侵入者
「……ドロシー、下がれ」
「ええ」
ドロシーを下がらせて俺は扉に手をかける。
扉の向こうでは呼吸音も心臓の音も聞こえない。
──みし、みし。
だが、足音は確かにそれが扉の向こうにいることを俺たちに知らせてくる。
「何かわかりますかアイアス?」
「──わからん……幽鬼の類か、あるいは精霊か……村人でないことは確かだが」
「じゃあ敵ですね」
小声でドロシーは足音の主を敵と判断して杖を構える。
相変わらず血の気が多い魔法使いだが、この状況ではドロシーの判断の方が正しそうだ。
俺はナイフを引き抜いて扉の前に立ち、先手必勝の言葉にならい急襲を仕掛けることにする。
みし、みし、みっ───扉の前で、足音が止む。
【ダンッ】
合図と同時に俺は扉を蹴り開ける。
大袈裟な音を立てて扉が重いものにぶつかった感触がし、足音の主がゴロリと床に倒れる。
その隙に俺は倒れた人影に飛びかかり、ナイフを突き立て────
「!? うわあああああ」
喉首を掻き切る直前、弱々しい悲鳴に思わず手が止まる。
同情をした訳ではない。
そこにいたのが、先ほど村で出会ったセルゲイであったからである。
「セルゲイ?」
「お、お前は、銅等級!! な、な、なんでこんなところに!? 」
狼狽しながら叫ぶセルゲイにドロシーは首を傾げる。
「それはこちらのセリフです。あなたこそどうしてこんなところに? それに、仲間の皆さんは?」
「こ、小屋の外で待機させてるよ。怪しい話し声が聞こえたから確認しにきたんだ。と言うか早くどけよ!」
怒鳴るセルゲイにため息をついてナイフをしまい、立ち上がらせる。
「一人できたのか?」
「当然だろ? 狭い通路じゃ大人数だとかえって危険になる。冒険者としての常識だぞ? まぁ、銅等級の君じゃまだそんな発想には至らなくてもしょうがないかもしれないけどね!」
「ああ、銀等級様は流石だな」
むしろこれだけ部屋の多い小屋に侵入する時は互いに背後を守るように侵入をするのが基本なのだが……ま、どうでもいいから黙っておこう。
「全く、ドロシーの足を引っ張るなよな銅等級。それよりもドロシー、ここは一体なんなんだい?」
ドロシーに話しかける時だけ声色を変えるセルゲイ。
そんな態度にドロシーは少しうんざりとしたような表情をむけて、杖で雑に藁人形の祭壇を指し示す。
「何者かの信仰の跡です。やはりこの森には何者かが潜んでいます」
「うわぁ、確かにやばいねこの人形の数。犯人はよっぽどお人形遊びが好きみたいだね」
人形な山を見たセルゲイは、小馬鹿にするように部屋へと入ると、近くにあった藁人形を蹴り倒す。
「褒められた行動じゃないな。魔力を感じられないとは言え、得体の知れない呪物をぞんざいに扱うのは危険だ」
軽率な行動を俺は思わず咎めるが。
「あ? なんだよ? 銅等級が銀等級の僕に指図するのか?」
聞く耳を持たないと言ったようにセルゲイは近くにあった藁人形を更にもう一体蹴り倒す。
「はぁ……忠告はしたからな」
力づくで止めることも出来たが、外で待つコイツの仲間3人を相手取るリスクを負ってまでこいつのことを助ける理由もない。
視線を送るとドロシーも同じ考えなようで、俺たちはひと足先に小屋の外へと出たのであった。
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