気に宴なんてしててもいいのか? 冬までに結構な人数の呪いを解かなきゃいけないんだろ?」


「しかし、せっかく我々に感謝の意として宴を催してくれると言ってくれているのです。無下に断るのもまた失礼と言うものではないでしょうか?」


「確かに、そうかもしれないが」


「それに、今からクラウソラスに向かったとしても到着は夜です。どちらにせよすぐに薬の量産なんて始められませんよ」


「そうなのか……」


「えぇ、ですので今日はお酒で英気を養い、明日クラウソラスに戻ってから本格的な解呪の魔法薬の量産に着手をしようと思います……一応計算では、二週間もあれば木に変わった方々全員に薬が行き渡るはずですから、冬にまではまだ時間はありますよ」


 安心してください、とドロシーは付け加えて俺に頷く。


 要は酒が飲みたいだけなのだが……まぁ仕事はしっかりすると言っているわけだし、自由にさせてあげるのが良さそうだ。


「まぁ……ハメ外しすぎるなよ」


「やった」


 ドロシーは嬉しそうに小さく跳ねると、村長の方へと向き直る。


「どうやらご参加いただける様で、ありがとうございます。小さな村ですので、ご満足いただけるかは些か心配ですが……宴の準備が出来ましたら使いのものをよこします。それまではどうぞこちらでお寛ぎください」


 そう言うと村長は席を立つ。


 部屋に残された俺とドロシーは顔を見合わせる。


「時間まで自由行動か」


「隙なのは性に合いませんね……私は少し村を散策しようかなと思います。セルゲイ達の様子も気になりますし……アイアスはどうします?」


「俺は残る。少し調べたいことがあるんでな」


「調べたいこと?」


「あぁ、まだ少し気になることがあってな。 なに、たいした用事じゃない。杞憂だったらそれまでの話だ」


 俺の言葉にドロシーは「そうですか」と呟いて村長の家を出る。


「ではでは宴会で!」


「あぁ。はしゃいで迷惑かけんなよ」


「私は子供か!?」


 失礼な、と言いながらドロシーは頬を膨らませて家を出る。



「さて、と」



 ドロシーが村長の家から出るのを見送り、俺は空になった村長の家をうろうろと歩きながら、キッチンやリビングを見て回る。


 所狭しと並べられている木彫りの民芸品や呪い道具。

 一見、ありふれた家のように見えるその光景だが。


「ふむ」


 足元を見ると、床の色が僅かに違う場所がある。

 ここに俺たちが来る前に、戸棚を動かした跡だ。


「俺たちがここに来た時にこれはなかった。この短時間で模様替えもないだろう……それに」


 しゃがんで見ると、戸棚に踏まれるように落ちている一本の茶色い毛が見つかる。


「ここのエルフ族の髪は金色……この短さと色からして持ち主は……ディオゲネスか」


 確かエルナムはここに運び込むと言っていた。

 恐らく犬の毛は運ばれている時に落ちたのだろう。


 そして、ディオゲネスの毛がこうして戸棚の下から顔を覗かせているということは……。


「地下があるな」


 そう判断をして、戸棚を動かす。


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