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喝采

「善良なるエルフ村の皆様ご覧ください! 呪いの元凶であった魔物は無事に撃ち倒されました! これでもう今まで通り、冬を超える準備が出来るはずです!」


 倒した怪物の首を指差しながらドロシーは広場に集まった村人たちにそう告げる。


 高々と掲げられた魔物の首。


 奇々怪界な出立ちのそれに、村人たちは初め恐怖に駆られてどよめくが。


 怪物がもう死んでいるとわかると、村人たちから歓喜の声が上がり、続けて怪物を倒したドロシーに対し惜しみない拍手喝采が送られる。


 ちなみに俺は首を高々と掲げる係。


 本来なら魔物の攻撃を防ぎ切った功績を讃えられて然るべきだろうが、村人の関心はドロシーにしかない様だ。


 まぁ、盾の役割なんていつもそんなもんなので構わないのだが。


「余所者に対して警戒心が強い、ねぇ……」


 余所者を、それも宗教も髪の色さえ違うドロシーに対して感謝の祈りを捧げる村人たちに、俺は一つため息を漏らす。


「ドロシー様、貴方様のお陰でまた恐ろしく冷たい冬を超えることが出来そうです。 あぁ、春の緑を見ることができる、鳥たちの祝福の声をまた聞くことができる。ありがとうございます。偉大なる賢者様。ありがとうございます。心より感謝を!!」


「灰色の賢者、ドロシー様に感謝を!」


「「感謝を! 感謝を! 感謝を!」」


 歌う様にドロシーへと投げかけられる感謝の言葉は、やがて合唱のように村全体を包み込む。


「まるで神様みたいな扱いだな」


 呪いに苦しめられていたとはいえ、少々大袈裟に過ぎる。


 これじゃぁ感謝というより信仰だ。


「確かに、多少大袈裟な気もしなくはないですが、用が済んだ途端に余所者扱いされるよりマシじゃないですか?」


「そりゃそうだが……あれはどう考えても異常だろう」


 ちらりと横目で村人たちを見ると、そこには跪きドロシーに祈りの言葉を捧げる村人たちの姿。


 中には頭を地面に擦り付けている奴までいる。


 いくら感謝されてるとは言え異様な光景だ。


「まぁまぁ、アイアスも私も長くロマリア王城での化かし合いに巻き込まれて来ましたからね。疑い深くなるのも無理からぬ話ではあります。ですが、相手の真摯な態度にすら斜に構えて受け取るのは、いささか礼を失するのではありませんか?」


「────そうは言うがな」


「辺境の地です。きっとこの村の人たちはロマリアよりも、人への恩というものを大事にする人々なのですよ。えぇ、きっとそうですよ」


「はぁ……分かった。そう言うことにしておこう」


 ドロシーの言葉に納得したわけではなかった。


 だが、この後この村とは報酬をもらってお別れするだけの仲なのだから、わざわざ波風を立てる必要はない……と言う意味ではドロシーの言うことはもっともだった。


「うん! では、さっさと村長から報酬をもらって帰りましょう! 今から帰れば、夕方には村に着くはずです。報酬の分前やその他諸々の話は、酒場でしても構いませんか?」


「あぁ、なんでも構わんよ。だが……」


「今夜は私の奢り、でしょ? アイアスのお陰でこいつを見つけられたんです。喜んで奢らせていただきますとも」


「そうか。ならさっさと行こう……あそこの店は席が埋まりやすいからな」


「了解です!」


 上機嫌にドロシーは返事をすると、パチンと指を鳴らす。


 と、俺の手にあった怪物の首がふわりと宙に浮き、一瞬だけ炎が炎が灯ると跡形もなく灰になった。


「お前な、供養もしないで焼き尽くすなんて。化けて出てきても知らんぞ?」


「構いませんよ。むしろ私を狙ってくれる分ならその方が好都合です。ここの人たちに危害が及びませんからね。ほらほら、さっさと村長のところに行きますよアイアス!」


「はぁ……はいはい」


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